第九話 物産展 亜人国家連合の場合



 超音速魔導ミサイルの量産許可を出した明朝に、三両の超音速魔導ミサイル搭載車両の配備が済んだという報告を受けた。

 仕事が早すぎるというか、許可が出る事前提で動いてるだろ……。


 そんな報告を受けた朝、弁当の製造と販売はすでに職員に委託しているため、いつもならゆっくり朝食を食べている時間なのだが、以前領主会議で議題に上がっていた亜人国家連合とエルフ王国のアンテナショップが開店し、各国の特産品を集めた物産展を今日から大々的に行うというので、朝食もそこで食べようということになった。


 今日は休日で野球の試合も無いため、ガキんちょどもはいくつかのグループに分かれて物産展に行くようだ。

 ならちょうどいいと、朝飯とついでに昼飯も現地で食べるようにとすでに小遣いを渡してある。



「ご主人様っ! 早く行きましょう!」



 サクラはぶんぶんと尻尾を振りながら早く早くと俺の腕を引っ張る。

 すでにガキんちょどもやエリナたちも物産展へと行ってしまった後だ、ここには俺とサクラしか残っていない。



「わかったわかった」


「ご主人様にお勧めしたいものがいっぱいあるんです!」



 数日前から亜人国家連合のアンテナショップに泊まり込んで物産展の準備をしていたのでかなりの張り切りようだ。

 逃げられるとでも思っているのか、サクラにガッチリと腕を掴まれて孤児院を出る。



「でもさ、亜人国家連合の食べ物や工芸品なんかはすでにかなりの種類が入ってきてるだろ? 目新しい物なんてあるかな?」


「わんわんっ! ありますよっ! ご主人様でも見たことが無いような凄いものが沢山あるんです!」



 眼をキラキラと輝かせながらサクラは物産展のアピールをしてくる。

 自分の国をアピールする絶好の場だしな。



「わかった。楽しみにしてるよサクラ」


「わふわふっ! 楽しみにしててくださいねっ!」



 サクラは尻尾がちぎれるんじゃないかと思うほどぶんぶんと振りながら、より俺にしがみついてくる。

 まだまだガキんちょだな。と思いながらそのままサクラと腕を組んだ状態でてくてくと市場に向かう。


 城壁拡張に合わせて区画が広げられ拡張された市場エリアは、ファルケンブルクの商店や露店などが並ぶ区画と、亜人国家連合の商店が並ぶ区画、エルフ王国の商店が並ぶ区画と区割りされている。

 まだまだ区画に余裕はあるけどな。



「休日ともなるとかなりの人出だな」


「そうですねっ!」



 市場の区画に入ると、早朝にもかかわらずかなりの人でごった返していた。

 いや早朝だから混むのか?

 ファルケンブルクの区画なのでなじみの店も多い。そういや今日の晩飯の材料をついでに買うかといつもの店を覗いてみるが、野菜売りのおばちゃんの店も肉屋の親父の店も大盛況だ。

 声を掛けようかと思ったが滅茶苦茶忙しそうなので、あとで寄るか。



「そういえば亜人国家連合の景気って良くなってるのか?」


「はいっ! 亜人国家連合で算出される鉱石を高く買ってもらえますし、高級米やファルケンブルクでは育たない農産物なんかが売れてますしねっ!」


「なら良かった」


「輸入される魔石や魔導具も、ファルケンブルクで買うのとあまり変わらない値段で買えるので助かってるようですよっ!」



 だがこれはアイリーンが亜人国家に対して優しいから考慮したとは言い切れないのだ。

 魔導具と、魔導具を動かすために必要な魔石。

 多少の利益に目をつぶっても、魔石の産出が少ない亜人国家連合に魔導具への依存度を高めてしまえば、亜人国家連合の首根っこをファルケンブルクが掴むということになりはしないだろうか?

 まさかな……。



「魔導具が便利だからってあまり依存しないようになサクラ」


「? はい。でも魔導炊飯器で炊いたご飯がすごく美味しいって犬人国では大人気なんですよっ! すぐに他の国に広がると思いますっ!」


「遅かったか……」


「あっ! ご主人様っ! 着きましたよっ!」



 いつの間にか亜人国家連合の区画にたどり着いたようだ。

 サクラが指さす方向を見ると……。



「あのさ……」


「どうですかっ? 珍しいでしょ? おでんとか美味しいですし、こけしも可愛いですよねっ!」


「昭和かな?」


「しょーわ?」


「センスがな。でもたしかにおでんとか饅頭は美味そうだ。おっ! 牛すじ豆腐! 豆腐はファルケンブルクじゃ食べられなかったんだよな!」


「ご主人様から教わった充填豆腐を持ってきたんですよっ!」


「おお、実用化したのか」


「技術者の派遣や開発資金の協力もしてもらいましたからねっ!」


「そうか、今後はアンテナショップで豆腐が買えるのか、ありがたいな」


「ですですっ! いっぱい買ってくださいねっ!」


「おう、毎日買っても良いな。和食はもちろんマーボー豆腐とか中華料理にも使えるし」


「ぜひ味をみてくださいっ!」



 そう言ってサクラが俺をフードコートと化している場所に連れて行き席に座らせると、煮売りの屋台から牛すじ豆腐を持って来る。

 豆腐か、久々だな。

 一緒に渡された割り箸をパキっと割り、早速牛すじ豆腐を口に入れてみる。



「美味いぞサクラ! いやー豆腐を食べるの久々だけどやっぱり美味いな!」


「良かったですっ! おでんはどうですかっ?」


「練り物もちゃんとあるのか、大根やロールキャベツ、玉子なんかのおでんは作ったことあるが練り物が無かったんだよな」


「じゃあ持ってきますねっ!」



 昔、差別されていた亜人を連れて独立国家の成立に協力したのが日本人の<転移者>って話だから、亜人国家連合は日本文化が珍重されているってのは知ってたけどまさかここまで影響されていたとはな。

 こけしとか意味不明すぎる。風鈴とか金魚の入った金魚鉢なんてガラス製品まであるし。

 どうせなら魔石を使った携帯ゲーム機とか作ればよかったのに。



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