第三十話 親善



 森を抜け、開けた場所に出る。




「トーマさん、ようこそエルフ国へ」


「む、もう入ったのか? 城壁どころか柵すらないのな」



 すぐに魔導ハイAを停車させて降車する。

 他国内で乗り回していい物じゃないしな。武装してるし。

 魔導ハイAをマジックボックスに収納する。魔導ハイAはフル装備重量で三トンを超えているので、俺のマジックボックスの容量十トンの三割を占めてしまうため普段は家のガレージに駐車しているのだが、ここに放置していくわけにはいかないからな。

 贈り物の荷車まで収納しているからかなりギリギリだ。いざというときの食料や水、サバイバル用品はマジックボックスから出して行けというエリナやクレアの忠告は当然無視した。



「お兄様、随分気温が高いですね」


「たしかに急に気温が上がったな」


「エルフ国は王の精霊魔法によって常夏なんです」



 エカテリーナがそういいながら上着を脱ぎ、半袖の服装になる。マリアも同様だ。

 ふたりの着ている服はまるでアロハシャツだった。



「それってアロハシャツ?」


「あろはしゃつ? いいえ、エルフ族の伝統的な民族衣装ですね」


「あっそ」



 マリアとエカテリーナに先導されて進んでいくと、すぐに建造物が見えてくる。

 中央にそびえる塔のような建物がやたらと目立つ。

 その周辺には石造りのような二、三階建ての建物が並び、塔に続く大通りには商店も並んでいて、人出もそこそこだ、

 木造住居とか木のウロとかに住んでるんじゃないんだな。随分と文化レベルは高い。

 建築技術なども王都やファルケンブルクと変わらないようだ。


 あと、あの塔にやたらと見覚えがあるんだが、大阪で有名なあの塔に。太陽の方じゃなくてよかった。



「あれが王の居る塔です」


「塔の名前は聞かないけど、結構にぎわってるんだな」


「そうですね、彼らは基本引きこもりですが流石に生活もありますからね、市場には嫌でも行くしかありません」



 エカテリーナの自国民ディスを聞き流して、大通りを歩きながら市場を眺めていく。

 肉や南国っぽい果物が主に売られていて、あとはアロハシャツ専門店とウクレレみたいな楽器や工芸品っぽい品が少し。

 完全に南国だな。

 視界に入るエルフ族は全員アロハ着用してるし。



「センセ! うちの店では食料品以外にもシャツなんかも扱ってますんでよければプレゼントしますよ! 父が!」


「アロハで国王と面会なんてできるわけないだろ。暑いけど我慢するよ」



 シルなんか鎧下が春秋物だから余計に暑そうだな。鎧自体もこの日差しで熱を持ちそうだ。



「エカテリーナさん、空調魔法を使っても構いませんか?」


「ええどうぞ」



 いいんだ。

 街中での魔法行使は危険なものじゃなければファルケンブルクでは問題ないけど、魔法を使えるのは基本的に貴族だから、町の大多数を占める平民は魔法が使えないからほぼ問題が無いというのが理由だけど、エルフは全員が精霊魔法を扱えると言っていたからな。町の中では魔法禁止とかは普通にありそうなんだけど、意外と緩かった。



