第十話 登城


 あの革命から一週間後、爵位継承の許可が出たのと、調査報告がたまってきたとの事で、非常にめんどくさいが駄姉妹を連れて登城する。

 エリナたちは留守番だ。政策会議もすると言ったら「偉い人達の前で発言なんかできない」と、孤児院に残ることになった。


 俺の今着ている服は服屋に超特急で仕上げさせたもので、伯爵位をもつ貴族としてのまあ最低限度の格式はありそうな服だ。

 あまり華美にするなよという俺の意見を参考に、駄姉と服屋にデザインさせたものだ。


 てくてくと高そうな服を着た三人が孤児院から中央区にある城に向かう姿は目を引くが、「なんだ、またいつもの<転移者>が嫁を連れて歩いてんのか」という反応だらけで道行く人々の反応はいつものものだ。

 馬車を用意しましょうか? という駄姉をスルーしたが、どうせこいつも俺がそう言うのを好まないと知っているので本気では無いのだろう。

 あとこいつ俺の腕にしがみついてクンクン匂いを嗅いできて少し怖い。

 駄妹は大人しく俺と腕を組んでニコニコしてるだけなのに。



『ペッ』

『おいおい、ロリコンかと思ったら巨乳も好きなのかよ節操無いな』



 独身のブサイクなおっさんが道端にツバを吐いてるが、普通に領主に対する不敬罪でしょっぴけるだろこれ。

 だけどいちいちこんな嫉妬する奴なんか無視だ無視。

 あと俺に特定のサイズへの性癖は無い。

 何故ならオールラウンダーだからだ。

 節操がないともいう。

 ……なんだ合ってるじゃん。



「旦那様、一応爵位の叙爵式典を来月に王都で行う必要があるのですが」


「まじか、めんどくさいな」


「今回の許可はあくまで仮のものですからね。正式には国王に忠誠を誓って叙爵されるのですよ」


「忠誠心なんか皆無なんだが」


「じゃあ殺りますか?」


「それ俺の耳には『やりますか』って聞こえたんだけどまさか『殺りますか』じゃねーだろーな」


「殺しましょう」


「言い直せば良いってもんじゃないし、そろそろその性格を直せ。俺の身内になるつもりなら俺の身内を危険にさらすような言動は慎め」


「旦那様は身内を独力で守れると思ったから領主家に喧嘩を売られたのでしょう?」


「あの時のお兄様はとても素敵でした!」


「駄妹はマゾか。俺は殺すぞとかお前に言い放ってただろ、なんでそれが素敵なんだよ」


「義憤で支配者に立ち向かう英雄! わたくしはもうその時にはお兄様に心を奪われておりました」


「変態か。それに託児所の用地を買ってなかったら他の町に孤児院の連中連れて逃げ出してたと思うぞ。勢いで領主家に喧嘩を売って滅茶苦茶後悔したからな」


「でも旦那様は実際に領主を幽閉して無血で占領しましたよね?」


「あれさー、よくよく考えたら俺ってお前らに乗せられて行動しなかったか?」


「ちゃんと旦那様に指示を求めたではないですか。もう何言っても無駄だから帰ろうと言われたらそのまま帰宅しましたよ」


「そういやクソ領主って最初に言ったの俺だっけ。ヤバいな俺の性格。どうにもガキんちょ軽視の発言されると制御が効かんらしい」


「旦那様のそんなところが好きなのですけれど」


「わたくしもです!」


「うるせー、流石に叙爵式でそんな事態にはならんと思うが、もしそんな事態になりそうだったらお前らも煽るような事をしないで俺を諫めてくれよ」


「それが旦那様のお望みでしたら」


「お任せくださいお兄様」


「イマイチ信用できんが頼んだぞ。マジで」



 念押しをしながらたどり着いた城門をくぐる。

 既に末端まで通達が行っているのか、門番やら城の連中もこちらを視認すると敬礼したり足を止めて深く頭を下げたりしてくる。

 両腕にぶら下がってだらしない顔をしてる駄姉妹を見ても特に無反応だ。

 そういや姉妹喧嘩は良くしてたみたいだから駄姉妹のおかしな言動には慣れっこなのだろう。



「この前の部屋に行くのか?」


「今回は政策会議が主ですから謁見の間ではなく執務室ですわよ旦那様」


「王様とか領主っていつも謁見の間にいるイメージだったが、そりゃそうだよな」



 駄姉妹のエスコートで領主家の生活区域にあるという執務室に向かう。

 執務室と言っても部屋の広さは謁見の間程ではないがそこそこあり、十名程の人間を入れて会議が出来るスペースがあるという。



「前回は謁見の間で領主父子を拘束したあとにそのまま主要な文官、武官の任命も行いましたからね。正式な任命式や群臣を集めた大会議ならまだしも、担当官からの報告や指示をする程度でしたら全て執務室で行いますよ」


「そうか、まああまり鯱張ったのは苦手だから小規模な方が助かる」


「しゃちほこばった? ええ、そうですわね。常に威厳や権威などを誇示する必要はありませんから」


「国王も常に王冠被ったままで生活してるわけがないしな」


「でも旦那様もその内王冠を被ることになりますから、威厳や権威などを誇示する事に慣れておく必要はございますわよ」


「危険すぎる。お前絶対に叙爵式で王都に行った時にそんな発言はするなよ? 約束できないなら置いていくぞ」


「お任せくださいませ、伯爵夫人として誠心誠意旦那様をお支えいたしますわ」


「そういう言動は今後一切しないと言わない所がお前らしいな」



 とはいえ、駄姉が胸に飾られた着ているものに比べて貧相なコサージュを愛おしそうに撫でて微笑んでいるその姿を見ると、もう無茶な事は言いださないんじゃないかという気持ちもある。

 半分以上はもう俺をからかってるだけのような気もするしな。



「お兄様! わたくしは姉上と違って危険な言動は致しませんから!」


「アホ妹キャラはすでにエリナで埋まってるんだからもっと他でアピールしろ駄妹」


「きゃら?」


「まあ駄妹には武官の統率を任せてるんだ、今日はその報告もあるだろうからしっかり有能さをアピールしろ」


「頑張りますお兄様!」



 ふんす! と気合を入れる駄妹に苦笑しながら、「旦那様、ここが執務室になりますわ」という駄姉に促され、護衛が開けた扉をくぐり執務室に入室する。

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