第七話 収穫祭って去年もやったよな?


 昨晩食べた大量のメンチカツでやや胃もたれを感じながらも、朝の露天販売と朝食タイムが終わった。

 今日は狩りには行かずに、収穫祭と結婚式、あとは亜人国家連合への友好使節団の派遣など色々な議題があるため登城することになったのだ。

 そこで去年の収穫祭を思い出そうとするも、どうにも思い浮かばない。なんでだ?



「去年の収穫祭ってどうしてたっけ?」



 婆さんが淹れてくれた、胃もたれによく効くというカモミールティーを飲みながら、一緒に食休みをしているエリナとクレアに聞いてみる。

 ちなみにクリスとシルは食器を洗っている最中だ。

 領主家の姫様なのに随分と家庭的だ。料理では邪魔をしてしまうからと、片づけは積極的にやってくれている。



「兄さま忘れちゃったんですか? 『今日はお前らに小遣い渡すから好きなだけ買い物してこい!』ってみんな揃って市場で一日中遊んだじゃないですか」


「そうだっけ?」


「お兄ちゃん……お小遣いとして一人銀貨一枚渡したのがバレてクレアにすごく怒られたの忘れちゃったの?」


「……思い出した。ちゃんとしたお小遣い制度を導入しますって土下座して謝ったのを今思い出したわ」


「結局お小遣い制度ってまだ導入してないんだけどねー。そのあとミコトちゃんの玩具の事もあったし」


「あれは怖かったな」


「兄さま! 姉さま!」


「「すみません」」


「でも今年はどうなるんですかね? 兄さまとの結婚式もあるし。てへへ」


「初日の午前中にさくっと結婚式をやって、あとはそのまま例年通り三日三晩のお祭り騒ぎだぞ」


「じゃあ二日目か三日目ならお兄ちゃんもクレアもお姉ちゃんたちも一緒に遊べるの?」


「初日の午後から自由だぞ。適当過ぎてすごいだろ。結局メインはその後の宴会だからな」


「じゃあ託児所たちの子たちも連れていっぱい遊ぼうね!」


「そうだな、でも去年のガキんちょどもは、特に面倒を見る必要がないくらい秩序だって行動してたけど、流石に今年は保護者をつけないとな」


「収穫祭の間の工事はどうするんですか?」


「臨時手当として一律銀貨一枚を渡して三日間休みだぞ。収穫祭で消費してくれるなら結局領地に戻ってくる金だからな」


「なら女性の希望者にお願いしたらどうです兄さま」


「そっか、日当付けてお願いするか。子供と面識がある人に限られるけど」


「お風呂を使う時とかリビングで顔を合わせたりしてるし、アンナちゃんのお母さんとかも知ってるし大丈夫だよお兄ちゃん」


「じゃあ臨時で渡す銀貨の他に、一日の日当をプラスして交渉するか。休みたい人や収穫祭を楽しみたい人もいるだろうからどれだけ希望者が出るかわからんが」



 そんな話をしていると、「でしたら」と、洗い物が終わったのか、クリスとシルが会話に加わってくる。



「わたくしが確認しておきますわ」


「日当の金額も任せる。休日出勤扱いで割り増しして良いからな」


「ありがとう存じます旦那様!」



 アンナに相当入れ込んじゃってるよなクリスは。

 依怙贔屓は禁じてるから、こういう正当な理由がある時はここぞとばかりに気合が入るんだよな。



「お兄ちゃーん」


「兄さまー」



 ニヤニヤした顔で見てくる嫁二人。

 うっさい、ほっとけ。



「お兄様って本当に優しいですよね!」



 シルが胡坐をかいて座っている俺の背中に抱きついてくる。



「収穫祭で金を使ってくれれば公共事業と同じようなもんだからな。金をどんどん回さないと」


「父上と兄上が申し訳ありません。かなり貯め込んでいましたからね」


「そうだ貯め込むといえば」



 ごそごそと、露天販売前にメイドから受け取った箱に入った指輪を三個取り出す。

 箱の中の指輪のサイズを確認して、エリナとクレアにひとつづつ箱ごと渡す。



