第二十八話 魔導コースター


 冬期休暇の最終日、公園に巨大な施設が完成した。

 という報告を、朝食をタカりに来た爺さんに今報告された。



「あのさあ爺さん」


「なんじゃトーマ」


「事前に連絡しろって言わなかったっけ?」


「したじゃろ?」


「したっけ? まあいいや。飯食い終わったら見に行くか」



 爺さんは「うむ」と言うと、一心不乱に飯を食いだす。

 なんでそんなにいつも腹を空かせてるんだ。というかタダ飯だからって遠慮なさすぎだな。



「お兄ちゃん! 魔導コースターって楽しみだね」


「昨日魔導観覧車に乗ってた時は何もなかったのにな。もう工事が終わってるらしいぞ。リソースの使い方がアホすぎだな」


「よくわかんないけど楽しみ!」





「なるほど。爺さん、お前ら魔導士協会ってアホだろ」



 朝食後、公園に完成したという魔導コースターの見学に来て、真っ先に発した声がこれだ。



「ちゃんとヘタレのトーマの指定通り、日本に存在するローラーコースターで一番怖くないやつを選んだんじゃが」


「たしかにあの下町のコースターはそうだけども」


「民家が無いから城と校舎の中を突っ切ったぞい」


「誰が許可出したんだ?」


「クリスと寮母から許可は取ったぞい」


「クリスーーーーーー!」



 俺に呼ばれたクリスがぽてぽてとやってくる。



「お呼びでしょうか旦那様。いつもの発作ですか?」


「発作っていうな。魔導コースターのコースなんだが、なんで校舎の中を突っ切ってるんだ? ここからじゃ見えないが城まで行ってるらしいじゃないか」


「警備上問題の無いところを通してますし、旦那様のおっしゃられてた下町のコースターは、家屋の中を通過するのが売りと書いてありましたので」


「そうなんだけど、そんなところまで真似しなくたっていいじゃないか」


「モノレールの機能も統合しましたからね」


「馬鹿じゃないのか? あんなのにのって城や学校に通勤する職員とか頭おかしいだろ」


「と、申されましても、旦那様がアイリーンから領地の予算で試作するときに、こうなることは予測されなかったのですか?」


「どんな発想をしたらローラーコースターを通勤電車代わりにしようとする発想が生まれるんだ」


「旦那様の世界にもあるじゃないですか『一石二鳥』と」


「うるせー。通勤列車の試作は良いが、遊戯具と一緒にしちゃ駄目だろ」


「こんな温いアトラクションで領民が満足するわけないじゃろ」


「温いっていうな。でも作っちゃったものは仕方がない。実際コストが許せば魔導モノレールみたいなものを作ったって良いわけだしな」


「流石トーマじゃ! 諦めが早い」


「……まあ乗ってみるか。安全性は担保されてるんだろうな?」


「無論じゃ。公園と、学校の校舎、城のバルコニーで停車するからの」


「完全にモノレールだな」


「依頼者がヘタレでキャメルバックしか作れなかったからの。ならついでに通勤列車の実験も兼ねようってのは理にかなっておるじゃろ」


「ループとか危ないだろ。ミコトやエマのような乳幼児を乗せることも考慮してるんだからな。というか山なりコースのことをキャメルバックっていうのを良く知ってたな爺さん」


「調べたからの」


「また無駄な知識を……」



 ぶつぶつと言いながらも、早速コースターに乗ってみる。

 見える範囲だと、まずは地上四十メートルほどまで上がってから、公園の外周を回って校舎に突入。

 そのまま城の方へ向かって、まだ公園に戻ってくるコースだ。結構距離あるな。


 抱っこ紐を改良したものを使ってしっかりとエマをエリナに括りつけ、エリナと隣同士で先頭車両に座る。

 ミコトとクレアはその後ろだ。

 二列二十両編成のコースターは一度に四十人が乗れるサイズなので、爺さんやクリスとシル、アイリーンとガキんちょどもも搭乗する。


 全員が搭乗し安全ベルトの着用を係員が確認するとホイッスルが吹かれる。

 それと同時に、コースターがガタンガタンとゆっくりキャメルバックを登っていく。



「ローラーコースターなら魔力の補助はここだけで済むんかな」


「途中停車駅がありますからね。そこで魔力の補助が必要なんじゃないですか?」



 俺の疑問に、すぐ後ろに座るクレアが答える。



「ほんと無駄なことしてんのな」



 キャメルバックの頂点にたどり着くと、コースターはゆっくりと加速を始める。

 速度としては、時速五十キロも無いが、後ろに座るミコトが滅茶苦茶喜んでるから大成功だろう。


 途中学校の校舎を通り抜け、校舎の二階にある広いベランダでいったん停車する。

 試験運用なので、乗降客はいないが、シュール過ぎるなこれ。


 再び魔力を使い高所へ進んでいき、今度は城のバルコニーに向かっていく。

 後ろからミコトやガキんちょどもの楽しそうな声が聞こえる。

 横に座るエリナも、しきりにエマに色々なものを見せて大興奮だ。





「どうじゃったトーマよ?」


「面白かったぞ爺さん」


「そうじゃろそうじゃろ!」


「しかしこれどんだけコストかけたんだ?」


「魔導観覧車と合わせて金貨三十枚と言ったところかの」


「安すぎないか?」


「人件費を除いておるし材料費だけじゃからの。あ、維持費は別じゃぞ」


「鋼鉄のインゴット代だけならそれくらいだろうなぁ」


「加工もほぼ魔法でできるからの。今回はプレゼンも兼ねてるからこの価格じゃが、本格導入するとき折衝させてもらうぞい」


「それはアイリーンに任せる」


「お任せくださいませ閣下。魔導士協会の連中は竜種捜索で散々迷惑をかけてますからね。迷惑料も兼ねて格安で作業をさせますから」


「なにその迷惑って」


「竜を探す為に許可なく森林を伐採したり地形を変えたりしているのですよ閣下。それに巻き込まれて死んだ魔物も放置して腐敗させたりしているので、街道を利用する行商人などからも苦情が上がってきています。魔石だけは回収していくから余計タチが悪いのです」


「爺さん何やってんだ」


「本当にスマン! 魔導士協会のメンバーはちと常識外なやつが多すぎての。一応言い聞かせてはあるんじゃが……」


「クリスも大概だしな。まあその分こういう所で返済してくれればいいさ」


「ぐぬぅ」



 魔導コースターも完成した。

 これでひとまずは、ミコトやエマ、ガキんちょたちが遊べる施設が増えたな。

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