第十二話 初めてのお給金


 孤児院に到着すると、エリナが院長先生戻りましたと挨拶をする。

 ガチャリと鍵が開き、エリナが組んでた腕をするっと抜いて扉を開け、俺を招き入れる。



「あれ? あの子達来ないね?」


「飯食ってるんだろ。まだ昼時だし」


「そっか。じゃあリビングに行こうお兄ちゃん」


「おう」



 リビングに入ると、ガキんちょどもは昼飯をパクついていた。

 籠をリビングの隅に降ろし、エリナの胸甲のベルトを緩め、マントを外してやると、エリナが後ろに回って俺のベルトとマントを外してくれた。



「お前らちゃんと昼に昼飯食ってるんだな。ごめんな、兄ちゃんお前らは俺らが出た後、すぐに昼飯食ってるだろうと疑ってたわ」


「おっちゃんこれうめー」


「お前はいい加減お兄さんと言え。口にケチャップついてるぞ」



 しょうがねーなーとガキんちょの口のケチャップを拭いてやる。ちなみに昨日のハンカチはエリナが洗濯すると言って強奪されたので予備のハンカチだ。



「兄ちゃんこれもうめーぞ」


「いっぱい食えよ一号」


「おにーさん、おかえりー、これおいしー。なんていうの?」


「お、気に入ったか? ソーセージを挟んだパンがホットドッグ。ベーコンレタストマトを挟んだパンがベーコンレタストマトサンド、略してBLTサンドって言うんだぞ」


「ほっとどっぐとびーえるてぃーさんど、おいしー」


「よしよし、いっぱい食えよ。足りなかったら俺のも少し食うか?」


「たべるー」



 籠から俺とエリナの分の飯を出し、エリナの分を渡すと、俺の分を広げ、ホットドッグとBLTサンドをひとつづつボブカットの皿に置く。



「ほれ食え食え。俺の分のホットドッグはちょっとマスタード入れちゃったから、辛かったらマスタードは取れよ」


「おにーさんありがとー」



 ボブカットは自分の分を食い終わると、俺から貰った分に取り掛かる。

 この体のどこにこんなに入るんだろう?

 食べ過ぎは良くないが、こいつらはまだまだ痩せてるから大丈夫かな?



「お兄ちゃん美味しいねこれ」



 エリナが早速渡した昼飯をパクついている。



「なら良かったよ。あの肉屋のソーセージとベーコンのおかげだけどな」


「そんなことないよお兄ちゃん!」



 はいはいと返して、手早く飯を食うと、飯を食い終わってニコニコとガキんちょどもを見ている婆さんに話しかける。



「なあ婆さん、婆さんの作ったヨモギの葉を干した奴なんだが、一グラムで銅貨十枚の査定だったんだよ」


「まぁ、随分高額なのですね」


「で、百株近く採取して来たんだが、このまま冒険者ギルドに卸すと銀貨一枚なんだ。でも、もし全てが婆さんが作った品質のヨモギになれば、銀貨三枚にはなるんだよ。それで出来れば婆さんにヨモギの加工をお願いしたいんだが」


