第六話 ドラゴンスレイヤー
やっちゃった......。
どうしよう......。
領主家に喧嘩を売ってしまった。
町を移るか? ガキんちょ共を連れて?
金を使った後だからなーくっそ。
病院じゃなくて治療院って所から出た瞬間、両腕に嫁と妹が抱き着いてくる。
「エリナは大丈夫だったんだよな?」
「うん! 魔力が無くなっただけで傷一つないよ! お兄ちゃんが守ってくれたんだよ!」
「そか。良かったよ、あのゴミクズが無傷でエリナが怪我してたら本末転倒だったからな。あとごめんなエリナ、クレア」
「なんで?」
「どうしたんです兄さま?」
「え、だって領主家に喧嘩売っちゃったし」
「あれは、支援なんか今後もいらないぞー! おれたちだけでやっていくからなー! 納税はしっかりするからじゃまはするなよー! っていう宣言じゃないの?」
「ですよね姉さま。兄さまかっこよかったですよ」
「うーん、マイルドに言えば確かにそんな感じだが。あと結婚指輪を無くしたのがな、エリナごめんな」
「お兄ちゃんが助かっただけで十分だよ! それにあの指輪で増幅したからギリギリ倒せたのかもしれないし、今度は私がお兄ちゃんへ魔法石の指輪をプレゼントするからね!」
「まああれは俺が買った奴だし、あれのお陰で命を拾ったと思えば安いもんか。金貨一枚以上したけど」
「えっ、そんなにするの? お兄ちゃん」
「あー、内緒にしておこうと思ったんだが、エリナの方が高いんだぞ。エメラルドの魔法石だしな」
「お兄ちゃんありがとう......。あの頃にこれを買うのって大変だったんじゃない?」
「割とな。でも万が一の事があった時に少しでもエリナの力になる為なら安いもんだ。今回はそれが俺になったけど」
「お兄ちゃん、この指輪大事にするね!」
「ああ。でもいざという時は惜しむなよ。っとそういやクレア、なんかどさくさに紛れてキスしてきたけどさ」
「姉さまがしてたのでつい。あと兄さまが死んじゃうかもと不安になったら体が動いてました」
「でも俺治ってたじゃん」
「そうですけど、すごく怖かったんですよ! 兄さまの両腕が無い姿を見たんですから」
「良く治ったよな。エリナの治癒なら治せたのか?」
「見せて貰ったけど、治癒とヒールを融合するんだって。ヒールは切って繋いで縫う、治癒はそしきしゅうふく、さいぼーばいよーとかなんとかって説明してくれたけどよくわからないんだよね、イメージが出来ないから。にょきにょき生えてきたのは見たから、簡単な再生ならイメージ出来るかもしれないけど」
「そうか、ヒールは外科手術、治癒は抗生物質投与や機能回復の他にも再生医療も出来るみたいなもんか。理論は昔からあったはずだから、理論さえ異世界から持ち込まれれば、魔法技術で代替して細胞の培養なんかはできそうだ。四肢再生なんて一般人はイメージできないよな。一応簡単な知識のある俺でも無理だし、想像もできない怪我なんてそりゃ怖いよな。にょきにょき生えてくる腕とか見たらお兄ちゃん気絶しそうだし!」
「そうだよお兄ちゃん! クレアずっと泣いてたんだからね!」
「姉さまも泣いてたんですよ兄さま!」
「わかった! 心配かけてすまなかった! キスもそうだよな、安心したらそうなっちゃうよな!」
「そうですよ兄さま!」
「クレア良かったね!」
「はい姉さま!」
そんな流れでキスなんかするか! とも思ったが結局心配かけまくったのだから仕方がない。
あとあのゴミクズには、確かに悪口も言ったが治療費も武器防具の補填もいらねーから今後は関わるなよボケって言った程度だよな。
日本刀に傷つけたり、嫌がらせしてきたら殺すぞって言っちゃったけど......。
「あれ? 地竜の討伐報酬はどうなるんだ? あいつら騎士団だか領主家が回収して解体してたとか言ってたけど、パクられたりとかされないよな?」
「あーその辺は私も聞いてない」
「兄さま、冒険者ギルドで聞いてみれば良いんじゃないですか? シルヴィアさんの態度なら地竜討伐の依頼達成を横取りするような感じでは無かったですし」
「孤児院の件で国や町の文句垂れてる時も謝ってたしな。報酬が出れば日本刀や胸甲を買い直してもお釣りが来るし」
