第三十六話 献上品
食後のお茶を飲んでいると、シバ王の護衛の連中が恐縮しながらリビングに入ってきて、主に耳打ちをする。「そうだった」と何かを思い出したシバ王は、俺に向かって正座をして両手をつき口を開く。
「閣下、朝貢の品をお持ちしたのですがこちらに持ち込んでよろしいでしょうか? 我々はサクラの同伴者ということで東門の通過を許可されましたが、荷馬車の通過は事前の申請が無かったとのことで許可されなかったのです」
「ああ、荷馬車はそうだな。勝手に他国からの輸入品持ち込まれても困るから、事前に認可を受けた商会とかじゃないと、積み荷の確認に時間がかかるから。手持ちサイズなら特に規制はないけど」
「荷馬車自体は大きくないのですが途中で獲物も狩りまして、それも閣下に献上したく」
「うん。あのねシバ王。朝貢とか献上って言ってるけど、あくまでも対等の関係でお付き合いしたいから。むしろそっちの方が格上だから」
「しかし閣下には大恩が」
「せめて対等にお願いしたいの。お土産は医師団とか医療品とかの返礼ってことでありがたく受け取るから」
「はっ。ありがたき幸せ。しかしこのファルケンブルク領というのは面白い土地ですな。先ほども地竜を一匹仕留めましたが、まさか竜種が蔓延っている土地だとは」
「は? 地竜仕留めたってマジ?」
「? はい。その死骸も献上させていただきたく」
「いや高額素材だろ? この町で換金して持ち帰れよ」
「いえ、サクラも犬小屋でなく屋根のある部屋を与えられて三食昼寝おやつ付きの好待遇とか。生活費などもありますし是非お受け取り下さい」
地竜の素材って金貨百枚以上だろ? サクラの食事代含めた生活費なんか高く見積もったって年に金貨一枚もかからんぞ。
まあサクラに何かあった時のために預かるってことでいいか。
「わかった。サクラのために使うと約束する」
「いえ、この領地の発展のために使っていただければと思うのですが。閣下のご配慮痛み入ります」
「メイドさーん」
「お側に」
メイドさんを呼ぶと、完全にミニスカメイドと言っていい恰好のお姉さんが横に控えていた。
いや見た目は俺よりも年下っぽいんだけどな。
リビングで座ってる俺の横に片膝をついて控えてるから中身が見えそうな姿勢だ。覗かないけど。
「東門に地竜の死骸があるから魔導士協会の連中に買取させておいて。あと荷馬車の通行許可を」
「はっ」
風のように消えるミニスカメイドさん。スカートはピクリとも動かない。残念。
「閣下、今のは」
「俺の側近だ」
「飲食店の給仕者としてありふれた衣装。これなら周囲に忍びの者と認識されにくいですね。流石です」
「えっ」
「えっ」
「亜人国家連合では一般的なの?」
「亜人国家連合に属する国のほとんどの飲食店では、給仕をする女性はあのような格好をしていますが? ややスカートは短いようでしたが」
「なるほど。日本人ってアホなのな。俺も含めて」
「亜人国家連合では大人気の職業でしてな。公の場で給仕者以外があの恰好をすると罰せられるのです」
「あっそ」
アホ臭くなったので、シバ王を無視して食後のお茶を楽しむ。
お茶請けのピクルスが美味しいな。
いずれぬか漬けもやりたいが、クレアに毎日ぬか床をかき回させるのもなー。
などと考えていると、シバ王の護衛たちが戻ってきてシバ王に耳打ちする。
「閣下。献上、いえお礼の品が玄関まで届きましたのでご確認願えますか?」
「おお、ありがとうシバ王。じゃ早速見に行くか」
俺が立ち上がると、シバ王と護衛も立ち上がる。
サクラはまだ食後のお茶を堪能するようだ。随分父親に対して雑なんだな。
暴走したときに蹴ってほしいから来てほしいんだけど、寒いからついてこいって言いにくいんだよな。
結局サクラを連れて行かずに玄関に到着する。
「閣下、こちらです」
ばさっと荷馬車を覆う布を外すと、大量の木箱が満載されていた。
「中身は?」
「サクラから閣下は魚介類が食べたいとおっしゃられていたと聞きましたので、魚介類の干物や乾物がメインです。あとはカカオマスですね」
「おお! 干物!」
「お喜び頂けたようで安堵しました」
「亜人国家連合でも高いんじゃないの?」
「乾物はそうでもありませんね、保存がききますから。ただしフカヒレやアワビなどの高級食材の乾物は我が国でも高級です。干物は亜人国家連合でも贅沢品ではありますが、庶民でも月に何回かは食卓に上る程度ではありますよ」
「そうなのか、価格次第だけど定期的に輸入したいな」
「ただカカオマスはどうしても生産量が少ないので……」
「たしかにファルケンブルク領にある高級菓子店でもチョコレートは見かけないし、王都でも聞かなかったしな。王族のちわっこなら食べた事あるかもしれんが」
「ファルケンブルク領への主力輸出作物として生産量を増やしている最中ではあるのですが、収穫までは二、三年かかりますので」
「今は米もある程度輸入してるけどその内領内で生産した米を流通させたいからな。水稲技術を教えてくれたシバ王には悪いけど」
「いえ、疫病が発生した際の援助に対するお礼としては足りないくらいですし、飢饉などが発生した場合に他国より米を輸入できる体制を整えるという意味では重要ですし」
「そう思ってくれるのはありがたい」
「では早速運び込みましょう。お前たち」
「「「はっ」」」
「マジックボックスがあるからいいよ。小さめの荷馬車だし俺の十トンクラスのだけでも大丈夫かな」
「閣下は大容量のマジックボックスをお持ちなのですね。亜人国家連合では希少なので某でも一トンの物しか所持しておりません」
「ファルケンブルクや王都なら中容量の一トンクラスも金さえ払えば買えるんだけどな。それでも金貨百枚以上はするけど」
「金貨百枚は随分と安いですね。いずれ購入させていただきたいと思います」
「大容量でも時間はかかるが予約すれば買えるぞ。値段は時価だけどな」
「検討させていただきます。交易のおかげで財政に余裕が出てきましたから」
「お互いに利益が出てるならよかったよ。ああ、木箱にラベルを張ってくれてあるのか、助かる」
荷馬車から幌部分の骨組みまで外してくれていたので、さくっとマジックボックスに収納していく。
カカオマスか。ココアやチョコレートが作れるな。
ガキんちょどもの喜ぶ顔を思い浮かべると少しニヤけてしまう。
あいつらまた騒ぐんだろうなー。
好評なら定期的に輸入したいけど価格次第だな。
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