「お兄ちゃんこれなあに?」


「兄さまこれは?」


「箱を開けてみろ。マジックボックスの機能が付いた指輪だよ」


「サイズも旦那様、エリナ様、クレア様にそれぞれ合わせてありますわよ。自動調節機能がありませんし、本人の魔力登録済みですので本人にしか扱えません」


「魔導士協会に頼んで先代領主とその息子のマジックボックスを下取りに出して、新品の大容量のマジックをひとつと中容量のマジックボックスをふたつに交換してもらったんだ。登録変更だけならすぐだったんだが、あいつらのしていた指輪をつけるのは気分的に悪かったからな」


「意匠も下品でしたからね」


「お前の親父だからな、駄姉」


「そうでしたっけ?」


「もう完全に見切ってるのか」


「お兄様、流石にあの二人は人として駄目でしたからね」


「なんか可哀想になってきたわ。ま、これで俺達五人はマジックボックスを所有してる事になるから、それぞれ武器や防具、非常用の食糧や着替えなんかを入れておくように」


「非常用の食糧って、お兄ちゃんは本当に心配性だよね」


「エリナは実際に俺と一緒に遭難してひもじい思いをしたことがあるだろ……。常に最悪の事態を考えておくのはヘタレだからじゃないぞ多分。クレアの防具も追々買いに行くからな。あの店には行きたくないけど」


「わかりました兄さま」


「クリスもシルもエリナとクレアと一緒の一トンクラスの中容量サイズだから、お互いどんなものを入れるかとか相談しておくように。俺のだけは大容量で五トンは入るから、容量が足りなくなったら俺が預かるからな」


「お兄ちゃん、一トンですら多すぎなのに足りなくなるなんて事無いよ」


「水だと一立方メートル分しか入らないんだぞ。厳選しておいて損は無いだろ」


「お水は魔法で出せるし、そんなにお水を持ち運んでどうするんですか兄さま」



 すっごい突っ込んでくるな……。

 空っぽでも満タンでも消費魔力は変わらないし、そもそもマジックボックスの消費魔力自体が、自然回復で賄える量の数%なんだから、とりあえず必要そうなものは入れて置けばいいだろ……。

 なんだろ? 俺が心配性なのかな?



「まあ開けて中を確認してみろ」



 言われて二人が箱を開けて、中の指輪を取り出す。

 素材はミスリルだが、結婚指輪や婚約指輪とは違って、核となる魔法石自体は指輪の中に埋め込まれていて外からは見えないようになっている。

 なんでも露出してると上手く発動しないからミスリルに埋め込む必要があるだとかなんとか。



「「わー! すごく可愛い!」」


「一応デザインはクリスとシルがお前たちの為に考えてくれたものだからお礼を言っておくように」


「そうなんだ! ありがとうお姉ちゃんたち! すごく可愛いよこの指輪!」


「ありがとうございます姉さま方、すごくうれしいです!」


「旦那様は適当で良いだろそんなのとか言ってましたからね、わたくしとシルヴィアで長く使えるシンプルな意匠を考えました」


「姉上、お兄様は照れてるだけですから」



 うっさいぞ駄妹。普段はアホなのになんでそういう事だけは良く気付くんだよ。

 エリナとクレアは、駄姉妹と同じように右手薬指にマジックボックス機能付きの指輪を嬉しそうにつける。



「ちゃんと使い方を聞いておけよ」


「「はーい」」



 ニヤニヤ笑いながら返事をする二人を無視して、すっかり冷めてしまったカモミールティーを飲み干す。

 ま、嫁同士仲が良いのは良いことだしな。





―――――――――――――――――――――――――――――――――





もし面白いと思って頂けましたら下の『☆』から評価やフォローをおねがいします! 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る