「でもお兄ちゃん、地竜の頭はすごくボロボロだったよ。肩に穴開いてたし」
「それお前がやったんだぞ、すげーな、上級魔法でも高難易度の魔法だろ? 流石俺の嫁」
「それまでは使えなかったんだけど、お兄ちゃんが地竜に向かってジャンプしてるのを見て、必死に唱えたら出来たんだよ!」
「俺もサンダーブレードの出力が今まで以上に上がってたからな」
「すっごいバリバリ音がしてたし、すごく光ってたよ!」
「必死に魔力込めまくったしな。さあ、冒険者ギルドに行ってみるか」
「はい兄さま」
「うん!」
「道わかんないから教えてくれな」
「任せて!」
「というか俺の着てる服って外を出歩く恰好では無いな」
てくてく冒険者ギルドに向かって歩いているようだが、ふと自分の服装が気になった。
まさに病院着って感じの服だ。
両腕は隠せてるけどな。
「俺の荷物とか装備ってどうなった? ナイフとか籠とか籠に入れてたリヤカーとか」
「ナイフは胸甲とかと一緒に治療院に置いてあると思うよ。籠はあの待ち伏せしてた場所のままだね」
「装備も無いし、外に出るのはしばらく良いかなー。地竜討伐の報酬が貰えればだけどな。無かったらダッシュエミュー狩りで稼ぐしかない」
「そうだねー、襲ってこないから安全だしね」
「そうですよ兄さま、もう危ない事はしないでください」
「クレアがわーーんって泣いたのちょっと可愛かったぞ」
「可愛かったですか?! じゃあ結婚してください兄さま!」
「良いぞ、クレアが十五歳になった年の六月一日だけどな」
「ですよね......えっ! 兄さま!」
「クレア! 良かったね!」
「ありがとうございます姉さま! 兄さま本当に良いんですか? もう嘘だって言ってもダメですよ!」
「あ、すまん」
「ダ、ダメです! もうダメです!」
「違う違う、そうじゃなくて」
俺はエリナから腕を抜きクレアを軽く抱きしめる。
エリナはすでに分かっていたようでにこにこしてる。
「クレア、妹としてももちろん好きだが、女の子として好きだ。まだ先だが、俺と結婚してくれるか?」
「はい! 兄さま! 嬉しいです!」
「ごめんな、もっと雰囲気の良い時に改めてもう一回言うから」
「いえ! すごくうれしいです! 今の一回だけで十分です!」
「いや、それじゃ俺の気が済まないんだ。すぐじゃなくてもう少しクレアが大きくなったらだけどな。それまではもうキスは駄目だからな」
「良かったねクレア! お兄ちゃんってやっぱり優しいよね!」
「兄さま大好きです!」
「クレア! お兄ちゃんね、地竜から逃げる時にずっと、クレアが待ってる、クレアが待ってるって言ってたんだよ」
「兄さま......」
「ああ、クレアが待ってるから早く帰ろうって言ってたのは覚えてる」
感極まったのか抱き着いてくるクレア。
明らかにもうエリナを超えてるな。
もちろん結婚した後じゃないと確認できないが。
「今回の件で改めて理解したんだよ。エリナもクレアも大事なんだって。それに本気で怒って心配して泣いてくれただろ。ちゃんとクレアの気持ちに応えなきゃって。俺もクレアの事を女の子として位意識してたんだなって今回の件で自覚もしたしな」
「お兄ちゃんありがとうね!」
「何言ってんだ、俺みたいなヘタレの事を好きになってくれたエリナとクレアにこそありがとうだぞ」
「えへへ、兄さまー!」
涙声で甘えてくるクレアが可愛い。
こいつも甘える相手が俺やエリナくらいしかいなかったからな。
ずっと良いお姉ちゃんで委員長だったし。
『ペッ!』
「ほら、独身のブサイクなおっさんが俺達に嫉妬して、道端にツバ吐いてるからちょっとおとなしくしような!」
「はーい!」
「はい兄さま!」
『またかよあいつ』
『なんで往来でいちゃついてんの?』
『嫁二人目かよ、死ねばいいのに』
冒険者ギルドが近づいて来たので付近をうろつく連中のクズレベルが上がって来た。
モテないおっさんの嫉妬なんか無視だ無視。
「よしじゃあ移動再開するぞ」
「「はーい!」」
あれ? クレアは大人びてる子だと思ってたけど婚約したら幼くなった?
