第六章 ヘタレ領主の領地改革
第一話 こんな組織いらないよね
「やっとこの日が来た」
ちわっこが王都に戻った数日後、正式に俺の宰相就任と暗殺ギルドと盗賊ギルドの廃止が決定したとの通知が届く。
旧宰相派を一掃したため、改革案はすんなり通ったのと、俺の宰相職は、エドガルドの汚職を調べ上げた功績としての名誉職だという建前で押し通したらしい。
実際に就任式もないままの決定だし、そんなもんだろう。
そして、その通知が届くや、駄姉妹とアイリーンを連れてクズゾーンにやって来たのだ。
「この二つのギルドの廃止はお兄様のたってのご希望でしたからね」
「実際に何もしてないで金ばかり食うクズ組織だったから尚更だな」
退去通知書を持って両ギルドの中に入った騎士団の連中が外に出てくる。
「閣下、中には誰もおりませんでした。それに……」
「それに?」
「金目の物が持ち出されております」
「ちっクリス、捕縛できるか?」
「すでにギルド長以下職員には監視を付けておりましたから問題ありません」
「なら持ち出す前に捕まえろや」
「罪状の重い方がこちらにとって都合がよろしいかと思いまして」
「……任せる。一人も逃がすなよ」
「お任せくださいませ。旦那様」
クリスが女官服を着た側近を呼び出して捕縛の指示を与える。
完全にクズの行動を見誤っていたな。
しかし大人しくギルドを辞めれば失職するだけなのになんで持ち逃げなんか……ってそうか、汚職でもしてたのか。
ギルド廃止後に書類を調べられたらすぐに露見するような使い込みとかやらかしてるんで逃げるしかなくなったと。
そう考えればしっくりくるな。
「両ギルドに残された書類や調度品なんかは全部引き上げろ。そのままリフォームして冒険者ギルドと統合するから。さっさと終わらせて今日中に工事業者を入れるぞ」
「はい、お兄様」
騎士団の連中が駄妹の指示のもと、荷馬車へと書類や価値のありそうな調度品、家具、事務用品など分別して積載していく。
建物はリフォームし、冒険者ギルドの施設として再利用するが、冒険者ギルド自体もクズ専用依頼あっせん組織から、一般人にも仕事を受注できるように改革予定だ。
名称もいい加減変えないとな。
そもそもどこにも冒険してる奴なんていないし、人生の冒険者って意味がわからん。
現金輸送車を襲うような冒険心を持つ奴はことごとく消されちゃってるしな。
作業を駄妹に任せ、俺は冒険者ギルドへと入る。
「おっすー」
「おはようございますトーマさん。朝から両隣がうるさいんですけれど、とうとう潰すんですか?」
「退去通知書を持って行ったらすでにもぬけの殻だった。今ギルドの中の事務用品やらを運び出してるが、ここで必要なものがあれば持って行っても構わんぞ」
「そうですね、では職員を何人か見に行かせますね」
後ろを振り返って、何やら声を掛ける事務員。
パタパタと足音がしたので、何人か外に向かったのだろう。
「どっちにしろリフォームして建物はここの物になるから、新しく設備なんかは入れる予定だがな」
「仕事が増えるんですか……」
「クズ限定の仕事あっせんじゃなく、現状の待遇に不満があったり、職を失った平民相手に職場や仕事をあっせんする業務が増えるだけだがな」
「窓口は分けた方が良いですね、というよりクズ専用窓口とそれ以外というところでしょうか」
「クズに紹介できる仕事とそうじゃない仕事で分かれるだろうしな。罠依頼なんか一般人には見せられないし。その辺りは追々詰めていく」
「細かなことはギルド長とお話しされるんでしょうけど、現場としては、これ以上の業務を担当するとなるとやはり職員の数が足りないですね」
「そのあたりも考慮するが、まずはこのギルドの待遇を改善してから、有能な人間を登用したいとは思ってる。お前の給料も増やすぞ、正直能力に見合ってなかったからな」
「それは有難いお話です。そもそもこのギルドは清掃業務が主だった業務内容でしたので、利益効率としてはあまり良くありませんでしたから待遇改善要求には消極的でした。わざわざギルド長が給与を返納したりしているくらいでしたから」
「クズ排除を清掃業務って言うな。今後は社会インフラとして機能してもらう。貧困対策のセーフティーネットの一つとしてな。なので給料はしっかり受け取ってくれ、見合った額は用意するから」
「待遇改善は有難いお話ですが、今後職員が増えても私は清掃業務の方を希望したいのですが」
「お前以外に適任がいるとは思えないのでそれは任せる。ただ今後お前の立場が上がるかもしれんから、ゆくゆくは窓口担当から外れる可能性はあるが」
「私以外にクズの対応をやらせると?」
「お前だけだと流石に大変だろ? クズに対して冷静に対処できる人間に見当をつけるか育成しておいてくれ。すぐにって話じゃないから急がなくてもいいが」
「わかりました。ギルド長には今後の話を含めた会談をしたいと領主さまが仰っていたとお伝えした方が良いですか?」
「そうだな、頼む。都合がいい時間を指定してくれれば俺から行くと伝えてくれ」
「随分と腰が軽いのですね領主さまは。城かご自宅に呼びつければいいではありませんか」
「話に聞くと随分ゴツい男らしいじゃないか。そんな恐ろしいのが孤児院に来たらガキんちょどもが泣いちゃうし、そもそも俺は城にはほとんどいないからな。ならこっちが都合に合わせるさ」
「わかりました。伝えておきますねトーマさん」
「頼む。じゃあ今日は色々やることあるからこれで帰るわ」
「またお待ちしていますね」
「今度は狩りの成果を持ってくるよ。ダッシュエミューだろうけどな」
トーマさんと言ってくれる事務員になんとなくありがたみを感じながら冒険者ギルドを出る。
両クズギルドの荷物の搬出は大体終わったようだ。
工事業者があらかじめ駄姉と業者が話し合って作成したリフォーム計画書に則って色々現状確認をしている。
細かな間取り変更なんかは冒険者ギルド長も交えてになるが、まずはさっさとうさんくさい陰気な外観を変えねばならんしな。
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