第十九話 宰相就任


 そろそろ料理も無くなってきた。

 まだガツガツと食い続けてる奴もいるが、クレアとエリナが持ち帰りのお土産用に弁当箱に残り物を詰め始めている。

 残飯がほぼ出ないシステムだ。素晴らしい。

 腹いっぱいになったガキんちょはそれぞれ好き勝手に移動し、話に盛り上がったりしている。

 今日初お目見えのアイリーンやシャルには人見知りしない女子チームの連中が質問攻めにしていた。



「シャルおねーさんびじんさんだねー」


「ありがとーミリィちゃん!」


「ちょっとさわっていーい?」


「? いいよー?」



 ミリィが許可を得てむんずとちわっこの胸を触る。

 新しい人来るたびに片っ端から触ってるけどなんなんだろうな、こいつ。



「おっぱいはそんなにおおきくないねー。エリナおねーさんとおなじくらいかなー」


「毎日治癒魔法かけてるからそのうち治るよ! エリナお姉さんにだって負けないんだから」



 治んねーよ。

 状態異常でもバッドステータスでも無いんだから。

 あとエリナの名前を出してやるな。そっとしておいてやれ。



「アイリーンおねーさんもさわっていーい?」


「ええ、どうぞミリィさん」



 抵抗する奴いないんか。



「わわっ、アイリーンおねーさんおっきいねー。みためはふつうっぽいのに」



 アイリーンは着やせするんか。

 って! なんで俺はミリィの感想を盗み聞きしてるんだ!

 自分で自分を突っ込んでいると、駄姉がパタパタとリビングに入ってくる。

 ファルケンブルク城じゃこんな音立てながら歩いたりしないんだよな。

 随分庶民ぽくなった。



「みなさーん! お風呂の準備が出来ましたよー!」


「「「はーい!」」」



 魔法でさくっと風呂の準備を終えた駄姉が、ガキんちょにしかみせないとびきりの笑顔で声をかける。

 ガキんちょの世話が本当に好きみたいだな。



「くりすおねーちゃんいっしょにおふろはいろー!」


「ええ、アンナちゃん、一緒に入りましょうね」


「おねーちゃんわたしも!」


「ええ、みんなで入りましょうね」


 きゃっきゃと駄姉を囲んだ集団が風呂へ向かう。

 駄姉は大人気なんだよなー。一番母性的な感じがするのか、面倒見が良いからなのか、とにかく人見知りする子でもすぐに懐いてしまうのだ。

 実の父親をさっさと殺せとか言っちゃう過激な所はガキんちょどもには一切見せないし。


 アイリーンもミリィに引っ張られて困惑している。俺をちらちら見るので、「いい機会だから体を伸ばしてゆっくり浸かってこい」と言うと、「ありがとうございます」と柔らかな笑顔で返事をする。

 あとミリィはアイリーンの胸を見たいだけだろ。中身おっさんかあいつは。

 ちわっこは「エリナお姉さんエリナお姉さん、一緒に入ろう」とエリナにやたらと付きまとってる。「うん、でも何か目が怖いよシャルちゃん」と、エリナも困惑しながらも返事をするが、こいつも多分サイズの勝負がしたいんだろうとスルーする。


 あちこちで仲のいいグループが形成されて続々と風呂に向かう。

 婆さんはみんなの後をニコニコと微笑みながら歩いている。

 ……ハブられてなきゃいいんだけど。

 

 さて、俺もさっさと風呂に入るか。

 ってリビングに誰も居ないじゃん。もしかして俺ハブられてる?




 風呂から出るとドライヤー魔法で帰宅組のガキんちょの髪を乾かしていく。

 今までは俺とエリナと駄姉しかドライヤー魔法を使えなかったが、王都でドライヤーの魔導具を購入したので、駄妹やクレア、婆さんもドライヤー組だ。

 時間がかかると遅くなっちゃうから良い買い物をした。


 乾かし終わると俺と駄姉妹でガキんちょどもをキャリアカーに乗せて家に連れていく。

 今日は残り物を詰めた弁当と王都で買ったクッキーのお土産を持って行った。

 巡回兵が定期的に回るようになったし街灯の設置も順調だし治安もマシになってきた感じはするな。


 ガキんちょどもを送ってきたらちわっことの話し合いだ。

 院長室に、婆さん、俺、駄姉、アイリーンとちわっこが集まる。



「まずは報告からだね、エドガルドはじめ主要な連中は極刑。連座も適用される罪なんだけど、家族は計画自体を知らなかったというのを魔導士協会が確認したんで、辺境の寒村に流罪。あとは謀反人を出した近衛騎士団長や各部門の長官は更迭。暗殺ギルド、盗賊ギルドに関しては廃止の方向で議論中だね」