「姉上ありがとうございます! わたくしは魔力温存に務めますね」


「懸念してるところはそこじゃないんだけどな」



 大通りを進んでいくと、やがて塔の入り口に到着する。

 文官らしきアロハのおっさんが、アロハの上に簡易な皮鎧を装着して槍を持った護衛兵士を伴って出迎えてきた。



「これはファルケンブルク伯! 本来ならこちらから使者を出すところをわざわざ伯爵自らご足労をお掛けするとは大変恐縮です」


「いえ、こちらの森林伐採など手落ちもありましたし。それとこれはエルフ国のみなさんへの贈り物です。どうぞお納めください」



 慣れない言葉遣いに少々苦労しつつ、マジックボックスから贈り物を満載した荷車を取り出して文官に渡す。



「おお! これはこれは! ありがたく頂戴いたします!」


「我が領の特産品です。お気に召していただけるとよろしいのですが」



 エルフの特徴だという細身で長身な体つきでアロハを着た、やたらと饒舌なこの文官はとても友好的に対応してくれる。というかチャラい。



「では伯爵、王がお待ちです。どうぞこちらへ」


「あの、武装解除とか魔法を封じるアイテムなどは……」


「王の周囲には腕利きの護衛がついておりますので大丈夫だと思いますよ。多分」


「さいですか」



 適当過ぎるなこのおっさん。

 こちらもエルフ国王をどうにかしようとは思ってないんだけどさ。


 チャラい文官に先導されながら、王が待っているという謁見の間に案内される。



「こちらです」



 扉の両脇を守備しているこれまたアロハな兵士がその重厚な扉を開けると、謁見の間の一段高いところに置かれた玉座のような座椅子に座る奇抜な髪形の男が、まるで足の裏を見せつけるかのように足を投げ出して座っていた。


 そうだよな。通〇閣と言えばこれだよな。



「よく来てくれました、ファルケンブルク伯。私はこのエルフ国を束ねる王、ケーンビリーと申します。貴国と貴領との親善はこちらも望むこと。有意義なお話合いが出来ればと思っています」



 ……アカン。





「すまんなクリス」



 エルフ国から出て、街道を魔導ハイAで北上中にクリスに謝罪をする。



「? 旦那様どうしたのですか?」


「あのおっさんを見てから意識が飛んでた。思考放棄したんだと思う」



 その後はよく覚えていないが、ビリ〇ンさんの姿をしたおっさんとクリスが色々話をしていたのはかろうじて覚えている。



「齢千を超えてあの生命力。エルフ族では珍しいふくよかな体を持ち、魔素を一度に扱える量もまさに数桁違うほどの大英雄だというのに、とても腰が低く友好的に接して頂きました。旦那様は一体何にご不満だったのですか?」


「外見」


「とても縁起が良さそうなお姿でしたが」


「クリス……お前知ってて言ってるだろ……」


「足の裏をかいて笑えば願いが叶うらしいですわ」


「絶対に知ってるよな、お前」


「あとは後日、お互いに使者を出し合って今後の件を詰めていくことに決まりましたわ」


「そうか。竜対策については?」


「それも今後の話し合いの中で決めていきます」


「結界内に籠ってれば竜に魔素は探知されないけど、狩りに出たりして見つかるケースが多いんだっけか?」



 なんとか記憶をたどり、先ほどの話を思い出す。

 そういやあのあと謁見の間からすぐに会議室に通されて打ち合わせをしたんだっけ。



「ええ、交易を始めた場合、一番の懸念材料がそこでしたから」


「防御兵器が充実してる城壁で囲うってのもな。そもそもエルフには魔力が充填できないし。火薬の大砲なら運用はできそうだが」


「そのあたりも含めてアイリーンに任せましょう」


「実際にアイリーンは有能だから任せてれば安心なんだが、結局あいつに負担がかかるのと、軍事に関しては危険思考だからな。サポートとブレーキ役を同伴させろよ」


「かしこまりました」



 エルフ国との友好関係も無事に築けそうで一安心だ。

 マリアの件も「まだ五年あるし頑張ってね。え? ファルケンブルク領と共同研究? ありがたいお話ですね。是非こちらからもお願いしたいです」という王の言葉で終わった。

 研究内容の権利とかそういう話は担当レベルで行うが、エルフ国と平等に利益が得られるようにアイリーンに釘を刺しておかないと。

 そもそも利益を出せるかどうかが問題なんだけどな。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



【あとがき】


茶山大地です。

いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。


皆様の応援を持ちまして、「カクヨムユーザー賞2020【ユーザー推薦部門】」で、拙作「ヘタレ転移者」が得票数2位となりました。

誠にありがとうございます!


今回、このような栄誉ある賞を受賞できましたのは、拙作をお読みいただき、応援してくださった皆さまのお陰です。

心より感謝申し上げます。

読者の皆さまのご期待に添えますよう、

これからより一層執筆活動に励んで参りますので

引き続き拙作「ヘタレ転移者」の応援を宜しくお願い申し上げます。


これにて九章は終了です。

次回更新より第十章が始まります。

「ヘタレ転移者」を引き続き応援よろしくお願い致します!


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