第八話 超音速魔導ミサイル


「エリナたちも食べてみろ、朝飯を食い終わったばかりだから少しだけだけどな」


「「「うん!」」」



 クレアが持ってきた小さめの器に、スープの素を入れ鍋で煮た麺を入れてやる。



「おいしーねエマちゃん!」


「うん! みこねー!」


「美味しいよお兄ちゃん! クレア!」


「姉さまありがとうございます」



 ミコトもエマも器用に箸を使ってずるずると麺をすすっている。行儀作法が完璧な我が娘たちを見ていると親として誇らしくなる。

 味は問題ないんだよな。あとはできるだけ低コストで量産できれば……。

 カップ麺タイプも販売したいが容器をどうするかだよな。木製か、耐水耐熱処理をした紙あたりが無難か。

 鍋を使う袋麺タイプは袋に入れずにそのまま売ればいいし、大口には木箱でいいし。


 なんとか即席麺の製造も可能だなと考えていると、給食室にアイリーンが入ってくる。



「閣下、こちらにおいでと聞きましたので参りました」


「どうしたアイリーン」


「エルフ王国の防衛兵器の試作が出来ましたのでご覧いただき、正式採用の許可を頂きたいのです」


「おお、そういや今朝納品したばかりじゃったのう!」



 爺さんも知ってたのか。まあ兵器開発に魔導士協会の協力は必須だしな。



「たしかにエルフ王国とは竜種に対抗するための防衛協定は結んだが、対抗策なんてあるのか? 天竜相手には人海戦術しかないだろ? 隕石で叩き落とすのがセオリーと聞いたが」


「魔導砲と魔導高角砲では威力が足りませんし、一式十二・七粍機関砲も大量の弾薬を消費してなんとか地竜に対抗できるというレベルですからね。現時点では天竜に対してはメギドフレアかメテオフォールでないと対抗できません」


「それで新兵器か」


「はい。外に用意してございます」


「じゃあ見てみるか。エリナたちは食べてていいぞ」


「「「はーい!」」」



 アイリーンと爺さんを連れて給食室の外に出ると、トラックのような魔導駆動車が駐車させていた。

 車体もオリーブ色だし、軍用トラックのような輸送車両だろうか?



「アイリーン」


「はっ、こちらは新開発の兵器を載せた新開発の魔導駆動トラックとなります」


「魔導駆動トラック?」


「この魔導駆動トラックそれ自体も人員や補給物資を運ぶ輸送用車両として運用したいのですが、今回は荷台に乗せている兵器を是非見てください。お願いします」



 アイリーンが魔導駆動トラックに乗るメイドさんに合図を送ると、荷台がパカっと開き、中から発射台に乗せられたミサイルが姿を見せる。



「おい」


「ロイド卿、説明をお願いします」


「ふはは! トーマよ! すごいじゃろすごいじゃろ! 名付けて超音速魔導ミサイルじゃ!」


「すでに魔導関係ないな。あとファルケンブルク領軍は一体どこに向かってるんだ?」


「軍拡じゃろうなあ……」


「誰のせいだ!」


「とはいえトーマよ、引きこもりのエルフを引っ張り出したのはお前じゃぞ? そのエルフの安全を担保するのも領主の仕事じゃないのかの? ファルケンブルクの領民だって南部大森林では危険な目に合うかもしれないんじゃぞ? サクラの嬢ちゃんや農作業に従事してる人間もじゃの」


「むむむ……」


「何がむむむじゃヘタレ。今までの軍備は自領民を守るためじゃろ? 領民を守るための兵器じゃぞ、どこに遠慮する必要があるんじゃ」


「……わかった。このミサイルについて説明しろ」


「うむ。マリアの嬢ちゃんとエカテリーナの嬢ちゃんとの研究の副産物でな、魔力を充填したクズ魔石を特殊な工法で砕き粉状にしたものにある特定の魔力を通すと、火薬以上の規模の爆発を起こすんじゃ」


「あぶねーなそれ。あと魔導関係あったわ」


「その特性を使って起爆用魔石を開発したんじゃ。ミサイル自体を推進させる風属性の魔石粉マジックパウダーと、目標に命中したときに起爆させる火属性の魔石粉マジックパウダーを詰め込んだ兵器じゃの。推進用の魔石粉マジックパウダーが残ってればそのまま爆発力に上乗せされる素敵仕様じゃ!」


「素敵仕様って爺さん……」


「起爆用魔石は製造に少し手間がかかるが、魔石粉マジックパウダーはクズ魔石が原材料なので低コストじゃ」


「威力は?」


「推進剤を使い切ったあとでも天竜を一撃で倒せる威力は出る計算にはなっておるの。ちなみに射程距離は百キロ以上じゃ。そこまでのレーダーはまだ存在しないからオーバースペックじゃがの。ただ余った推進剤は全て起爆の時に燃焼されるから無駄ではないしのう」


「超音速は良いけど、そもそも命中させられるのか?」


「超音速で飛ぶから天竜と言えども回避はできんし、ブレスでの迎撃も難しいじゃろう、高温では起爆せずに衝撃でのみ起爆する仕組みじゃしの。一度ロックオンしてしまえば自動追尾機能も備えておるし、仮に一撃で倒せなんでも、空から叩き落すことは可能じゃろうて」


「超音速に自動追尾かよ……」


「どうじゃトーマよ」


「現状、爺さんやクリスのようなメギドフレアの使い手がいない場合では、この超音速魔導ミサイルが現状一番有効なんだな?」


「もちろんじゃ。メテオフォールで叩き落す方法でも飽和攻撃の必要があるから術者は複数人必要じゃしの」


「わかった。詳しい予算はあとで説明させるが、とりあえず正式採用を認める。魔導駆動トラックもな」


「おお! 量産は任せい!」


「ありがとうございます閣下。デモンストレーションが出来ればいいのですが、流石に適当な目標物がここにはありませんので」


「あのキマシタワーを狙って撃ってみれば良いんじゃね?」



 北側に見える、五年間は怪しいネーミングが確定した塔を指さして言う。

 無くなったら施設命名権もチャラじゃね? 事故か何かで施設が失われた場合なんかは特例で違約金を払わないで済むかも。



「何故じゃ! 監視塔じゃぞ! 早期警戒の要じゃぞ!」


「名前が気に入らない」


「スポンサーじゃぞ!」


「いいじゃないか、隣の防御塔が変形して防御するんだろ?」


「超音速の飛翔物体を迎撃できるわけがなかろう!」


「防御できないものを作るなよ……。敵に奪われたらどうするんだ」


「遠隔操作して敵の陣地で爆発させるに決まってるじゃろ」


「そういう所は凝ってるのな」


「当たり前じゃ」



 中々に面倒くさい。

 施設命名権に関する追加条件は付けたが、すでに契約後なためにキマシタワーの名称は五年間そのままなのは決定している。

 どうにかならんかなあれ。


 アイリーンの話によれば、南部宿場町に併設された防御陣地に数両の超音速魔導ミサイル搭載車両を優先配備し、ファルケンブルクの城壁には固定発射台を設置して超音速魔導ミサイルを装備するとのこと。


 これで竜種に対抗する装備が整うわけなんだが、どんどんハリネズミみたいに防衛力が強化されていく現状に頭が痛くなるばかりだ。

 まあ観光客も増えたし、竜に襲われる町なんて悪評が立つのは勘弁してもらいたいところだしな。

 むしろ竜種の素材が集まる町とポジティブに考えていくか。



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