「盗賊団を裏で操ってたのは暗殺ギルドと盗賊ギルドなんだろ? 地竜に関してはどうなんだ? あんなのを自由に操るのが裏にいたら恐ろしいんだが」


「地竜に関しては本当に偶然だったみたいだね。魔導士協会の連中が必死になって調査したから間違いないと思う」


「そっか、仮に地竜を発見、誘引、召喚できるような魔法やスキルがあれば、あそこの連中が放って置くわけがないわな」


「そして本題がこれだね、お兄さん。王都の孤児院の新年度からの予算配分書と孤児院の改築計画書だよ」



 ちわっこが差し出す資料に婆さんたちと一緒に目を通す。

 なるほど、物価調整をするシステムが無かったから、運営資金額がずっと低額になったのが主因という結論か。

 あとは施設管理費の積み立て計画の甘さなどなど。

 これちわっこかちわっこのブレーンが作った書類かわからんが、短期間でよく調べ上げたな。



「おお、ちゃんと三年に一度の物価調整もやるのな。老朽化部分も直すみたいだしこれなら問題無いのかな?」


「クリスお姉さんから貰った資料に、私が色々現状を調査して付け足してみたんだけど」


「悪くないな、というか良く出来てると思う。就職あっせんまでちゃんと考えられているし。ちわっこお前優秀なんだな」


「ありがとうねお兄さん。でも、これを議会で承認させるのに、お兄さんに協力してもらいたいんだ」


「協力するのは構わんが、俺は何をすればいい?」


「これに署名して」



 ちわっこが二枚の書類を差し出してくる。



「これは?」


「王国宰相就任への意志確認書と私との婚約承諾書」


「拒否する」


「えーなんで?」


「ここの領主ですら手に余ってるのに王国の宰相なんか務まるか。それになんでちわっこと婚約せにゃならんのだ」


「お兄さんが王国宰相に就任すれば、婚約者の私が宰相代理として政治に参加できるから! そうしたらお兄さんは王都に来なくても私が全部やるよ」


「そんな回りくどいことしないで直接お前が宰相職に就けばいいだろ」


「王族は内政に関する官僚職には就けない決まりなんだよね。近衛騎士団長とかなら就任可能なんだけど、近衛騎士団長にはベルナールが就任したし、そもそも近衛騎士団長は政治に口出しできないから」


「それで俺との婚約が必要ってことか?」


「そそ、ファルケンブルク伯爵夫人としての公式な立場になるから。ラインブルク王国は女性でも官僚組織の役職に就けるしね。そうすればお兄さんは年に何回か王都に来てくれるだけであとは私がやるよ」


「正直、計画書を見ただけでちわっこが優秀なのはわかるんだが、婚約ってのだけには拒否感があるな」


「お兄さんは私のこと嫌い?」


「嫌いではないぞ。可愛いと思うし、好ましくは思っている。けれど、結婚するほど好きかというと今はまだ否だな」


「でもお兄さん、貴族の結婚っていうのはこういうものだよ?」


「わからんでもないが、もう嫁が四人もいるし、正直俺にはこれ以上の嫁さんを囲う甲斐性なんか無いしな」


「じゃあこうしよう。お兄さん、私に協力して! 私このままだと顔も知らない貴族家に嫁がなきゃいけないし、他の貴族家へ嫁いじゃうと孤児院改革も頓挫しちゃうかも!」


「それを持ち出されると辛いな。といってお前を都合の良い様に扱うのも俺が嫌なんだよなー」


「私はお兄さんが最初はそういう気持でも構わないというか、ちゃんと私のことを考えてくれるだけで嬉しいんだけどね。もちろんエリナお姉さんたちの立場はちゃんと尊重するよ。第五夫人でも私は問題無いしね」


「……エリナとクレア、駄妹を呼んで嫁同士で話し合いさせるか」



 エリナ達を呼んで、ちわっこと話をさせる。

 予想通り、「シャルちゃんがお兄ちゃんをすごく好きだっていう気持ちが伝わったから問題無いよ!」というエリナの一言でちわっことの婚約が可決された。

 なんでこんなに嫁が増えるんかなー。幸せ者だとは思うけど、嫁たちには不満は無いのだろうか。など色々ヘタレながらも二枚の書類にサインをする。

 これで王国宰相に就任することが内定した。

 

 その後はリビングに戻ったエリナ達以外のメンバー、婆さんや駄姉、アイリーンも交えて貧困層への対策案、ギルド廃止案の計画書や王都とファルケンブルクを結ぶ街道整備や宿場町の件などで、話し合いは深夜まで及んだ。


 ちわっこはかなり優秀だな、さすが王族として教育を受けただけのことはある。

 王都での改革を丸投げにしてしまうのは申し訳ないが、定期的に担当官をやり取りして現状報告などを細かく行い、計画案の作成などでちわっこを補佐するなど色々決めた。


 ファルケンブルクの改革もまだ途中だし、王都もまだ計画段階だ。

 やはり定期的に王都に顔出しをしないとな。就任式やらなにやらは、ちわっこの方でやると言ってくれたとは言え流石に申し訳ない。

 あとはアイリーンへの叙爵申請書を出したいと言ったら、ちわっこがその場で剣を取り出し、騎士叙任の首打ちの儀式を行った。いわゆるリッターシュラークだ。「戦時中でも良くあったことだから」と簡単に新たな貴族が誕生した。

 正式な認可状はあとで送るとの事だが、とにかくこれでアイリーンが騎士爵を持つ貴族になったのは喜ばしい。


 段々足元が固まってきた。

 王国宰相という肩書は、いくらちわっこが宰相として動くための建前だとしても重すぎる、けれども不幸な子供を減らせることに繋がるのならヘタレを返上して頑張るか。

 幸い俺の周りには優秀な協力者がいるわけだしな。




―――――――――――――――――――――――――――――――――



今回で第五章は終了です。

ここまで拙作をお読み頂きありがとうございます。


次回更新より第六章が始まります。

六章はファルケンブルクの町を中心に、改革を進めていく流れになります!

引き続きヘタレ転移者を応援よろしくお願い致します!



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