いや、浮かれてるだけだろ。
そんな事を気にしながらてくてくと嫁と嫁(予定)と歩いていく。
「そういや時間もわからん。チ〇カシ焼損したし」
「お兄ちゃんの宝物だったんだよね。お兄ちゃん可哀そう」
「代わりにならないかも知れませんが、わ、私が兄さまの宝物の代わりになりますから! いつでも時間を聞いてください!」
「クレアもエリナももう俺の宝物だよ。チプ〇シ以上のな」
「兄さま......」
「お兄ちゃん......」
『まだやってんのかよ』
『頭沸き過ぎだろ、周り見ろや』
『嫌がらせだろ、通報しろ通報』
「あークズの嫉妬が心地いいわー」
「お兄ちゃんはなんていったってドラゴンスレイヤーだからね!」
「エリナもそうだろ、業炎球の連打も凄かったけど、あの赤光の魔法とか地竜に風穴空けてたしな」
「えへへ!」
『危険人物じゃねーか』
『ホラだろ、さっさとどこか行けや』
『通報しろ通報』
「魔法か、いいですね兄さまも姉さまも」
「クレアも調べてみるか?」
「良いんですか?」
「貴族は生まれてすぐに調べるって言ってたし、どうせ十五歳で調べるんだしな。料金もギルド登録より高いはずはないから大丈夫だろ」
「是非お願いします! 私も兄さまのお役に立ちたいです!」
「いや、狩りには連れて行かないぞ。というか魔法が使えなくてもクレアは経理や料理ですごく役に立ってるからな」
「クレアなら魔法が使えるよ!」
「お前アホみたいに根拠の無い事を言うな、いざ魔法適性が無かった時に大変なんだからな」
「兄さま姉さまありがとうございます。魔法が使える平民自体が珍しいって話ですし、魔法が使えなくても気にしませんから」
「まあ、まずは調べてからだな」
治療院から結構歩いてやっとクズゾーンにたどり着く。
さっきの話思い出して暗殺ギルドや盗賊ギルドがムカついて来た。
俺もエリナみたいな業炎球が使えれば、事故を装って駆除できたかもしれないんだがな。
初めての冒険者ギルドという事でクレアは少し緊張しているようだ。
ま、気にしないで入ろう。
今ならここにいるクズ連中なら丸腰だって相手にできるし。エリナが。
「こんにちは!」
「こんにちはー!」
「っすー」
「兄さま! きちんと挨拶しないと碌な大人になりませんよ!」
「しまったクレアが居たんだった、いつものノリで挨拶してしまった」
「いらっしゃいませ、トーマさん、エリナさんと、......トーマさんの二人目のお嫁さんですか?」
「そうです! 兄さまの二番目の妻のクレアと申します! よろしくお願いします!」
「トーマさん、今緊急依頼が出ると思いますので少し待っていてもらえますか?」
「婚約だ婚約! ノータッチ! ノータッチ!」
「でもキスはしちゃいました!」
「トーマさんもやはり駆除される側の冒険者だったって事ですね。残念です」
「事故みたいなもんだから!」
「兄さま事故だなんて......あんなに愛し合ったのに」
「お前いい加減にしろよ、婚約期間中ずっと妹って呼ぶぞ」
「ごめんなさい兄さま、ちょっと調子に乗ってしまいました。」
「クレアまで毒されてしまった。あんなに可愛くて気立てが良くて、いつも半歩下がって兄さま兄さまと言ってくれたクレアが大好きだったのになー」
「兄さま、私間違っていました!」
「わかってくれたか、俺の可愛いクレア」
「はい兄さま!」
「という訳だ事務員」
「長いです」
「すみません。それで地竜を仕留めたんだけど話聞いてる?」
「はい、伺ってますよロリコンさん。ただ素材の売却ですが、王都でのオークションをお勧めします」
「だからノータッチなんだって。で、オークション?」
