第四話 シャルロッテ


 態度の悪い騎士に怒鳴りつけた後にこちらを振り向くと、またにぱっと笑顔になるガキんちょ。



「お兄さんお兄さん、助けてくれてありがとうね」


「いや、そりゃ良いんだが……なんでお兄さんなの?」


「お兄さんだから?」


「お前そういや名前は?」


「シャルロッテ。シャルロッテ・エーデルシュタイン」


「シャルロッテか、ならシャルだな」


「シャル! シャル……えへへ! シャルって呼んでね! お兄さんのお名前は?」


「トーマだ。トーマ・クズリュー。お前、シャルは何歳なんだ?」


「トーマお兄さんだね。わたしは十五歳。お兄さんは?」


「十九だな。しかし十五歳ね……ちょっとガキっぽいぞ」


「そっかな?」


「貴様……いい加減に……」


「そこのお前、トーマお兄さんとの会話を邪魔するな!」


「はっ、いやしかし」


「お前、露骨に言葉遣いを変えるのは良くないぞ、たしかにそこの騎士の口の利き方は気になるが、一方的に怒鳴りつけるのは駄目だ」


「ん。じゃあちょっとトーマお兄さんとお話しするから黙ってて」


「はっ」


「お兄ちゃんのいう事は聞くんだねこの子」


「誰?」


「お兄ちゃんの奥さんだよ! エリナ・クズリュー! よろしくねシャルちゃん!」


「シャルちゃん……うん! エリナお姉さんはお姉さんでいいのかな?」


「私は十六歳だからね、こっちのクレアは十歳だからシャルちゃんの方がお姉さんなんだよ!」


「えっと、クレアです。兄さまの婚約者です。シャルさんよろしくおねがいしますね」


「クレアちゃんね。よろしくね!」


「はいっ」



 なんか知らんが嫁同士の自己紹介が始まる。

 駄姉だけ少し考えこんでいたようだが、「わたくしはクリスティアーネと申します。よろしくお願いいたしますわね。シャルちゃん」

と話していた。

 王女殿下をシャルちゃん呼ばわりするのに躊躇したのか、それとも何か打算でもあるのか。

 多分後者だ。

 そのままきゃっきゃと話が盛り上がっている。

 あんな口の利き方をしてたからどうかと思ったが、普通の女の子だな。



「閣下!」



 ベルナールが戻ってきて下馬する。

 他の二騎はまだ向こうで倒れてる野盗を縛ったりしてるようだ。



「ベルナールどうだった? 連中は死んでたか?」


「いえ、少々火傷を負っていましたが、全員生きておりました。心臓が止まって仮死状態だった者も治癒で助かりました」


「そうか、まあどっちにしても王女に手を出そうとした時点で極刑は免れないだろ。寿命が少し伸びただけか」


「残りの野盗の所在などを吐かせるためにも生存者は多い方が助かります。閣下、この度はお見事な手腕でございました。親衛騎士団を代表して御礼申し上げます」


「疾風とライトニングソードを併用したうえでの攻撃魔法だったとはいえ、殺傷能力が低すぎるのは問題だが、今回はそれが功を奏したって所か」


「……閣下?」



 先程俺を怒鳴りつけてきた騎士が呟く。



「イザーク、こちらはファルケンブルク伯トーマ・クズリュー閣下だ」


「伯爵っ……、し、失礼いたしました! 閣下!」


「いや、構わないんだけど、お前も露骨に言葉遣いを変えるのは良くないぞ。木っ端貴族とか言ってたしさ」


「イザーク貴様……」


「いやベルナール、閣下が王女殿下を怒鳴りつけるからつい……。閣下、失礼な言動大変申し訳ありませんでした!」


「ああ、もういいから氷漬けになっていない野盗を縛るのを手伝ってきてやれ」


「はっ!」


「閣下、同僚が大変失礼をいたしました」


「もう気にしなくて良いけど、氷漬けになった連中は今日一日はそのままだそうだ。あの氷の魔法を解除できる奴を連れて来て捕縛する手配なんかは頼んだぞ。あとわざわざ野盗のアジト方面に逃げたお前らの練度とか心配なんだが、いくら地竜と遭遇したからと言ってパニックになり過ぎだぞ」


「はっ、大変面目御座いません。凍り付いた賊どもに関してはお任せください」


「で、シャルだが、どうするか」



 いい加減この状態で話すのは恥ずかしくなってきたので、駄姉の膝枕から上半身を起こす。



「お兄さん王都に行くんでしょ?」



 シャルが嫁たちの輪から出てぽてぽてとやってくる。



「そうだが」


「ならわたしが一緒に行ってあげる!」



 安全を考えたらその方が良いか。

 ベルナール以外の護衛騎士団員は俺の電撃の槍で倒れた奴を縛るのに手いっぱいだし。



「……ベルナール、お前もついて来てくれ。証明できる人間がいないと俺達が誘拐犯扱いされるしな」


「かしこまりました。では部下にその旨伝えてきますので少々お待ちいただけますか?」


「すまんな」



 ベルナールが騎乗して部下の方に行ったのを確認すると、立ち上がって駄姉に汚れを落としてもらう。

 その後、駄姉が白魔法で全員の汚れを落とし、馬車の客車内で騎乗服のズボンを脱いだりと準備しているとベルナールが戻ってくる。



「閣下、お待たせいたしました。王都までご案内いたします」


「任せる。敵が出たら教えてくれよ、俺たちで駆除するから」


「はっ」 



 そう言い残して、嫁たちとシャルで馬車に乗り込む。

 行きはエリナとクレアの間に座っていたが、エリナが「シャルちゃんはお兄ちゃんの横に座りなよ」と席を譲って向かいの駄姉妹の間に座ったので、シャルは俺とクレアの間に座る。



「お兄さんお兄さん、お兄さんは王都の人じゃないよね? 王都へは何しに来たの?」


「お前、お兄さんが多いな。叙爵式に出るんだよ、三日後な」


陞爵しょうしゃくじゃなくて叙爵ってことは、お兄さんは平民から貴族になるんだね! わたしも貴族だから一緒だ。髪の色も一緒だし!」


「俺は<転移者>だからな。シャルの場合はこっちでは珍しいんだろ?」


「王族は何代か前に<転移者>の血が入ってるからね、たまに黒髪や黒い瞳の王族がいるんだよ」


「あー、そうか、年代関係無く送り込まれるみたいだしな。未来人の<転移者>なんかもいるのかな」


「よくわかんない。最近の<転移者>は何故かみんな亜人国家に行くみたいだから」


「けもみみ萌えって奴か、なんで性癖が偏ってる奴が多いんだ……。ヘタレに多い性癖なのか?」



 <転移者>が亜人国家で悪さしてないと良いなと思いながらも、悪さできないからヘタレなんだよなと妙に納得しながら、シャルに色々質問攻めをされながら王都に向かうのだった。

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