第六話 処分? いえ処理です。


 一通り作業現場を見終わった後は、広い場所に移動して本格的な騎乗訓練だ。



「あのさ」


「なんでしょうかお兄様?」


「騎乗訓練って、相乗りしなくてもシルが口取りすればいいんじゃないの?」


「ソンナコトアリマセンヨ?」


「……まあ常足ならもう出来るようになったしな」


「このまま速歩、駆歩、襲歩と段々速くしていきますね!」


「わかった、シルに任せる」


「お任せくださいお兄様! 騎乗術は姉上よりも上ですから!」



 エリナ・クリス組を見ると、常足から速歩に段階を上げてるようだ。

 こちらも負けてられない。

 シルに教わったやり方で馬に俺の意思を伝える。

 騎士団の馬の中でも一番素直という評判の馬だからか、素直に応じてくれる。



「おっ、おっ、大分揺れるな!」


「お兄様、馬の動きに合わせて、膝を使って体を上下に動かしてください。速度によって動きも変わりますので」


「わかった」



 よっ、よっと馬に合わせようとするが、微妙にズレるのか上手く行かない。



「お兄様、わたくしが後ろから支えながら動きますのでそれに合わせてみてください」


「頼む」



 ぎゅっと後ろからシルが抱き着いてきて、体を上下に動かしてくる。

 うむ。より密着してそれどころじゃない気がするが、馬の動きに集中しないと!

 相変わらずふんす! ふんす! と後ろから聞こえてるけど気にしないようにしよう……。





 二時間ほど訓練を続けた結果、シルの補助があれば襲歩までできるようになった。すごく怖いけど。

 それ以上にケツが痛い。タンデム用の二人用の鞍でクッションもついてる訓練用という代物だったが、それでもすごく痛い。けれど背中は柔らかい。



「よし、今日はこれくらいで良いんじゃね? ケツ痛いし」


「お兄ちゃんのヘタレー」


「エリナは平気なのか?」


「クリスお姉ちゃんが痛くなりにくい乗り方を教えてくれたから平気だよ!」


「なにそれ。シル、聞いてないんだけど」


「ずっとぎゅーしてましたからね。教えるの忘れてました」


「あっそ。次はクリスと相乗りするわ」


「そんなー」


「旦那様、ヒールをかけてもいいのですが、痛くない乗り方を覚えた方が一番上達が早いですからね」


「なるほど、一理ある」



 クリスとの話が途切れた途端、いつのまにか女官服を着たクリスの侍女が現れ、なにやら報告して即座に消える。

 クリスの侍女もメイド服にすればいいのにと思いながらも、馬をクリスの方へ寄せる。

 馬から降りようと思ったけどシルが抱き着いてるんだよな。



「旦那様、暗殺ギルドと盗賊ギルドの関係者を全て捕縛いたしました」


「おっ、早いな。持ち逃げした物はすべて回収できたか?」


「現時点ではほとんど回収できているようですね。細かなものは現在調査中です」


「じゃあギルド長二人は王都へ送還するとして、問題は残りの連中だな」


「公職の人間の汚職ですし、法に照らすとかなり重罪なので処理が大変ですね。二十名を超えますし」


「処理って言うなよ、処分って言えよ。そういう所だぞ駄姉」


「お兄ちゃん、処理と処分って同じじゃ無いの? 違うの?」



 クリスの前にちょこんと座ってるエリナが頭をこてんと倒しながら聞いてくる。

 相変わらず可愛いなこの仕草。

 あと背中の駄妹がずっとぎゅーしてる。ちょっと甘やかすとすぐこれだ。



「処分は法律で罰するって意味があるけど、処理には無いんだよ。極刑で始末をつけちゃうことを処理するって感じに聞こえるんだよ、俺にはな」


「いっぱい首を斬ると大変だよね!」


「この世界って斬首刑が主流なのかよ……。絞首刑かと思ってた。それでもどうかと思うが」


「連座までは適用されませんが、事前に犯罪を認知してた場合は共犯関係になりますので、これまた処理の手間が……」


「駄姉は処分って言えってば。うーん、結婚式と収穫祭が近いし、恩赦って事で軽減しても良いんだが……。有能なのはいるのか? 文官というか各部門で官僚が足りてないだろ現状は」


「登用なされるのですか?」


「罪を反省した上でそいつが有能なら、だけどな。実際腐った組織に投げ込まれて流されただけかもしれないし」


「随分とお優しいのですね旦那様は」


「人が足りてない状態だからな。そんな状況でも無ければ前科者なんか使わん」


「では一応人選はしてみますね」


「一人か二人見つかれば良いくらいだと思うし、あまり期待してないからな。最悪、全員街道整備の強制労働でもいいし」


「かしこまりましたわ旦那様」


「じゃあ戻って晩飯の買い物に行くか。今日はエリナの食事当番だからな」


「うん! もう考えてあるから任せて!」



 ポクポクと常足で孤児院の方に向かい、なかなか俺を離さない駄妹を剥がして下馬すると同時にヒールをかける。

 これくらいなら俺のヒールでも十分効果が出るから助かった。



「じゃあ行こうお兄ちゃん!」


「旦那様、明日には調整を終えたマジックボックスが届きますので、申し訳ありませんが今日も背負い籠でお願いいたします」


「わかった」



 クリスはアンナと絵本を読む約束、シルはミコトたちと玩具で遊ぶ約束をしてるとの事で、俺とエリナだけで買い物だ。「えへへ!」と腕を組んでくる嫁。可愛い。



「で、晩飯のメニューはなんなんだ?」


「お昼にお兄ちゃんが言ってためんちかつにしようと思って!」



 昼も揚げ物だったのに晩飯も揚げ物かよ……。エリナの屈託のない笑顔に、なんとか笑顔で返す。

 まあ婆さんには我慢してもらうか。なんか揚げ物が続いても普通に食いそうだけど。

 


「じゃあまずは親父の店だな」


「ぎゅー!」



 クリスとシルが託児所に戻っていったのを見送った後、エリナが組んでいた腕を離して抱き着いてくる。



「どうした? 急に甘えん坊になって」



 エリナの輝くような金髪を手で梳きながら、そういえば最近、外ではこうやって甘えてくることが無くなったなと思い出す。



「ちょっとシルお姉ちゃんが羨ましかったから!」


「でも毎晩一緒に寝てるだろ」


「そうだね! でもちょっとだけ!」


「そか、じゃあ久々に夫婦仲良く買い物に行くか」


「うん!」



 晩飯のメニューを想像して、軽く胃を押さえながら市場へと向かう。

 エリナのツインテールはいつも以上に元気よく揺れるのだった。






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