「高額素材の牙は全て無事でしたが、頭部損傷に加え、肩に直径四十センチの穴が開いてますので、買取価格が金貨八十枚になってしまうんです。トーマさん達で今季の税率が十%になりますので、金貨七十二枚になります。オークションですとオークション出品手数料が追加で五%かかりますが、スタート価格が金貨百枚スタートですので、そのまま下取りに出すより高額になります。輸送費用は落札者負担ですので必要ありません」
「でもオークションの百枚スタートで入札が無かったら八十枚で買い取りになるのか?」
「いえ、もし百枚で入札が無くても、今回は不成立の場合、百枚で買い取るという打診が来てますので問題ありませんよ。ただしこれから王都まで地竜を運んでからオークション開催の告知をして二週間後に開催するという流れになりますので、現金化は一ヶ月弱掛かりますね」
「一ヶ月待つだけで増えるのならこちらは構わない。というかそんな情報流さないで買い取っちゃって、あとでギルドでオークションに出せばぼろ儲けだろ」
「この場所で一番相応しくない言葉を使うと信用ですね。前にも言いましたが、上層部はトーマさん達に期待しておりますし、オークションの件がバレたら希少な非クズの冒険者を失うことになりますしね。それに今回は特に高額なので、オークションに出さなかった場合に調査が入りますしね」
「間引き依頼を出しておいて信用ってのも凄いよな」
「ですのでここでは相応しくない言葉なんですよ。では手続きしておきますね。それとトーマさん、エリナさん、報酬はオークション次第ですが、討伐依頼自体は完了しましたので、登録証をこちらにお願いします」
おれとエリナは登録証を持ったまま事務員に見せる。
体のどこかが登録証本体か、チェーンにさえ触れていれば情報は表示されたままなので、門などでは首に掛けたまま見せるのだが、ギルドでは銀行処理も毎回行っているためいつものように首から外して事務員に見せる。
事務員はいつもの電卓付きカードリーダーみたいなものを、俺とエリナの登録証にかざすと登録証が光り輝く。
光が収まると登録証の情報が書き換えられていた。
名前:トーマ・クズリュー
年齢:19
血液型:A
職業:ヘタレ勇者
健康状態:良好
レベル:――
体力:100%
魔力:96%
冒険者ランク:B
称号:ヘタレドラゴンスレイヤー
名前:エリナ・クズリュー
年齢:16
血液型:お兄ちゃんと一緒!
職業:お兄ちゃんのお嫁さんです! クレアも一緒で嬉しい!
健康状態:お兄ちゃんが元気になって良かったです!
レベル:40
体力:100%
魔力:95%
冒険者ランク:B
称号:ドラゴンスレイヤー
「なあエリナ、なんでお前の健康状態の所で俺の健康の心配してんの?」
「んーわかんない!」
「姉さま! わたしも嬉しいですよ!」
「クレアありがとう!」
「あと俺頑張ったと思うんだけどなー、なんでヘタレがつくんだろうなー」
「称号は深層意識ではなく、こちらで認証、書き込みをするものなんですけれどね」
「じゃあそっちのミスじゃねーか、修正しろ」
「いえ、エリナさんと同時に書き込みをしてこれですよ。多分もうこびりついちゃったのでは」
「ウンコみたいに言うなよ、もう一回やってくれよ」
「はいはい」
ピカッと一瞬光った後に登録証を見てみる。
「兄さま変わってませんね」
「ほんとにやったのか?」
「もう一度やりますか?」
「んーいいや。もう諦めた。それより冒険者ランクが一気にBになったんだが、あってるのかこれ」
「普通、竜種討伐はAランクかBランクが行うものなんですよ。それも何人も集めてです。そして仮に竜一体に昇格ポイントが百あるとすると、ソロ討伐でそのまま百、二人で討伐すると五十ずつと人数で振り分けられるので、地竜を二人で狩ったから一気に高得点を取ってしまったわけですね」
「良くそんなのを見かけたら狩ってこいって言えたな......」
「でも実際狩れましたよね?」
「死にかけたけどな」
「近づいたからじゃないんですか?」