「ええ、ええ、是非やらせてください。私でお役に立てるのでしたら嬉しいです」


「その際に、品質や葉の厚さ、大きさなんかである程度分別して納品できるようにしたいんだ」


「わかりました」


「借りたヨモギを返しておく。大きさ厚さが均一で、貴族用のハーブティーの葉として売れる品質だそうだ。午後はヨモギを籠から出して置いておくから、ヨモギの処理を頼む」


「任せてください」


「で、ちょっと込み入った話があるんだが、院長室で話をさせて貰って良いか?」


「はい、構いませんよ」


「エリナも飯を食い終わったら婆さんの部屋に来てくれ」


「もう食べ終わったから一緒に行く」


「じゃあ行くか」



 三人で婆さんの部屋に入り、応接テーブルに備え付けの長椅子に座って早速本題に入る。



「婆さん、まずはこれを」



 応接テーブルの上に銀貨四十五枚と銅貨の束六本の六百枚分を置く



「今日稼いできた分だ。孤児院の為に使ってくれ」


「トーマさん、これはトーマさんのお金ではないですか。受け取れません」


「いや、エリナが見つけたサルノコシカケと葛、あとエリナが血抜きしたホーンラビットの買取金額だ」


「お兄ちゃん、二人で頑張って売れたものだって話したでしょ!」


「ああ、そうだったな。今日の二人の稼ぎだ」


「でしたら余計に受け取れません。ヨモギの加工から得られる差額を分配するのかと思っておりましたし」


「それだと孤児院に入る分が毎月銀貨五十枚に届かないんだよ。だから是非受け取って欲しい。孤児院の建物の修復なんかもあるし、ヨモギの加工もあの量になれば専用の道具とか必要なものも出てくるだろうし、いくらあっても困らないだろ?」


「院長先生、お兄ちゃんの言う通りです。あの子たちの為にも受け取ってください」



 婆さんはじっと考え込む。



「でしたらこうしましょう」



 そういうと婆さんは、俺、エリナ、自分の前に銀貨十五枚と銅貨二百枚ずつを置く。



「トーマさんもエリナもお金は必要でしょう? 特にエリナはこれから外に出て活動をするのですから、いつまでもトーマさんに甘えるわけにはいきませんし」


「院長先生......」


「......わかった。ただし、ガキんちょどもの飯はまだしばらく俺が面倒を見るのは譲れないあいつらはまだまだ栄養が足りてないからな」



 俺は銅貨二百枚を婆さんの前に置く。

 婆さんも頑固だし、まずは銅貨の端数だけでも渡して、孤児院の取り分を多くしたって実績さえ作っておけば今後はもっと割合も増やせるだろう。



「それに最優先にするのはガキんちょどもだ。こちらの稼ぎが十分な額に達した場合は孤児院を優先する。これが俺の妥協できるギリギリのラインだ」


「大変心苦しいのですが、トーマさんがそうおっしゃられるなら、そのようにさせて頂きます。子供たちに代わってお礼申し上げます」


「あと銀行ってこの世界にあるのか?」


「ええありますよ。市民権を持っていれば国が運営してる銀行で、ギルド登録証を持っていれば各ギルドで預かって貰えます。国の運営する銀行ならば利子が付きますよ。年一%ですけれど」


「ギルドの場合は預かるだけか。うーん、金貨一枚で市民登録しておくのもありっちゃありだが、まずは年間通して安定的に収入を得る方法を見つけるまでは無駄遣いできないしな。銀行から借金はできるのか?」


