第九話 もふもふ


 食事も終わり、風呂時間になる。

 女子チームと婆さんはきゃっきゃ言いながら風呂に向かったが、サクラは抜け毛とか大丈夫なのかな?

 あと婆さんはきゃっきゃ言ってない。



「カルルー、兄ちゃんと風呂入ろうぜー」


「ひとりでだいじょうぶー」



 あんなに「にいちゃにいちゃ」と懐いてたカルルが急にそっけなくなって泣きそう。



「まあまあ、風呂場に行くのは一緒でもいいだろ?」


「うん! でもかるるひとりでできるから!」


「わかったわかった。兄ちゃんは手伝わないから」


「うん!」


「あい! じゃなくなって兄ちゃん寂しいなー」


「かるるもうこどもじゃないもん!」


「そうだな、カルルはもう一人前だもんな」


「うん! カルルいちにんまえ!」



 やっぱカルルとの兄弟スキンシップは大事だな。癒される。

 子ども扱いしなければ嫌われないっぽいし。

 

 なんだかんだ可愛いカルルと風呂を堪能してリビングで帰宅組男子の髪を乾かしていると、女子チームが風呂から上がったようだ。



「見て見てお兄ちゃん! サクラちゃんの髪と耳と尻尾をミリィがシャンプーで洗ったらすごくツヤツヤになったよ!」


「ううっ、結局ミリィちゃんに全身くまなく洗われてしまいましたっ!」


「なにやってんだよミリィは……」



 サクラは半べそ状態で、ミリィはなぜかほんのり上気してツヤツヤした顔で、エリナとサクラふたりと手をつないでリビングに戻ってきた。



「でもシャンプーなんて贅沢なものを使うのは初めてでしたっ! シャンプーって素晴らしいですねっ!」



 半べそ状態からにぱっといきなり笑顔になってシャンプーを絶賛するサクラ。

 一応犬人国の王女だよなこいつ。シャンプー自体があまり習慣になってないから流通量が少ないとかかな?



「おう、抜け毛はしなかったか?」


「ご主人様、犬耳族の抜け毛は人族よりも少ないくらいなんですよっ」


「換毛しないのか?」


「しないですねー。犬人国でも狼耳族は換毛期になると大変ですけど、犬耳族は少しずつ伸びるだけなので定期的にカットすれば大丈夫ですっ」


「なるほどね。エリナ乾かしてやれ。普通の倍くらいの毛量がありそうだから時間かかりそうだし」


「わかった! サクラちゃんこの座布団に座って!」


「わふわふっ! エリナお姉さんありがとうございますっ!」



 女子の帰宅組の髪もさくっと乾かして、二台のスクール馬車に分乗して帰宅させる。それぞれクリスとシルが乗り込む念の入りようだ。

 もう治安とかほとんど気にしなくていいんだけど、父兄とのやりとりは大事だしな。



「お兄ちゃん見て見て! サクラちゃんの耳と尻尾がすっごくふわふわになったよ!」


「わふわふっ! すごいですっ! こんなにふわふわしたのは初めてですっ!」


「おー、すごいな」


「ご主人様、もふってもいいんですよ?」


「んー、やめておく」


「わんわんっ! なんでですかっ! ご主人様のヘタレー!」


「お兄ちゃんパパになるのに相変わらずヘタレだねー」


「これ以上嫁を増やしたくないだけなのになんでヘタレなんだよ……」



 理不尽な罵倒に耐えながらも、帰宅組がいなくなったあと、孤児院メンバーの髪を乾かしていく。



「お兄ちゃん! 終わったら私の髪を乾かしてね!」


「丁度終わったからここに座れ」


「うん!」



 ぼーとドライヤー魔法でエリナの髪を乾かしていく。



「わふわふっ! エリナお姉さんいいなー」


「えへへ! 明日はサクラちゃんもお兄ちゃんに乾かしてもらおうよ!」


「ご主人様! お願いしますっ!」


「わかったわかった。それより明日は開拓工事してる現場に向かうから早めに寝ておけよ。エリナはクレアと一緒に留守番な」


「わかった! お昼ごはんは持っていくの?」


「そうだな、俺とサクラ、クリスとシルの弁当を頼むな」


「まかせて! サクラちゃんの好きなお肉を多めに入れておくね!」


「わふわふっ! ありがとうございます!」



 エリナの髪も乾くころになって、クリスとシルが帰ってくる。



「お兄様、ただいま戻りました!」


「旦那様、今日も特に問題はありませんでした」


「お疲れさん。炬燵で少し温まったら二人とも明日は早いんだから早めに寝るようにな」


「はいお兄様」


「かしこまりましたわ旦那様」


「クリスお姉さん、今晩はよろしくお願いしますねっ!」


「ええサクラちゃん。地図を見ながらで少しお話してからですけど」


「なんだ、サクラは今日クリスの部屋で寝るのか」


「はいっ! ひとりで寝るのはさみしいのでっ!」


「サクラちゃんに少し明日の打ち合わせをお願いしたらそういう流れになりました」


「仲がいいのは結構だがあまり夜更かししないようにな」


「ええ、もちろんですわ旦那様」


「はーいっ!」


「ふふふっ、今夜はたくさんもふれますわね」


「あれれっ! クリスお姉さんちょっと目が怖いですよっ!」


「大丈夫ですわサクラちゃん。痛くしませんから」


「あれれ? あれれ?」



 サクラがクリスに拉致られていく。まあいいか。



「よし、じゃあエリナ、そろそろ寝るか」


「うん!」


「シルも早く寝ろよ。お前多分明日の視察でアピールしておかないとずっと俺の中でポンコツのままだからな」


「わ、わかりました! すぐに寝ます!」



 最近炬燵の中に潜っている姿しか見ないシルを軽く煽ってから部屋に戻る。



「今日は冷えるし、エリナを抱きしめて寝るかな」


「えへへ! お兄ちゃん大好き!」



 部屋を適温に保つ魔法と、湿度を上げる魔法をエリナが使って二人でベッドにもぐりこむ。

 なんかクリスの部屋で大きな声が聞こえるが気にしないで寝よう。





「おはようございますご主人様。ううっ、結局クリスお姉さんにたくさんもふられてしまいましたっ!」


「なにやってんだよクリス……」



 サクラは半べそ状態で、クリスはなぜかほんのり上気してツヤツヤした顔で、サクラと手をつないでリビングに入ってくる。



「おはようございます旦那様」


「何やってんだクリス。寝不足は駄目だろ」


「いえ、二人ともちゃんと寝ましたよ」


「わふわふっ! クリスお姉さんとても温かかったですっ!」



 よくわからんがより仲良くなったみたいだし別にいいか。



「さっさと弁当販売を始めるぞ。エリナとクレアとシルはもう始めてるし」


「かしこまりました」


「サクラも今日は売り子として頑張れよ」


「昨晩クリスお姉さんから聞いてますっ! まかせてくださいっ!」



 サクラも売り子として人気が出そうだな。やたらと人懐っこいし。

 昨日外へ連れまわした時も、もの珍しさでの注目ってのはあったけど、亜人差別とかそういうのは感じなかったし、食品を扱っても問題なさそうだ。

 もちろんみんなと同じように消毒してから触らせるけど。

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