第二十三話 姉妹
ひとしきり魔導駆動二輪車の魔導エンジンについて爺さんから説明を受けていたマリアは、話を中断してこちらへ歩いてくる。
「いやセンセ、ファルケンブルクの技術は素晴らしいですね!」
「おかしな方向に向かってるけどな」
「マリアお姉ちゃんお仕事終わったの?」
「おわったのー?」
ミコトとエマが俺の左右の足にしがみつきながらマリアに問いかける。
よっぽど遊んで欲しいんだな。
「あー、ごめんなー。もうちょっとかかるわー。お昼ご飯のあとくらいにまた一緒に飛ぼうなー」
「「うん!」」
マリアはしゃがみ込んでミコトとエマの頭をなでる。
随分子供の扱いに慣れているんだな。まあ長い事人生送ってるからかもな。
「ミコトちゃんとエマちゃんは本当に仲のええ姉妹やねー」
「「えへへ!」」
「じゃあまたあとでね!」
「「はーい!」」
ミコトとエマに手を振りながら、マリアはセグAを抱えて爺さんのもとへ戻る。
マリアはセグAを爺さんに見せながら再び打ち合わせが始まった。
「なるほどの、このセグAの基部自体が魔素を力場に変換する術式のようなものなのか」
「ですです。魔素を用いた精霊魔法と同じ理論で空中浮遊の術式は存在していたのですが、今まで誰も操れなかったんです」
「魔力を用いた飛行魔法は存在するが、こちらも行使できる人間は王国内でも十指に足りんじゃろう。消費魔力が膨大過ぎて有効活用も難しいでの」
「こちらには魔石に魔術を直接書き込む技術があると聞きましたが」
「飛行魔法を刻める魔石は今までで一度も存在したことが無いんじゃ」
「なるほど、それで魔力そのものを蓄積する技術開発をされておられたのですね」
「人工魔法石で初級魔法一回分の魔力をなんとか。と言ったところじゃ」
「おおー。それでも素晴らしいと思います!」
「じゃろ? じゃろ?」
なんか滅茶苦茶ふたりで盛り上がってるな。
「あのふたりの話は長引きそうだな」
「そうだねお兄ちゃん!」
「どうせなら二人の自転車の練習でもするか」
「するする!」
「するー!」
自転車はすでにこの世界に伝わっていたが、一部マニアが職人に作らせて所持してる程度で一般には普及してなかったが、去年あたりにママチャリ型を量産して売り出したのだ。
ノーパンクタイヤ仕様で販売したが、ゴムが貴重なために自転車自体が高価になってしまい全然売れてない。それに加えて免許取得の必要はないが、それ以外は魔導駆動車と同じ扱いの交通ルールにしたためハードルが上がってしまったというのもある。
公道で乗るにも年齢も十五歳以上だしな。
なのでミコトとエマにも自転車の乗り方を教えているが、乗れるようになっても家の庭や学園のグラウンドなどに限られる。
「じゃあ押すぞー」
「パパ! ぜったいにはなさないでね!」
「わかったわかった」
「ぜったいだよ!」
「はいはい」
自転車に乗るときのお約束のやり取りをしつつ、ミコトの乗る自転車の荷台を掴みつつ、まずはミコトの練習の相手だ。
エマはすでに自転車をマスターしてるエリナとクレアが指導する。
クリスは二人が転んだ際に、すぐに魔法で怪我をしないように対応するため臨戦態勢に入った。
「わっわっ!」
「ハンドルはまっすぐな」
「だって!」
「スピードが出れば安定するから」
「わかった!」
ぐいっとペダルを強く踏み込むミコトによって自転車の速度が少し上がり、車体が安定しだす。
「お、良いぞミコト!」
「ほんと⁉」
「ああ、そろそろ手を放していいんじゃないか?」
「だめ!」
「でもこのままじゃひとりで乗れないぞ」
「でも……ってパパ! なんかきれいなお姉さんがいるよ?」
「ん?」
ミコトの向ける視線を追うと、マリアのような輝くエメラルドグリーンの髪を腰まで伸ばした少女がこちらに向かって歩いてくる。
ほぼ同じタイミングでクリスも気づき、いつでも防御結界を発動できるようにその少女の動向に注目している。
「きれーな人だねパパ!」
「同じ髪の色だしマリアの関係者か?」
その少女は自転車の練習をしているミコトやエマをちらりと見ただけで、今まさにセグAを分解しているマリアのもとへ一直線に向かう。
「そこの方! 申し訳ありませんが、今は軍事機密を扱っております。それ以上近づくのはご遠慮くださいませ!」
「申し訳ありません、そこのマリア・メディシスは私の身内なんです」
「やはりか」
「旦那様、これでエルフ国にマリア殿の所在がバレてしまいましたわね」
「仕方がない。身内と言ってたし連れ戻しに来たのかもな」
「姉さん!」
その少女がマリアの側までたどり着くが、姉さんと呼ばれてもマリアはセグAの説明に夢中で気づかない。
姉さんと言ってたな。マリアの妹か。
国の許可を得て外遊に出たとか言ってたけど……なんかめんどくさいことになりそうだ……。
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