「市民登録証で収入等を把握できていますので、安定した収入と職業と実績があればその信用度に応じて借り入れが可能なようですが、私のような場合ですと借金は不可能です」


「いや、借金が無くて良かったよ」


「お兄ちゃん、私には銀貨十五枚って多すぎなんだけど」



 といって銅貨二百枚を残して残りの銀貨全てを婆さんの前に置こうとするのを俺は止める。



「エリナは貯金しておけ、その内ミスリルみたいな高額な装備が必要になるかも知れないしな」


「うん......じゃあせめてお兄ちゃんと一緒にする!」



 そういうと銅貨二百枚を婆さんの前に置く。



「エリナもありがとうね」



 婆さんがにっこりとエリナに微笑む。



「お兄ちゃんといっぱい稼いで、もっと孤児院にお金をいれますからね、院長先生!」



 うんうんと頷く婆さんが泣きそうだ。苦手なんだよな、こういう雰囲気。



「よし、じゃあ話は済んだし、ってそうだ婆さん、ホースってわかるか?」


「ほーす? ええと、水を通す管でしょうか? 導入管とは違ってある程度柔軟性を持った」


「そう! それ! この世界にもあるのか?」


「ゴムが高価なので木工ギルドで貴族様向けに販売していますが、皮で作った管を補強した代用品ならば皮製品を取り扱っている店で購入できると思いますよ?」


「助かった! ありがとうな婆さん。よし買い物に行くぞエリナ」


「わかった! ヘタレで照れ屋なお兄ちゃん!」


「うっせー早くしろ。置いて行くぞ」


「待ってよお兄ちゃん! じゃあ院長先生行ってきますね!」


「いってらっしゃい、トーマさん、エリナ」



 院長室から出て、ヨモギを取り出して空になった背負い籠を背負う。

 孤児院の扉を開けるといつものようにエリナが腕にしがみついてくる。

 胸甲が無いから痛くない。

 かといって凄く柔らかいかと言えばそうでもないのが悲しいな妹よ。




「今日採取してて必要だと思った道具とかあるか?」


「んーと、スコップとロープかなー。ヨモギだけだったら必要はないけど、クズみたいな大きい根っこの薬草には必要だし」


「そうだな、あとは革袋とかあると良いかな。ホーンラビットが二、三体入りそうなやつ。普段は畳んで籠に入れておけば良いし」


「魔物退治を専門にする人は、魔石と角と尻尾だけ回収するのが普通なんだって。皮を剥いで、お肉はその場で焼いて食べちゃう人も居るみたいだけどね。毛皮もそこそこ良い値段で売れるみたいだし」


「解体するのかよ......それは避けたいな」


「私が出来るけど?」


「お前ほんとすごいな」


「お前じゃなくてエリナ! お兄ちゃんが出来ない事は私が出来るし、私が出来ない事はお兄ちゃんが出来るって事でいいじゃない!」


「そうだな、だいぶエリナに頼っている状態だけどな。あともうそのキャラ辞めろ」


「お兄ちゃんヘタレの癖にめんどくさーい! 細かい事気にしてるとハゲるよ?」


「ハゲてねえっつってんだろ! これからハゲる予定も無い!」



 キャッキャと腕に抱き着きながら笑顔を俺に向けるエリナ。



「まぁまずはギルドに行って金を預けるか。不用心だし、落としたらそれこそハゲる」


「私も預けたい!」



 冒険者ギルドにたどり着くと早速いつもの事務員に話しかける。

 エリナは俺の腕から離れない。



「金を預けたいんだが」


「私もです!」


「かしこまりました。特に利息等は付きませんが、国が存続する限り預かり金は保証されます。ギルドがなくなった場合は銀行で引き出しが可能です。よろしいでしょうか?」

 

「はい!」


「ああ、構わないがやっぱり冒険者ギルドって危ないのか?」


「世界が平和になったら真っ先になくなる組織ですからね。むしろここに所属してる連中ごとなくなれば世界に平和が訪れるのではないかと」


「否定できないけど、先ずは暗殺ギルドと盗賊ギルドの方をなくしたほうが良いと思うぞ。構成員ごと」



 俺は手持ちの内金貨七枚、エリナは銀貨十三枚をカウンターに置く。



「では登録証をお願いします」



 電卓のようなものに数字を打ち込んだ事務員がその電卓を登録証にかざす。

 エリナの登録証にも同様の作業をして処理は終わったようだ。



「これでお預かりは完了しました。残高はギルドで登録証を見せて頂ければ確認できます。また、引き出し制限等はありませんが、国が戦争状態になったり、天災が起きた場合などで非常事態宣言が出された場合、引き出し制限が掛かります。ただしその状況でも一日銀貨一枚の引き出し額は保証されています」


「結構細かいんだな」


「国が潰れたら全額没収ですけれどね」


「それまでには金庫を探しておくよ」


「マジックボックスという魔道具があれば金庫よりも安全なんですけれど」


「マジックボックス?」


「魔道具ランクによって変わるのですが、一番安い物でも百キロ程度の荷物を収納できる魔道具です。本人にしか使えないので、捕まって脅されたりしない限りは中に入れた荷物は安全です」


