第三十三話 野球チームを作りました!


「人生の冒険者の獲物というか収入の対策はそれでいいとして、問題は魔導士協会の連中の死骸放置か?」


「すまんのトーマ。伐採作業の手伝いにもなるかと思って許可された場所で伐採しながら探索してた連中が迷惑をかけた」


「わざわざ魔石だけ抜いて放置するのもなあ」


「マジックボックスを持ってる連中じゃから回収しておけと指導はしたので今後は無くなるとは思うんじゃが」


「いちいち持って帰って処理するのがめんどくさいなら誰か一人にまとめて持たせてギルドに持ってこさせるか、巡回してる人生の冒険者に渡してもいいだろうけど」


「そうじゃの、魔導士協会の連中にとっては無用の物でも需要はあるじゃろうからな」


「魔石を抜かれててもまだ素材としては利用価値はあるし、ギルドの利益が増えればこちらとしてもありがたい」


「わかったぞい」



 どれくらいの量の素材が人生の冒険者ギルドに持ち込まれるのかはわからんが、ある程度利益が見込めるなら職業斡旋ギルドの方へ予算を回せるしな。

 魔物の皮とかがいきなり大量に市場に流れたりすると価値が暴落したりして困るだろうから、そのあたりはギルドの方で調整しなきゃだけど。



「じゃあ次」


「こちらです」



 女官が差し出してきた書類を見ると、野球チームの設立に関する報告書だった。

 なるほど、当初は騎士団と武官の二チームって話だったが三チームになったのか。



「っておい……。なんで三チーム目がイザベラ学園チームなんだよ」


「と、おっしゃられても……。閣下はご存じなかったのですか?」


「知らん知らん」


「おかしいですね、イザベラ学園長から正式な書類が提出されていたのですが」


「婆さん何やってんだ。うちに帰ったらまた事情聴取をしないと」


「閣下も選手登録されてますが……」


「……マジかよ」


「四月から開幕して、隔週で総当たり戦をします。と言っても1日で三試合ですけどね」


「いきなりダブルヘッダーで試合するのかよ。先発ピッチャーが二枚必要じゃないか」


「ですのでベンチ登録枠は余裕を持たせておきます。でないと連投になるブルペンが大変ですからね」


「滅茶苦茶詳しいなおい」


「十月までそれを行い、優勝チームを決めます。亜人国家連合との統一選はまだ未定ですが、三チームの中から選抜して代表チームを作ろうと思います」



 ペラペラとやたら枚数のある書類をめくっていくと『ファルケンブルク野球リーグ日程表』なるものが入っていた。

 凄く本格的だな。いやまあ公式行事だから本格的にやるのは当たり前なんだけど。



「ほんとだ、もう日程まで決まってるじゃないか」


「開幕に間に合えば拡張後の新しい区画に野球場を建設するのですが、万一間に合わなかった場合は校庭のグラウンドで行います」


「校庭だと観客を入れるスペースがほとんどないからな」


「遊園地と同じ区画に野球場を作るボールパーク構想なので、できれば開幕には間に合わせたいのですけれど」


「すっごいやる気出してるな」


「経済効果を試算した結果ですね。遊園地単体や野球場単体より、複合施設にしたほうが相乗効果ではるかに経済効果が上がるんです」


「まあ流行るかどうかわからない野球場単体よりは、ある程度好評が得られそうな遊園地に組み込んじゃったほうが野球観戦する人口も増えそうだけど」


「あとは魔法の使用制限なのですが、魔導士協会の協力で魔導具を試作して頂きました」


「これじゃな」



 コトリと細いブレスレットのような腕輪が爺さんの前に置かれる。



「魔法封じの腕輪か」


「いんや」


「魔法封じの腕輪は何度か見たことがあるがそれじゃないのか? 俺が見たのは前の領主と息子に使った凄くゴツかったやつけど」


「スポーツをしてても気にならないサイズにするには色々制約があっての。これは魔法の発動を感知すると爆発するんじゃ」


「アホじゃないの?」


「まあ爆発したら肘から先がなくなるが、半日以内に魔導士協会まで連れてくれば再生できるしの」


「いやいやいやいや、ガキんちょどもも野球をやるんだからダメだって。魔法封じの腕輪を小さくする方向でやれっての」


「しかしのう、魔法を感知すると爆発する腕輪ってかっこいいじゃろ?」


「ガキんちょどもに危害を加えるような魔導具は絶対に許さないからな。魔導士協会を潰してでも辞めさせるぞ爺さん」



 マジックボックスから一期一振を取り出して抜刀する。

 極光の雷剣を発動させて爺さんに斬りかかっても魔法で防がれるだろうけどな。



「待て待て、わかったわかった。サイズを小さくする方向で作り直すから刀をしまってくれ」


「爺さんはうちのガキんちょどもが魔法適性持ちだらけなのを知ってるだろ。そういう冗談はその内シャレにならなくなるからな」


「ったくヘタレの癖にこういうときだけは直情径行なんじゃよなトーマは」


「うるせー」



 一期一振を納刀してマジックボックスに収納する。

 つか領主が抜刀しても周囲の連中は表情すら変えなかったな。

 というか悠長にお茶をすすってたりしてて空気が緩い。



「閣下、ひとまず試合日程も組み終わってますし、道具やユニフォームの発注も終わってますのでイザベラ学園チームは正式登録とさせてください」


「まあしょうがないか。あとで婆さんを問い詰める件は変わらないが」



 野球リーグの開催も決定し、そのあとは細々した議題や報告などが続く。

 今日は珍しくアイリーン以外の担当官からの報告などもあった。



「閣下、本日の議題はこれで終了いたしました」


「そうか、じゃあ解散するか」


「あの、閣下。よろしいでしょうか」



 俺が解散宣言を出すと、アイリーンの横に座るおっさんが手を上げる。



「ん、良いぞ」


「今日はおやつは無いのですか?」



 アホな発言が会議室内に響き渡ると「そうだそうだ、おやつが無いぞ」「良く言った」「我々はクレア様の昼食とおやつ目当てでここにいるんだ」と急に会議室内がざわつき始める。

 なんなのこいつら。今とんでもないことを言ったやつが混じってたよな?

 とはいえ「もし会議が長引いたときのためにおやつも持って行ってくださいね兄さま」とクレアからおやつは持たされているのだ。



「……クレアからは肉まんを預かっている」



 仕方なしにマジックボックスから肉まんの入った蒸篭を取り出す。

 うわ、マジックボックスから取り出した瞬間肉まんの匂いが会議室中に広がったぞ。



「「「うおおおお!」」」



 女官にその巨大な蒸篭を渡し肉まんを配らせる。

 仕事は真面目にやってるっぽいから良いんだけど、随分と緩いなこいつら。

 まあクレアの料理を褒められるのは悪い気はしないしな。


 肉まんを食い終わったのを確認して会議を解散する。

 少しずつ町が発展していく実感はあるが、まだまだ生活が厳しい世帯も多いしもっと頑張らないと。

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