第十一章 ヘタレリゾート

第一話 リゾート地に行こう!


 初夏も過ぎ、ファルケンブルクにも本格的な夏がやってきた。

 学校は夏季休暇に入り、王都や周辺領地から来ている寮生は送迎馬車に乗って里帰りをする。そうなると当然、我が家には騒がしい連中が一日中居座ることになるのだ。

 寮にはまだ王都や周辺諸侯領から集められた孤児や託児所組が残って生活をしているから、寮母はじめ職員は交代制で休暇に入る。



「でじゃトーマ」


「なんだよ爺さん。というかいつの間に家に入ってきてるんだ。そして当たり前のように飯を食うな」



 そんなある日の朝、朝食を食っている俺に爺さんが話しかけてくる。



「ほれ、ドラゴン祭りのときの素材買取金と引き換えに全面協力したリゾート開発があったじゃろ?」


「引き換えじゃなくて一部免除な」


「細かいのうトーマは。でじゃ、送迎バスを用意したから早速これを食べたら行くぞい」


「なんでだよ」


「今日から開業すると言うとったじゃろうが」


「夏季休暇に間に合うように開業するとは聞いてたけどな」


「それが今日じゃ」


「ついにボケたのか爺さん、話がつながらないぞ。開業と送迎バスになんの関係があるんだよ」


「お前たちと一緒に、学校に残ってる寮生と職員も招待すると言うておったじゃろ」


「聞いてないぞ」



 朝から話の通じない爺さんと不毛な会話をしていると、飯を食い終わったらしい一号がぽてぽてと俺のもとにやってくる。



「兄ちゃん聞いてなかったのかよ、今日からそのりぞーとほてるってところに一週間行くって姉ちゃんたちが言ってたぞ」


「マジかよ、いつそんな話が出た?」


「先々週くらいかな?」


「初夏のドラゴン祭りのすぐあとくらいじゃねーか」


「だから俺も師匠に許可取って一足先に休暇を取ったんだぞ」


「そういや一号はもう普段なら出勤してる時間だな」


「そうだぞ。もうばっちり準備も終わってるぜ!」



 一号はがばっと服を脱いで水着になる。いつの間にか結構鍛えられてるな。鍛冶場で働いているから常に汗だくだろうし。

 っていうか違う! あまりにも一号がアホだから一瞬思考がアホになっていた。



「一号お前アホだろ、さっさと服を着ろ。というか俺はまだ飯を食ってるんだし埃が立つだろ」


「ごめんな兄ちゃん!」



 一号が脱いだ服をまとめて自室へ向かう。

 あいつ水着で出発してパンツ忘れたりしそうだな。もしそんな事態になったら笑ってやろう。



「お兄ちゃんの分の準備は終わってるよ!」


「でかした嫁」


「えへへ!」



 俺の準備をしてくれたのはありがたいけど、なんで二週間一度も今日のことを話題にしなかったんだ?

 サプライズというよりイジメじゃないのかこれ。



「というわけでトーマよ。送迎バスが今着いたんじゃが」


「マジかよ、急いで食っちゃうわ」


「でな、トーマよ。儂ら頑張ったから、もしリゾートホテルやビーチの出来が良かったら債務を少し減らしてほしいんじゃが」


「俺にはそんな決定権は無いぞ」


「領主じゃろ!」


「大まかな政策提案をするからあとは専門家のお前たちに任せたぞ、責任は俺が取るから。というスタンスだからな」


「随分と雑じゃのう」


「政治に詳しくない俺が政治に口出しをしても邪魔するだけだろ、うちの官僚は有能だから安心だしな。ちょっと過激なところはあるが」


「まあそれでも頼むトーマよ! 債務を減らしてくれい!」


「だから竜の素材で使わないところは市場に流せばいいだろ。割安で売ってるんだから全部の素材を右から左に流すだけで濡れ手に粟状態だろ」


「嫌じゃ嫌じゃ! 竜の素材は全部儂らで使うんじゃ!


「めんどくせー! わかったよ! アイリーンに一応言ってやるから!」


「おお! 流石トーマじゃ!」


「リゾート開発の出来次第だぞ! そこで利益を生み出せると判断したら貢献度を産出して債務からいくらか引いてやるようにアイリーンに言ってやるから」


「わかったぞい! さあトーマよ早速向かうぞい! 早く送迎バスに乗るんじゃ!」


「まだ食ってんだよ!」



 爺さんがやたらと急かすので、ばっさばっさと朝食を口に放り込む。めんどくさいな爺さんは。

 それにリゾート開発区域って城壁内の南東部分だからな。魔導駆動バスなら一時間もかからん距離だ、そんなに焦っても逃げないだろ。



「旦那様、寮生と職員の方は準備が整ったとのことで先行していかせますね」


「頼むクリス。全員連れて行く前提なら魔導駆動バスも複数台来てるだろうし、家の前を長時間塞ぐのもな」


「かしこまりましたわ旦那様。シルヴィア参りますわよ」


「えっ! 待ってくださいまだお代わりをしていません!」


「……もうそれくらいでいいでしょう。貴女このあと水着になるのですよ?」


「そうでしたっ!」



 クリスに諭されたシルはささっと自分の使った食器を片付けて自室に向かう。

 相変わらずアホなシルを眺めながら俺も食事を終え、食器を片付ける。



「はいお兄ちゃん!」


「さんきゅエリナ」


「うん!」



 エリナに渡されたバッグを抱え、すでにもぬけの殻となっていたリビングを出る。

 リゾート地って過去一度も行ったこと無いんだよな。江の島の海水浴場をリゾート地としてカウントするなら何度か行ったことになるが、少なくともリゾートホテルは初めてだ。民宿すら行ったこと無いからな。

 少しだけ、浮つく心を抑えながらエリナと家を出て、最後の一台になっていた魔導駆動バスに乗り込む。

 うん。楽しみだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――

 ――次回、水着回!



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