第十章 ヘタレ異文化交流

第一話 参謀総長

 



 エルフ王国へと親善に向かってからすぐにアイリーンや各担当官がエルフ王国へと向かい、今後の交流などについて打ち合わせをしてきた。

 もちろんシャルにも連絡済みだ。たとえ王国宰相の肩書を持っている俺でも、勝手に他国と国交を結ぶなんてできないからな。宰相として何もしてないけど。

 ファルケンブルクには年に一回は遊びに来ているシャルだが、エルフの話が伝わった途端、ファルケンブルクへ遊びに行くと騒いだらしいが、新年度に変わったばかりの多忙の時期で、予算編成すら終わってない状況でそんなことが出来るはずもなかった。「夏か収穫祭の前には遊びに行くからエルフを紹介して」とすげえ怒り狂った字で書き殴られた手紙を今朝がた受け取ったばかりだ。

 王都も好景気に沸いて滅茶苦茶忙しいらしいからな。すまんなシャル、次にこっちに来た時は盛大にもてなしてやるから。



「じゃあ仕事行ってくるからなエリナ、クレア、ミコト、エマ」


「「「いってらっしゃーい!」」」


「兄さま、みなさんへのお弁当とおやつを作ったので持って行ってください」


「あー忘れるところだった。ありがとうクレア」


「頑張ってくださいね兄さま。アイリーン姉さまも」


「ええ、ありがとうございますクレアちゃん」


「クレアの弁当とおやつが無いとあいつら暴れそうだからな」


「閣下、多分彼らはボイコットすると思いますよ」


「どうしようもねーな。仕事はちゃんとするから何も言えないところが辛い」



 エリナたちに見送られながらアイリーンと家を出る。

 ラインブルク王国から、ファルケンブルク伯領がエルフ王国との国交交渉を行う件について全権委任されたので、そのための領主会議なのだ。

 公式行事ではないので魔導公園の魔導コースターで登城する。

 クリスとシルは学校の授業があるので会議には不参加だ。


 ここ最近亜人国家連合から、観光や商売で訪れる人も増えてきた。

 それに伴い、魔導遊園地や魔導公園で遊んでる親子などが平日ながらも目立っている。


 つまり、今アイリーンと並んで魔導コースターに乗っている姿がシュール過ぎるのだ。



「まま―、あのおにいちゃんとおねえちゃんおしごとしてないのかなー」


「まあまあ、初々しいカップルだこと」


「ぺっ!」


「お客様、つばを吐く行為は他のお客様のご迷惑になりますのでご遠慮ください」



 発車前の魔導コースターは親子連れと、ブサイクおっさんで満席だ。

 というか今ブサイクおっさんは迷惑行為で強制的に降ろされた。

 そらそうだ。時と場所を考えろ。


 ブサイクおっさんが降ろされた後、きっちりおっさんの座っていたシートを消毒した後に魔導コースターが動き出し、無事に城のバルコニーに到着する。

 当たり前だが城の関係者と学校の関係者が朝に通勤用に使う以外は、基本遊具なので少し遅めの朝のこの時間帯は途中下車する客は皆無だ。

 降りるときに目立ってしょうがない。



「早いから良いんだけど、次からは馬車で迎えに来てくれよアイリーン。もしくは魔導ハイAで行くから」


「そうですね、もう朝の時間帯でも少し遅くなれば乗客が増えますからね」



 バルコニーからアイリーンに先導されて会議室に入る。

 すでにほかのメンバーは集まっているようで、全員起立したまま待機していた。

 珍しく爺さんがいないな。最近は魔素研究に加えて魔力料理の件も加わってエルフ姉妹と一緒にずっと忙しそうだ。

 エカテリーナもいつの間にかうちに住むようになってマリアの隣の部屋を占拠されたし。



「すまん、待たせた」


「閣下! 今日のお昼のメニューは何ですか⁉」


「うるせー。弁当箱とおやつの入った箱は預かったが中身は見てない。他に質問が無ければさっさと始めるぞ」



 俺が自分の席に座ると、アイリーン以外の連中も一斉に着席する。



「閣下、本日の議題です」



 アイリーンが目配せをし、女官が俺の元へ書類を持って来る。

 ざっと目を通すと、やはりエルフ王国との交易や交流関連なんかがメインだ。軍事関係の書類が毎回入ってるのはご愛敬か。



「この軍事関連を先にやっちゃうか」


「かしこまりました」



 書類を読み進めていくと、戦斗バイク甲型および乙型と、装甲機動魔導駆動車砲の導入に関する予算などが書いてある。仮称がいつのまにか取れてるな。

 あとはアイリーンが新設した参謀総長に就任する旨が書かれていた。



「参謀総長って……」


「今までは参謀本部を設置しておりましたが、魔導機動部隊を新設致しましたので、各部にて参謀部を設置し、それらを統括する役職として新設致しました」


「王国の王軍と組織を変えたら共同作戦の時とか困るだろ」


「王軍に我が領軍の指揮権をゆだねるようなことは想定できませんが、その場合にも対応できるように考慮してあります」


「他の部署の予算を圧迫しないんだな?」


「もちろんです閣下」


「わかった。なら魔導機動部隊の設置を許可する。それに伴う組織改編もな」


「ありがとうございます」


「しかしお前の負担はどうなんだ?」


「副官が育ってますからね、問題はありません。週休二日もそろそろ達成可能です」


「まだブラックのままじゃないか……」



 軍事関係に関しては、すべて勝手にアイリーンとか爺さんが決めたことを、俺が許可するだけだったのですぐに終わった。

 要求予算額も意外と少なかったしな。

 まあまずは試験導入ということで車両もそれほど多くなかったし。



「閣下、それと一式十二・七粍機関砲の試験で良好な結果が出ましたので、量産体制を整える為の施設の建設をしたいのですが」


「そんなに作るのか?」


「小口径ではありますが、使い勝手が良いので場所を問わず設置可能ですし、量産効果で低コスト化を図ろうと思います。使用する弾薬に関してもそうですね」


「ねえねえ、そんなに軍事力増強する必要はあるのか?」


「竜種の行動原理が判明しそうな今は特に重要だと思いますが? 一式十二・七粍機関砲であれば地竜の鱗にも効果があると試験結果にも出ておりますし、現在研究中の、各国への交易団に付随する護衛車両の搭載も検討しておりますし」


「それを言われるとな……」


「とはいえまずは月産二十丁の生産目標ですし、生産数につきましては今後の状況次第ということでどうでしょうか?」


「言いくるめられてる気がするけど、まあわかった」


「ありがとうございます」


「民間への予算を圧迫するようなら即座に中止するからな」


「お任せください」



 どうして軍事関連になると生き生きしてるんだアイリーンは。

 内政のスペシャリストじゃなかったのかよ。

 いや、交易団の安全に関することだから内政なのか? 結果的に領民を守ることに繋がるし、予算もそれほど多くはないから反対はしないんだがな。



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