第八話 鶏団子鍋と豚バラミルフィーユ鍋


 サクラの服やら生活必需品を買いそろえて帰宅すると、リビングでは冷凍蜜柑がガキんちょどもにものすごく好評だった。腹が冷えるので一日一人一個制限を設けたほどだ。

 いちいち糖度計測をするのはやめて、クレア、クリス、シルが手早く白魔法で凍らせていた。

 久々に仕事ができると大はしゃぎのシルだが、お前城では軍務省長と騎士団長だろ……。普段は炬燵に潜ってガキんちょと遊んでるだけじゃないか。肝心の体を動かす授業はしっかりやってるようだが。


 ま、ガキんちょどもの世話は任せて晩飯の準備を始めるか。

 今日のメニューは鶏つくね団子の鍋と、白菜と豚バラ肉を交互に重ねたミルフィーユ鍋だ。

 白米も用意するが、いまいち人気が無いので、中華風蒸しパンといつもの白パンも用意する。鍋をつつきながら白パンを食うのは俺的には無しなんだが、ガキんちょどもには人気なんだよな。


 メインの鍋はすぐにできるから、米をまず炊き始める。

 炊きあがるまでの間に、副菜として中華風蒸しパンにも合う味付けをした肉団子やソーセージなどを用意しておく。あとから揚げやサラダなどの定番メニューも忘れない。



「お兄ちゃんごめん! サクラちゃんをもふっててお兄ちゃんのことを完全に忘れてた!」


「兄さますみません! サクラ姉さまがすごくもふもふで兄さまのことを忘れてました!」



 軽く酷いことを言いながら厨房に入ってくる嫁たち。

 俺ももふりたいけど「もふったからには結婚してくださいっ!」とか言われても面倒くさいので我慢しよう。



「じゃあ残りは任せた。俺は鍋の準備始めるから」


「「はーい」」



 でかい鍋をいくつもコンロの腕に並べて、水を張り、昆布を投入して火にかける。

 その間に大量の白菜をザクザクと切り、半分は豚バラと交互に重ねてミルフィーユ状にしておく。

 その他具材をどんどんカットしていく。

 豆腐があればなあ……。

 大豆は生産されてるんだけど主に油を取るためで、加工用にはあまり流通してないんだよな。もちろん納豆なんかもほとんど見ない。

 美味い白米が無いから納豆だけ流通してても困るんだが。

 そんなことを考えている間に、鍋に張った水が沸騰しそうになったので昆布を取り出す。

 準備していた具材を投入していき、蓋をしたらあとは待つだけだ。



「お兄ちゃん、完成したものから持っていくね!」


「兄さま、お米が炊けたのでおひつに移しておきますね」



 もふってて遅刻した罪悪感からか、てきぱきと働く嫁ふたり。



「クレアも白飯をおひつに移し終わったら、完成したものからどんどんリビングに持って行ってくれ。重いものはマジックボックスを使えよ」


「はい兄さま」



 巨大な土鍋の蓋を取って確認すると、ちょうど火が通っていたので、マジックボックスに収納してからリビングへと運ぶ。



「ミリィちゃん! もふってもいいって言いましたけどそこは違いますっ!」


「さくらおねーさん、おむねちいさいねー」


「す、すぐに大きくなりますからっ! わたしはまだ成長期ですしっ!」



 リビングに入ると、ミリィがサクラにセクハラをしていた。

 小さくてがっかりしたのか、ミリィはサクラの胸から手を離すと、サクラの尻尾をもふり始めた。

 何やってんだミリィ……。



「はいはい、お前ら飯の時間だぞー」


「「「はーい!」」」



 鶏つくね団子鍋と豚バラと白菜のミルフィーユ鍋を交互に、等間隔になるように置いていく。



「白飯希望者は茶碗をもって並ぶように。白パンと中華風蒸しパンは適当に取って行けよー。あと鍋にはゴマダレとおろしポン酢のつけダレがあるからな」


「「「はーい」」」



 ガキんちょどもがそれぞれ席に着いたのを確認したエリナが挨拶の音頭をとる。



「じゃあみんなー、いただきまーす!」


「「「いただきまーす!」」」


「いやー、挨拶の意味が分かってすっきりしたわ」


「ご主人様! わたしにご飯をよそってもらっていいですかっ?」



 さっそく俺の横に座るサクラが白飯を要求してくる。そういやこいつは白飯が主食だって言ってたっけ。



「こっちの米は美味くないからあまりお勧めできないんだが」


「味を見ておこうかなって思いまして!」


「まあそうだな」



 サクラの差し出す茶碗を受け取って、俺の横に置かれたおひつからぽふぽふと普通盛りでよそってやってからサクラに茶碗を返す。



「ありがとうございますっ!」



 そういうと、取り皿によそった鶏団子をゴマダレにつけたサクラは、白飯にバウンドさせて食う。

 バウンド食いはこちらでも一般的なのか。でも俺はゴマダレではやらないけどな。おろしポン酢が染みた白飯が好きだから。



「おふゅふぃんふぁふぁ! ふぉのほひはんほおいふぃーふぇふ!」



 熱いのか口に団子を頬張ったまま、更にはふはふしながら声を上げるまめしば。



「うるせー、口に物入れてしゃべるなまめしば。黙って食え」


「ふぁふぃっ! んくっ! ご主人様! この鶏団子美味しいです!」


「わかったわかった。肝心の白飯を食ってみろ」


「はいっ! はぐっ! はぐっ!」



 ゴマダレが少しついた白飯を口に一気に入れたサクラは微妙な顔をする。



「どうだ? やっぱいまいちか?」


「んくっ……。 そうですね……不味くはないのですが……」


「チャーハンやピラフ、ドリア。あとは炊き込みご飯とかにすればまあそこそこ美味く食えるんだけどな」


「むむむっ! やりがいがありますっ! ここでも美味しいごはんが食べられるように頑張りますねっ!」


「頼むぞ。滅茶苦茶期待してるから」


「お任せくださいませご主人様っ! あとわたしの耳と尻尾をもふってもいいんですよ?」


「それはやめておく」


「わんわんっ! なんでですかっ! こんなにもふもふなのにっ! 巻き尾じゃないからですか⁉」


「尻尾の形状の問題じゃないから」



 ぶーぶー文句を垂れながらも食事を続けるまめしば。マナー的にはギリギリセーフというところか。こぼしたりしないでがふがふ食い続ける。



「ご主人様っ! このから揚げも美味しいですっ! マヨネーズが捗りますっ!」


「マヨネーズが捗るってなんだよ」


「サクラ姉ちゃん流石だな! たしかにから揚げにマヨネーズはマジ捗るよな!」


「ですよねっアラン君!」



 一号は「おう」っと返事をして、流れるような所作で自分のから揚げに大量のマヨネーズをぶっかけて自分の席へ戻っていく。

 あいつ最近かっこいいんだよな。口元にマヨネーズがついてなかったら完璧だったんだけど。


 今日はチキン南蛮風甘酢あんとタルタルソースを用意してなかったが、サクラに食わせたらどんな反応しただろうか。

 近いうちに試してみるか。


 鍋の具が減ってきたのを見計らって、鍋の残りに白飯を投入して雑炊を作る。白飯が足りなかったので残りの鍋にはうどん玉を投入して〆のうどんを作ると、うどんは元々ガキんちょどもにも人気だったが、意外にも雑炊も結構な好評だった。

 やはり白飯でも味付けをしちゃえば受け入れられるっぽいな。ドリアは大人気メニューだし。


 とはいえサクラには白飯だけでも美味しい米を作ってもらわないとな。

 明日から頑張ってもらおう。


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