第六話 命を拾う


 ブラックバッファローから切り取った十キロほどのサーロインもあっという間になくなった。

 マジックボックスからウインナーやベーコンを出して焼き、野菜も追加していく。

 本当に良く食うなこいつら。特にミコトとエマは、エリナとクレアに負けないくらい食べているし、かといってぽっこりおなかになってるわけでもないのが不思議だ。

 魔力に変換してると言っても質量保存の法則とかどうなってんだ……。


 とはいいつつ、実は俺もこの世界に来てからは少しずつ食事量が増えているし、それに伴い魔力も増えている。

 健康診断でも問題ないからとスルーしてたけどな。



「はいエマちゃん、お肉だよ!」


「ありがとーみこねー!」



 そして娘姉妹がずっといちゃいちゃしてる。平和すぎだ、食べてる量は異常だけど。



「お兄ちゃん美味しいね!」


「ああ、たまにはバーベキューも良いよな」


「そうですよ兄さま。意外とお安く済みますしね」


「クレアはしっかりしてるなー」


「てへへ、ありがとうございます兄さま」


「手放しで褒めてるわけじゃないんだけどな」



 なんだかんだ騒がしいバーベキューも終わり、ミコトとエマが満足そうに椅子に座っている。



「ミコトちゃんエマちゃん、タピる?」


「「タピるタピる!」」



 こいつらいつの間にタピるなんて言葉使うようになってんだ……。あとまだ腹に入るのかよ。



「あ、姉さま、私が準備しますよ」


「大丈夫! クレアは座ってて。クレアもお兄ちゃんもタピる?」


「ではいただきます。ありがとうございます姉さま」


「おう、タピるぞ」


「わかった!」



 エリナは自身のマジックボックスから、戻し済みのタピオカが入った瓶を取り出して人数分のカップにタピオカを入れ、ジュースを注ぐ。


 エリナの入れてくれたタピオカドリンクを飲みながら食休みをする。

 このあとの狩りはどうするかなー。このまま狩りを続行するのもな。

 アイリーンに「可能ならば周辺のダッシュエミューを減らしておいてください」と言われていたので、帰るときには範囲魔法ぶっぱして視界内のダッシュエミューだけでも片付けてから帰ろうと思ってたけど、あんな偉そうなこと言っちゃったしなあ。


 さてさてどうするか。と考えていると、魔導キャンピングカーが動き出す。



<バシュッ>



 小型ミサイルである、改良ドラゴンキラーsperKAIが一発だけ発射される。

 車外だと音声案内が聞こえないから、急に動き出して怖い。


 一発だけってことは竜種じゃないのかね?

 魔物はどこにいるんだ? とミサイルの飛ぶ方向を見ていると、真上に向かって飛んでいく。



「パパ! おっきい鳥さん!」



 ミコトがミサイルの目標っぽい、空を飛んでいる小さな魔物を指さしながら言う。



「んー、あれは鳥じゃなくてワイバーンじゃないか? 脅威レベルAだし」


「ぱぱ、わいばーんさんはわるいまものなの?」


「エマみたいな子どもを攫ったり人を襲ったりするから、すぐに駆除しないと駄目なんだぞ」


「そうなんだね!」



 一般人にとっては対抗手段が弓やバリスタくらいしかない驚異的な魔物だ。ただ爺さんからはハズレ扱いされているけどな。

 素材も高級品扱いだし。


 ドパンと小さく聞こえると、ワイバーンが空から落ちてくる。これは不味いな!



「クレア!」


「はい兄さま! 天の盾アイギス!」


「エリナ! ミコトとエマを!」


「うんお兄ちゃん! おいでミコトちゃんエマちゃん! 防御結界ディフェンスシールド!」



 落下してくるワーバーンに備えてクレアが上級魔法の結界を展開し、エリナがミコトとエマを抱きかかえた上で更に防御結界を展開する。

 魔導キャンピングカーが追撃をしないからもう死んでるとは思うんだが、死体が直撃しても危ないし、毒牙や毒の尻尾なんかを持ってる種類もいるみたいだし、警戒しておくに越したことは無い。

 マジックボックスから愛刀の一期一振を取り出し鯉口を切って待ち構えるが、ワイバーンは俺たちの二十メートル先ほどに落下する。



「危険は無いようだな……」



 腹部に小さな穴を開け、不自然に膨らんでいる以外は特に外傷の無いワイバーンを注意深く観察しながら近づいていく。



「兄さま、生命反応が無いから大丈夫ですよ」


「あそ」



 ビビって恐る恐る近づいている俺に、もう危険は無いとクレアが教えてくれた瞬間、娘ふたりがエリナの腕の中からワイバーンに向けて走り出す。



「「わいばーんさんごめんなさい!」」



 ワイバーンの死体に謝るふたり。

 うーん、謝る必要はないんだけどな。放置したら危険な魔物だし。

 とはいえ、こいつは殺しても良いみたいな差をつけるのもな。

 この世界の倫理観ってどんな感じなんだろうか。婆さんやクリス、あとは平民の職員あたりの意見も聞いてみないと。

 まああまり魔物の死体を幼児に見せるのも良くなさそうだしさっさとマジックボックスに収納するか。



「ミコト、エマ・マジックボックスに収納するぞー」


「パパ! まって!」


「ぱぱおくちにたまご!」



 ん? とワイバーンの口を見ると、鶏卵サイズの卵をひとつ咥えていた。L玉くらいか?

 このワイバーンの卵かね?



「兄さま、これ鳥の卵ですね。種類まではわかりませんが、大きさから言うと鶏ですかね?」


「でもなんで咥えてたんだろうねー」


「野鳥の巣でも襲ったんだろ。割れてないから元の場所に戻したいが、場所がわからんな」


「パパ! わたしがあたためる!」


「えまも!」



 ミコトとエマがキラキラした目で挙手をしてきた。

 うーん、落ちてきた衝撃で卵の中身がぐちゃぐちゃで孵らないかもしれないし、たしかに鶏卵っぽいけど、危険な動物が出てきても危ないしな。

 でも生き物を育てるっていうのは勉強になるし、どうするかな……。



「割れては無いけど、あの高さから落ちてきたし孵らないかもしれないぞ。それに危険な動物だと判明したら処分するぞ。それでもいいか?」


「「うん!」」



 娘ふたりは、ワイバーンの口から卵をそっと取り出すと「やったー」とはしゃぎだす。


「お前たち今は胸甲をしてるんだから胸に抱えたりするなよ、あとそっと優しく持つように」


「「はーい!」」



 結局そのあと、娘ふたりは交代で卵を手で温めだしたので、狩りは中止。

 もちろん周辺のダッシュエミュー殲滅もキャンセルとメイドさんに伝えておいた。


 卵、温め方とか調べないとな。

 無事に安全な鶏が産まれてくれればいいけど、詳しい人間に調べさせないとな。

 いざとなったら普通の卵とこっそり入れ替えないと。



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