「おお、そんなものが。いくらくらいするんだ?」


「一番安い物でも金貨十枚くらいでしょうか?」


「高過ぎだな。まぁ追々だな追々。じゃあまた来るよ」


「いってらっしゃいませ」



 背負い籠で十分じゃないか。と背負い籠を背負いなおす。



「お兄ちゃん、ほーすとぶいよん! あと下着!」


「そうだな、三日目は初体験でちょっと不快感が凄い。服屋に案内してくれ。下着だから新品が良い」


「任せて!」


「あとブイヨンってもう一回言って」


「ぶいよん?」



 こてりと頭を倒してブイヨンというエリナにちょっとドキっとした。

 なるほど、これがどこかで聞いた妹萌えって言う奴か。


 そんなアホな会話をしながらエリナに先導されて門の方へ歩いていく。  



「お兄ちゃんここだよ! 新しい服も売ってるんだって!」


「確定じゃない言い方なのは、来たことがないからか」


「そうだね!」


「相変わらず返事だけは最高だな妹。じゃあ入るか」



 シャンプーを買った店のようにガラス戸を使った高級店に入る。

 すぐに店員からのいらっしゃいませの言葉にビビりながらも、目的の下着を探す。



「どの辺にあるのかね」



 店内を見ていると、男性用女性用どちらも揃っているようだ。

 男物の下着はどこだろうときょろきょろしている俺に、すぐさま女性店員が声を掛けてくる。

 前世じゃすぐに話しかけてくる店員がいる店には近づかなかったヘタレな俺だが、どこに何があるかわからない状況だとありがたい。



「新品の男性用の下着を探しているんだが」


「でしたらこちらでございます」



 店員が案内してくれた場所にはたしかに下着があった。

 安い価格帯の下着は、ボクサーパンツというかショートパンツみたいな形で紐で縛るタイプのようだ。

 ゴムは高価って婆さんが言ってたしな。

 ちなみにこの価格帯のパンツは、前が開くようには出来ていない。

 高価格帯の方を見ると、ゴムだったり前開きタイプもあるようだ。



「一番安い奴で銅貨三百枚か。想像してたよりは安いな。三着、いや四着買うか。サイズは......これでいけるか」



 下着を手に取ろうとすると、エリナが横から奪い取る。



「何してんのお前」


「これは私がお兄ちゃんにプレゼントする!」


「いや、いいよ。全部で銀貨一枚と銅貨二百枚だぞ。高いって」


「大丈夫! 初めてのお給金だし、お兄ちゃんにプレゼントしたいの!」



 初めての給料でお世話になった両親への贈り物を買おう、みたいな文化がこの世界にもあったんか。

 まぁ俺には両親が居ない代わりに施設長というか先生だったけど。


 そういえばギルドに預ける時エリナは銀貨二枚残してたんだよな。

 エリナが手元に置くには多いなとは思ってたが、そういう事か。



「わかった。じゃあありがたく頂くよ」


「うん!」



 腕を組んだままカウンターに行く。

 腕を組んだ男女が、男物の下着を女性が金を出して買うという状況にめまいがしそうになったが、なんとか踏みとどまって会計を待つ。



「ありがとうございます。銀貨一枚と銅貨二百枚ですが、おまけして銀貨一枚で結構です」


「わあ! ありがとうございます!」



 そういうとエリナはポケットから銀貨一枚を出し、品物を受け取る。

 ほぼ一着分をおまけって......これさっきのプレゼントって会話聞かれてたな。



「はい! いつもお世話になってるお兄ちゃんへプレゼント!」


「ありがとうなエリナ。大切に使わせてもらうよ」


「うん!」



 エリナの満面の笑顔に、ちょっと涙が出そうになったのは秘密だ。



「古着というか中古の服の取り扱いはあるか?」


「ございます」


「色やデザインは気にしないから、俺のサイズで春から秋で使えるズボン三着、長袖、半袖それぞれ三着を買うといくらになる? あと靴のサイズで二十七センチに合う靴下を新品で三足欲しいんだが」


