第二十八話 魔力の秘密


 エカテリーナに胸を触らせてもらえなかったミリィがしょぼーんと自分の席に戻っていく。

 なんでミリィはやたらと女性の胸に執着すんだろうか。わからんでもないけどあいつは女だしな……。


 クリスにでもあとで相談するかと思いつつ、テーブルの上に晩飯を乗せていく。



「いいかお前らー。ステーキとグラタンのお代わりは無いからなー。ステーキには塩コショウかオニオンソース、おろし醤油の中から選べよー」


「「「はーい!」」」


「じゃあ食っていいぞ」


「「「いただきまーす!」」」



 いきなりクリームシチューを白飯にぶっかけてる一号を見て、ずいぶん米食に慣れたなと思いつつ席に座る。

 俺の隣に座っているエカテリーナを見ると、ビーフステーキに目を輝かせている。



「一応ポテトのグラタン、ポテトコロッケ、ポテサラを用意したから食べてみてくれ。ベシャメルソースが合うならクリームコロッケも気に入ると思うぞ」


「はい! ありがとうございます! お肉のソースもオニオンとかおろししょうゆ? というのも美味しそうですね!」


「センセ! おろししょうゆソースめちゃ美味いわあ! ポテトグラタンも最高や!」


「結構こっちの料理もエルフにあうんだな。マリアだけ特別なのかもしれないからエカテリーナの意見も聞きたいが」



 エカテリーナは俺の言葉を聞くと、意を決したように、スプーンで掬ったポテトグラタンを口に入れる。



「熱っ! でも美味しい!」


「そかそか。コロッケやポテサラもガキんちょに人気だから食ってみてくれ」


「はい!」



 ガツガツと食うマリアとは対照的に、エカテリーナは綺麗な姿勢で食事を続ける。ただ食べるスピードはマリアに劣らないほど早い。



「パパ! シチューおいしい!」


「おいしいよぱぱ!」


「そうか、火傷しないようにちゃんとふーふーして食べるんだぞ」


「「はーい!」」



 お気に入りの皿に盛られた食事を嬉しそうにパクつくミコトとエマがとても可愛い。マジ天使。

 食事マナーもしっかりしてるし、少したどたどしいエマのフォローを忘れないミコトがすっかりお姉さんだ。



「あれ?」



 エカテリーナがポテトコロッケをナイフで切り分けようとして声をあげる。



「ちゃんと揚がってなかったか?」


「いえ、少し違和感が……」


「む、すまん。俺がマッシュポテトを成形したからクレアほど綺麗にできてないんだよ」


「違います、この『ころっけ』からごく微量の魔力を感じます」


「え? 魔力?」


「センセ! エカテリーナは魔素の感知能力がエルフ族の中でも高いんです!」


「ええ、そしてよく見てみるとこの『ころっけ』、いえ、『クリームシチュー』や『ぐらたん』などすべての料理に魔力を感じられます」



 テーブルに並べられた料理を、エカテリーナは目を凝らしながら見つめる。

 魔力を帯びているだと……?



「魔力を帯びてない物はわかるか?」


「探してみます……調味料には魔力はありません。ステーキソースの『おにおんそーす』には魔力がありますが『おろししょうゆ』には魔力は感じられないですね」


「調味料は買ってきたものだし、オニオンソースは手作りだが、おろし醤油ソースは大根おろしにしょうゆを加えただけ……」


「お兄ちゃんとクレアが作ったお料理に魔力が入っちゃってるのかな?」



 エリナが多分正解であろう回答を口にする。



「給食はアンナの母親はじめ、魔力の無い職員で作ってるよな」


「お兄ちゃんとクレアが作った魔力のあるお料理を食べると魔法が使えたり魔力が増えるんだね!」


「多分それだな。あとで給食をエカテリーナに鑑定してもらうか」


「兄さま、朝のお弁当販売は私たちで作ってますよね?」


「常連の客は魔法が使えるようになってるのがいるかもな。昼の弁当販売は職員が作って販売してるから、朝に売ってる弁当だけ魔力入りだな」


「兄さま……」


「そうだな、爺さんやクリスと相談するか。爺さんは町に着いた途端魔導士協会本部に帰っちゃったし、明日エカテリーナに給食を鑑定してもらってからでいいだろ」


「ですね」


「エカテリーナ、すまんがこの件に関しては箝口令を敷かせてもらう。そして明日、魔力の無いうちの職員が作る料理を見て貰いたい」


「ええ、わかりました」


「マリアもな」


「構いませんが、秘匿情報じゃなくなった暁には研究させてもらいますよセンセ!」


「共同研究ということになるだろうが構わんぞ。エカテリーナにも協力してもらうかもしれん」


「はい。お任せください」


「魔力を持つ人間が作る料理に魔力が籠るってなんで誰も気づかなかったんだ? クレアは関係なく<転移者>の俺がそういうスキル持ちなのか?」



 <転移者>だけが持つスキルだったり、実はあの案内人からこっそりチートを貰ってた結果、俺の作る料理だけに魔力が籠るとかな。

 あのクソアマのことだし可能性はありそうだ。



「お兄ちゃん、お貴族様って家に料理人さんを雇ってるからね、自分で作らないと思うよ?」


「なるほど、すごく納得したわ」



 あっさり案内人の陰謀論がエリナによって否定された。すまんな案内人。



「平民でも魔力を持ってて料理人になる人もいるとは思うけどね!」


「魔力が少ないと籠る魔力が少ないとか、そもそも籠められないとかあるかもしれないしな。その辺は検証していくしかないな」



 うちのガキんちょ全員が魔力持ちの理由が、俺とクレアの作る料理だったとはな。

 クリスの魔力が成人を過ぎてもまだ伸びてるというのもこれだろうな。



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