第四話 地獄の断頭台
娘ふたりがそれぞれ魔法を披露し、見事に結果を出した。
エリナとクレアは普通に喜んでいるがそれが普通の感覚なのだろうか。
「じゃあ、つぎはえまね!」
はいはいはい! とエマが手をあげて宣言する。
魔物狩りに忌避感がないどころか随分と積極的だ。親としてこれは看過して良いのだろうか……。
「じゃあお兄ちゃん、次のダッシュエミューを追い込むね!」
「……ああ、頼むエリナ」
「うん!」
そういうとエリナは、自身の装備を再確認し少し緩んだリボンを縛りなおす。
よし! と気合を入れなおし、妙に張り切っているエリナがきょろきょろと周囲を注視する。
視界内にダッシュエミューが何匹もいるのでいちいち探査魔法を使う必要はないので、エリナは音響弾を使ってこちらに追い込めそうな獲物を見極めているのだ。
「失敗してもすぐポップするし、あまり吟味しないでいいぞ。帰るときには範囲魔法で大規模な駆除をするつもりだし」
「お兄ちゃん! あれ!」
エリナが大声で指を差す方向を見るが、何も見えない。
「
探査魔法を行使し、エリナの示す方向を調べてみると、ダッシュエミューより一回り以上大きい生物が、ダッシュエミューを追っている。
「お兄ちゃん見た?」
「ああ、ブラックバッファローがこっちに向かってるな。人を襲う魔物だし駆除しよう。エリナ、迎撃の準備を」
「わかった!」
「ぱぱ! まま! まって! えまのばんでしょ!」
「そうだよ! パパ! エリナまま! エマちゃんの番だよ!」
「うーん。危なくなったらパパたちで駆除するぞ?」
「「うん!」」
エマがぽてぽてと前に出る。
「エリナ、上手く誘導できるか?」
「やってみる。ソニックバレットよりもファイアアローを当てて怒らせたほうが良いかもね」
「任せる。逃がしそうになったらメギドアローで仕留めちゃっていいからな」
「わかった!
エリナが威力を抑えたファイアアローをブラックバッファローに命中させると、エリナを敵と認識したのか、ダッシュエミューから目標をエリナに変えて向かってくる。
「エマ、良いぞ」
「うん!
百メートルほどまで迫ってきたブラックバッファローに向けて、エマが中級の火魔法を行使するが避けられる。当たらなかったのを見て「
そうこうしているうちに、ブラックバッファローが俺たちから五十メートルほどまでに接近してくる。
「エリナ!」
「まってパパ!
エリナにブラックバッファローを仕留めろと指示を出すが、ミコトがそれを制止して前に出ると中級魔法のアイスバインドを行使する。
ブラックバッファローの足元から氷の蔦が発生し、その巨体を絡めとる。
だがブラックバッファローは自身の体を拘束する氷の蔦をバリバリと無理やり引きちぎって前進しようとする。
「効いてないか?」
「だいじょぶ!」
ミコトは両方の手のひらをかざしたまま、引きちぎられた氷の蔦を操作し、再び結合させるとブラックバッファローを再度絡めとる
引きちぎっても引きちぎっても何度も氷の蔦に絡めとられ、ブラックバッファローの前進がとうとう止まってしまう。
「なんて器用な……」
「エマちゃん!」
「うん! みこねー!
エマが石を生成する中級の土魔法を行使すると、ブラックバッファローの五メートルほど上空に、直径二メートルほどの丸鋸の刃のような型をした石を生成する。
「まさか……」
「じごくのだんとうだい!」
<ザンッ!>
「うわあ……」
氷の蔦で身動きの取れないブラックバッファローの首に、エマがどこかで聞いたことのある技名を叫ぶと同時に丸鋸の刃を落下させ一撃で仕留める。
というかさ、娘ふたりしてなんで魔法名以外に必殺技みたいな技名を叫ぶの? 誰だこんなことを教えたのは。
あとセンスが古い。
「みこねーのおかげだよ! ありがとー!」
「んーん! エマちゃんがすごいんだよ!」
「ふたりとも凄いよ!」
「本当に凄いですよ! ミコトちゃん! エマちゃん!」
「「えへへ!」」
なんかエリナとクレアに褒められた娘ふたりがすごく喜んでて、一見和やかな雰囲気を醸し出してるけど、五十メートルほど先には首を切断されたブラックバッファローが血まみれで転がってるというグロい光景が広がってるんだよな。
「エマもその技名を変えような」
「えー!」」
「やっぱり『うるとらす〇っしゅ』がいいよエマちゃん!」
「えー」
「そっちも駄目だし、ミコトのセンスは古すぎだぞ」
「えー!」
でもミコトの炎の輪よりはエマの丸鋸の方が近いよなと思いつつ、未だピューピューと血を吹いているブラックバッファローを見る。
あれを回収するのか……グロいな。
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