「その通りだから何も言えん。あと今日はこの子の魔法適性を調べたいんだが、頼めるか?」
「ロリ婚だという事は十五歳未満なのですよね」
「悪意ある変換やめろ。ちゃんと十五歳になってから結婚するんだよ」
「銀貨二枚頂きますけどよろしいですか? あとで登録証を作る時でも割引等はありませんが」
「かまわん、頼む」
「では、こちらの水晶球に両手をかざしてください」
事務員に銀貨二枚をエリナが渡すと、がこんと机の天板が外され、大きめのスイカサイズの水晶球が現れる。
財布も置いてきちゃったんだよな。
恥ずかしい。
「は、はい!」
クレアが水晶球に両手をかざすと、中に白の玉がふよふよと浮き出した。というか水晶球より一回り小さい位だ、エリナの時よりもでかいな。
「トーマさん、孤児院って貴族の落胤を集めたりしてるんですか? もしくはそういう息抜き的な用途の館だったりするんですか?」
「知らんわ、あと息抜き的な用途って言うな」
「兄さま、これって魔法が使えるって事ですか?」
「ああ、そうだぞ、よかったなクレア」
「クレアすごいよ! 白魔法は私より大きいよ!」
「えっそうなのですか?」
「たしかにエリナの時よりでかいぞ」
「私兄さまのお役に立てるんですね!」
「これ以上クレアが役に立ったら俺が駄目人間になっちゃうぞ」
「私が兄さまを養いますから!」
「エリナの時も言われたような気がする。白魔法だけだけどこれってすごいんじゃないの」
「上位貴族でもなかなかこの潜在魔力は見ませんよ。他の魔法特性が全く無いのに白魔法に特化してるなんて、珍し過ぎて誰も信じないでしょうね。それにクレアさんは十五歳未満ですよね、まだ伸びる可能性がありますよ」
「マジか、爺さんっていつ来るかわかるか?」
「バッハシュタイン卿ですか? あの方は王都の魔導士協会長なので普段はめったに来ないのですよね」
「卿?」
「侯爵様ですが」
「まあそうだよな、愉快な爺さんだから忘れてたけど、全属性で全盛期は空中に浮かぶ事が出来たとか言ってたしそりゃ貴族だよな、それも上級の。じゃあどうするか、別の高レベルの講師とかいるのか? 魔力を励起できるやつ」
「いませんね。他人の魔力の励起なんて出来る程の魔力操作に長けた講師なんて、王都でも二、三人なんじゃないんですか?」
「そんなレアだったのかよ」
「だからお勧めしたんですよ」
「あの時は助かった」
「二人で銀貨二十枚っていうのもその日、うちのギルド長といかがわしい店に行くための軍資金でしたからね。本来なら正式な手続きを経ても何年も待つレベルですし、金額も普通の人相手なら一人金貨五枚とかですよ。私には面白い奴がいたらその夜の飲み代程度の金額で見てやるからいつでも連れて来いと言われてましたけど」
「爺さんもギルド長も適当なのな、ここは」
「仕事はちゃんとするんですけれどね」
「わかった、その辺はなんとか考えてみる。そちらでも爺さんが来る日があったり、有能な講師の来る日があったら教えてくれ」
「わかりました」
「あと金を下ろしていく。銀貨二十枚もあればいいか」
「はい、では登録証をお願いします」
出金処理が行われ、銀貨二十枚を受け取る。
「じゃあまた来るわ」
「はい。それと、ブラックバッファローの異常発生は終了しましたのでご了承ください」
「たしかにあの日は全然見かけなかったしな。そのせいでこんな目に逢ったんだが。まあダッシュエミューに切り替える予定だったし丁度よかったよ。じゃあまたな」
「お待ちしてますね」
「「ありがとうございました!」」
刀身があれば親父の店に行きたかったんだが、孤児院で荷物を待つか。
防具屋にも行かないとな。
凄く嫌だけど。
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