第二十一話 お披露目



「じゃあ行くぞー」


「「「はーい!」」」



 俺とエリナ、クレア、クリス、マリア、ミコト、エマ、爺さんを乗せた魔導ハイAが滑り出すように家の敷地を出る。

 我が家は貴族の旧別荘地だったこともあり、面している道路が広いためそのまま車で出入りできるのはありがたい。



「センセ! すごく乗り心地が良いんですね!」


「これは試作品で無駄機能がてんこ盛りだからな。魔導駆動バスはかなりコストを重視したからそれなりに揺れるぞ」


「市民登録証を持ってないと運賃が必要と言われて乗ってませんでした」


「一定区間なら一日二回は無料にしてるんだよな。市民登録証に回数を記録できるから」


先史時代の失われた技術ロストテクノロジーをそんな風に使うんですねえ。おもろいわーセンセ」


「深層心理ってほとんどの人間が嘘を付けないんだよな。よく考えたら滅茶苦茶恐ろしいアイテムなんだけど、まあせいぜい領民サービスに使ってやるさ」


「へえ、流石センセやわ!」


「流石の意味が分からん」


「ここ数年でファルケンブルク領は急激に発展してると王国内では評判ですしね。なるほど、センセが領主様なら納得です」



 優秀なのは俺じゃなくてクリスやアイリーンだけどな。と心の中で呟きながら運転を続ける。

 魔導信号機をいくつか通過すると、南門にたどり着く。



「お、領主さんかい」


「おっさん、ずっと門番ってことは出世できてないのか?」


「ははは! 一応ここの責任者ってことになってるから出世はしてると思うぞ」


「あっそ。愛想悪いのにな」


「ここの領主よりはマシなんだろうな」


「うるせー。この門をしっかり守れよおっさん」


「まかせとけ」



 相変わらずなおっさんに声をかけて門を出る。

 五年前からずっと変わらず門番だけど、一応出世はしてるんだな。


 あとでクリスに聞いたところによると、各門の責任者は有事の際に領軍が来るまでの防衛責任者として指揮権を持つ程の役職なのでかなりの高給とのこと。

 なんだ、結構な出世してるんじゃん。

 なんだかんだ面倒見がいいおっさんだから当たり前か。部下も良く慕っているようだし。



「この辺りでいいかな?」



 伐採が進み拓かれた区域に到着したので魔導ハイAを停車させる。



「お兄ちゃん運転お疲れ様!」


「三十分ってとこだけどな。さあ降りるぞ」


「「「はーい!」」」


「じゃあまずはマリアのセグAからだな」



 俺のマジックボックスに収納していたセグAを取り出してマリアに渡す。

 折りたたまれていたそれは、マリアの手であっという間に組み立てられる。



「じゃあセンセ、飛んでみますね」


「おう」



 組みあがったセグAにマリアが乗り込み、目をつぶって集中する。

 周囲から集めた魔素が反応したのか、セグAの足場の下半分が淡く光だして宙に浮き始める。



「マリアお姉ちゃんすごーい!」


「すごい! すごい!」



 ゆっくり上昇していくセグAに乗ったエマを見てミコトとエマが大はしゃぎだ。



 セグAが浮き始めた瞬間、それまで目を閉じていたマリアはニッと不敵な笑みを浮かべると一気に高度を上げる。



「おー! マリアさんすごいねお兄ちゃん!」


「いやマジでな」


「トーマ! あれを儂に売ってくれ!」


「俺に言うな爺さん。マリアと交渉しろ」



 高度を上げたマリアは、そのまま上空でくるりと輪を描くように周回を始める。

 結構なスピードも出るようだ。



「これは……たしかに空中浮遊砲台、いえ空中浮遊要塞へと発展する技術ですわね」


「クリス。お前いい加減その物騒な発想をやめろ」


「つーん」



 クリス、いや駄姉のアホな一面を久しぶりに見たなと思いながら上空のマリアを見上げる。

 十分ほど経過しただろうか?

 空中を飛び回ってたマリアだが、急に苦しそうな表情になり、高度を下げてくる。



「おいおいマリア、大丈夫か?」


「センセ! 魔素を蓄積したい理由がこれなんです」



 着地したセグAから降りたマリアが、膝に手を付きがら息も絶え絶えにそう言う。



「魔素を行使しているあいだは息を止めてるような感覚なのか?」


「ああ! そんな感じですね! 精霊魔法は術者が魔素を集めて、体内で変換して行使します。このセグAは乗り手が常に魔素を集めなければならないので、長時間の稼働が難しいんです。魔素を力場に変換する機能は付けたので、これでも稼働時間は伸びたんですよ」


「それで。魔素を効率よく変換するか、魔素そのものをコンデンサかキャパシタ、バッテリーみたいなもので蓄積する技術が欲しいってことか」


「そうですね、魔素の変換率を上げても術者の力量に左右されるので、できれば魔素を扱えない普人でも操作可能な蓄積式を開発したいところです!」


「儂が全面的に協力するぞい! マリアの嬢ちゃん!」


「えと……魔導士協会長のロイド侯爵閣下でしたっけ?」


「トーマみたいに爺さんで良いぞい。それより儂にも研究を手伝わせてくれ!」


「待て待て、一応マリアの研究に関してはファルケンブルクの技術開発部門の案件だ、魔導士協会には別途協力要請をするから勝手なことは言わないように」


「トーマは細かいのう」


「権利関係が発生するから最初にきっちりとやらないと駄目なんだよ!」


「マリアお姉ちゃん! エマちゃんを乗せて上げて!」


「お、ミコトちゃんはエマちゃんを優先してあげて偉いなあ! ええよ、二人とも乗せてあげる!」


「「わー!」」



 なんか勝手にミコトとエマがマリアのセグAに乗せてもらうことになっていた。



「クリス、二人に危険が無いように見張っててくれよ」


「もちろんですわ旦那様」



 クリスならいざというときは飛行できるし大丈夫だろ。

 それにしてもセグAが一般人にも扱えるようになって量産されたらとんでもないことになりそうだな。



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