第九話 体を鍛えよう


 日課の狩りを早めに終えた俺とエリナは、久々に託児所で昼食を摂っていた。

 地竜のオークション売却額が税金とオークション利用料を引かれても百六十枚だった事に軽くビビったが、納税ってそのまま領地の収益だよなって考えたら金の入る財布が変わるだけじゃねと思ったのは内緒だ。

 政変が起ったことはまだ一部上層部しか知れ渡ってないし、まだ正式な承認が得られてないので俺の登録証もまだ変化していない。

 と言っても流石に承認されたあとは登録証の書き換えが必要なので、それ以降は事務員にはバレるが。


 マジックボックスはまだ所有者登録手続きが終わって無いのと、あの父子のマジックボックスのデザインが成金趣味だったのでシンプルなものに修正するように言っておいたので、今日もいつものように籠を背負って向かった。

 リヤカーはもういちいち組み立て直すのがめんどくさいので、ガキんちょ送迎用キャリアカーとして余生を過ごしてもらう。



「お兄様! そろそろ始めても良いと思うのですが!」


「どうした駄妹、とうとう言語能力までおかしくなったのか?」



 とうとうトチ狂ってしまった駄妹を汚物を見るような目で見る。



「ち、違いますお兄様! 十分滋養のある食事を続けたため、そろそろ本格的に体を鍛える時間を設けてもいいのではないでしょうか?」


「駄妹にしては良い事を言った。というかよく考えたらその辺はお前の管轄だったな」


「ありがとう存じますお兄様!」


「とはいえ、運動する場所がな。託児所と孤児院の間の外壁は取っ払ったから、外壁の内周をランニングして、裏庭で少し体を動かす程度だから、今までとあまり変わらん」


「とりあえずはその程度で十分だと思いますよ。当分は体を鍛える時間を増やす程度で考えておりますし。ただお兄様はこれから託児所の規模を大きくされるのでしょう? 周辺の空き家をどんどん接収すればいいのではありませんか?」


「うーん、職権濫用の気がするんだよなー。一応領主家所有の土地だから、正式に領主になったらこの一帯を接収しちゃうかな」


「遊ばせておく方が勿体ないですし、実際治安の問題もありますからね」


「他に有効活用する提案とか上がってこないのか?」


「上がってこないから格安で民間に売りに出してたんですよお兄様」


「そうだよな、だったら買われる前にこっちで抑えておくか。おーい」


「こちらに」



 俺が呼ぶと、女官服を着た侍女っぽい何者かが俺の横に控えている。

 駄姉に優秀な側近をお付けしますと言われて、何人か俺の専属でついたが、顔が似てて区別がつかん。

 普段は影も形も見えないが、呼べばいつでも現れる便利アイテムみたいな存在だ。

 それにクレアの防御魔法と施錠魔法を突破するってどういう連中なんだ?

 しかもクレア本人にも気づかないらしい。

 地面に穴でも掘ってんのか?



「という訳でとりあえずこの辺一帯の旧別荘地を押さえておいてくれ。あと他に有効活用する案なんかを検討するように文官連中に伝えておいてくれ」


「かしこまりました」



 すっと目の前から姿を消す侍女。

 もう良くわからんから突っ込まないけどな。



「洗濯なんかはやってるが、体を動かしやすい服なんかも支給してやるか」


「そうですね、汚しても良い服があれば、裏庭で遊ぶときも便利ですし」


「あとは一号とか工作チームにも作業着的なものをついでに買ってやるか。そういやお前もエリナからメモ用紙と筆記用具貰っただろ? 何か気付いたことがあればちゃんと書き込んでおけよ」


「はい!」


「じゃー早速午後の買い物の時に服屋に行って採寸に来てもらうか。駄姉妹も世話用に汚れても良い服を仕立てて貰った方が良いんじゃないか? 今着てる服なんかシンプルだけど結構するだろ。それにスカートだから動きも制限されるだろうし」


「そうですね、別に汚れるのは構わないのですが、裏庭で泥遊びをしてる子達が遠慮して近寄ってこなかったりするので、一緒に仕立てて貰いたいです」


「あとあれか、俺が登城する時用の服も仕立てるか、ある程度威厳が無いと門番に止められそうだし」


「でしたらエリナ様やクレア様も仕立てた方がよろしいかと思いますよお兄様」


「登城する機会とか無いだろ?」


「いえ、可能な限りこちらで調整いたしますが、社交や公式の場で領主夫人として出席する場合があるかもしれませんし、第一夫人、第二婦人は内政および外交でのお役目を持つ立場でございますしね。もちろんこちらで代行いたしますが、建前上でもお姿をお見せいただく機会は少なからずあるかと思います」


「そうだなー。建前上でも駄姉妹を第一第二にするって言うのは俺が嫌だし、そういう場合もあるのなら念のため駄姉に社交マナーをエリナとクレアに仕込んでもらうか。そもそも第一第二って序列も嫌なんだが、貴族社会だしな」


「お兄様、わたくしでも社交マナーはお教えできますが」


「お前はなんとなくその辺は苦手そうな感じがするから駄姉に頼むわ。騎士の儀礼とかなら任せるが」


「むー」



 納得いってない様子の駄妹を無視して、アンナに絵本を読み聞かせている駄姉に、エリナとクレアの社交マナーと、正装のデザインなんかをお願いしておく。

 俺達の服を一手に任せている町の服屋で、貴族の正装を仕立てられるかの判断も駄姉に丸投げだ。

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