「そうですね、銀貨四枚位で揃うかと思いますが、探してみましょうか?」


「頼む。あとそうだな、幅の広い白いリボンはあるか? これは新品で二本欲しい。それとデザインはお任せで、女の子が喜びそうな色のリボン四色を二本ずつで八本。これも新品で」


「かしこまりました。お持ちしますので少々お待ちください」



 店員が商品を探しに棚の方へ行く。



「ここで買うの?」


「中古服の質を見てからだな、新品も意外と安かったし。子供服の取り扱いもあるようなら、ガキんちょどもの服も買ってやりたい。せめて冬までには」


「お兄ちゃん......」


「お待たせいたしました。こちらになります。全部で銀貨五枚と銅貨四百枚になります」



 畳まれた服と靴下、リボン十本がカウンターに置かれる。

 ズボンとシャツをそれぞれ広げてみると、継ぎ接ぎどころか沁み一つない品だ。

 新品と言われても信じてしまうだろう。

 デザインも町中でよく見る、首元に紐がついてて温度調節できそうな物だ。

 サイズも問題なさそうだし、いい店だな。意外と安いし。



「子供服の取り扱いもあるのか?」


「新品も中古も取り扱ってございます。そうですね、来月辺りには中古の冬用の服が一番安くなると思いますので、よろしくお願いいたしますね」



 なるほど、先程の会話もバッチリ聞かれていたようだ。

 この世界は優秀な商売人が多いな。

 悔しいが防具屋筆頭に。



「子供服はそうだな、人数が多いので、サイズを測る為に店員に来て貰うことは可能か? 商業区域の外れにある孤児院なんだが」


「十着以上の大口なら受け付けております。もちろん価格がお気に召さない場合でも料金は頂きません」


「わかった。じゃあ今回はこの品を買わせてもらおう」


「ありがとうございます。ではこちらの価格は、銀貨五枚で結構です」



 銀貨五枚を置いて品物を受け取る。



「じゃあまた寄らせてもらうよ。子供服のサイズを測る件はまた別途相談しに来るから」


「はい、お待ちしております。冬用の子供服の在庫、集めておきますね」


「値段次第だからな。安くて良い物を頼むぞ」  


「はい、是非またお越しください」


「じゃあ次はほーすだね!」


「エリナ、ちょっと待て」



 腕に抱き着いたまま、服屋を出ようとするエリナを止める。



「なぁに? お兄ちゃん」


「ちょっと髪を触るぞ」


「いいけどどうしたの?」



 腕にしがみつくエリナを剥がし、後ろに回ると、エリナの髪を手櫛で纏め、先程買った純白のリボンを使って、大きな蝶々結びで華やかに見えるように結わえてポニーテールにする。


 養護施設で良く懐いていたガキんちょに結わされていたから、最低限の結び方は覚えてるんだよな。

 多分店員にもわかってたんだろう、純白の生地にレースが使われてて、そこそこ高級感がある女物のリボンだ。

 まとめ買いだったから値段はわからないが、少なくとも俺の下着以上はするだろう。



「お兄ちゃん?」


「髪を纏めておいた方が採取するにも邪魔にならないからな」


「鏡をお持ちしました。どうぞお使いください」



 サービス満点じゃないかこの店は。

 店員から手鏡を受け取り、エリナに見せる。



「わあ!」


「どうだ? ポニーテールっていう髪型なんだが」


「お兄ちゃん!」



 エリナに見せる為に少しかがんでいた俺にいきなり抱き着く。

 顔がエリナの胸に当たって少し痛い。

 胸甲は着けていないはずなのに。



「お兄ちゃんありがとう! すごくうれしい!」 


「まぁ俺にとってもこの世界での初任給みたいなもんだ。エリナには世話になってるからな。俺からのプレゼントだよ」


「うん! ありがとう!」


「じゃあ次は皮製品を扱ってる店に案内してくれるか?」


「任せて! お兄ちゃん!」



 手鏡を店員に返し、服屋を出る。

 超絶ご機嫌なエリナは、腕にしっかりとしがみついて離れない。

 ポニーテールが揺れて、まるで喜んでいる子犬のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る