第八話 伝統の水着(水着回Ⅶ)


 滞在六日目。

 今日も安定のチーズオムレツ定食を食べ終わった俺はビーチに向かう。

 初日以外ずっと誰かに付き合わされたからな。今日くらいはひとりでゆっくりしたい。


 海の家でタピオカドリンクを購入し、パラソルが備え付けられたデッキチェアに横たわる。

 これで白いビーチだったら最高なんだけど。


 本来ならいちいち海の家に買いに行かないでも、高級ホテルのプライベートビーチらしく、常に周囲にホテルの従業員が控えているので、飲み物を頼めば買って来てくれるのだが、代金は部屋に付けられる上に割増しになるらしいのでクレアの目が恐ろしくて利用不可能だ。

 というか招待されてるんだからそのあたりも無料だとは思うんだが、無料だからと言って利用しまくるのもな。

 それに俺にはメイドさんがいるし。

 買い物にいちいちメイドさんを呼んだりなんてしないけどな。


 しかし、なんだかんだ楽しんでるよな俺って。桟橋と繋がった江の島や位置がおかしいために江の島とかなり近い位置にある烏帽子岩にも慣れたし。

 などと色々考えながらタピオカドリンクをすすっていると



「ごしゅじんさまーーーー!」



 サクラの声に俺のリラックスタイムが終了する。

 そういや亜人国家連合の打ち合わせがあるので終わり次第合流するとは聞いていたけどすっかり忘れてたわ。



「すまんサクラ。お前の存在を忘れてた」


「わんわんっ! ひどいですご主人様っ!」



 凄い距離を走ってきたにもかかわらず、サクラは息も乱さずに俺に抗議をする。

 水着の上にセーラー服のような上着を着て、更にリュックまで背負っている。もちろん麦わら帽子も装備済みだ。

 部屋に荷物を置いて来いよ。せめてカウンターに預けてくるとかさ。

 というかさ、水着なのは良いんだけどなんでスク水なんだ?



「あのさサクラ、その水着って」


「これは『じゃぱにーずとらでぃしょなるすくみず』という女性専用の水着でして、亜人国家連合で一定以上の功績が無いと着用が許されない水着なんですよっ! 似合いますかっ⁉」


「凄く似合う。というかケモミミにスク水ってデフォなのかもしれないな」


「わふわふっ! よくわかりませんが、とにかくご主人様が似合ってると言ってくれて嬉しいですっ!」


「あとリュックをホテルのカウンターで預かって貰って来い」


「このリュックには、水辺で遊ぶための玩具が入ってるんですよっ!」


「ほう、それは良いな」


「亜人国家連合では木製でしたが、やはりそれでも子どもさんには危ないので、柔らかいスライム材で作ったものなんですっ! ロイドさんの協力もあって、商品化してたんですよっ!」


「ああ、それで遅れてたのか」


「それもあるんですが、主に来年度からの亜人国家連合からの留学生の件ですねっ!」


「そういや亜人国家連合の留学生受け入れ枠を設けるって話だったな」



 サクラがファルケンブルクで農業担当官やらを歴任して、現在は食料担当官という高官にまで昇っていること、ファルケンブルクの文化が進んでいる上に亜人への差別が皆無なことというのもあって、魔法の素質がある亜人をイザベラ学園ファルケンブルク校に留学させたいという依頼は前々からあったのだ。

 更に物産展を経てよりファルケンブルクの魅力が伝わったのか、シバ王直々にお願いされたのだ。土下座で。

 王都からの留学生も増えるので、校舎や寮を大きくする必要もあって魔導士協会に新校舎、新学生寮の建設を依頼中なのだ。

 竜種の素材で大量の債務を抱えている魔導士協会は、渡りに船とノリノリで受けてくれるようだが、工費でアイリーンと交渉中だ。頑張れ。



「ですですっ! 百人も受け入れてくれることになったんですよっ!」


「新校舎も新学生寮も一気に巨大化させるみたいだからな。マンモス校になってしまった」


「まんもす?」


「でかいってことだ。それよりその玩具はどんなものがあるんだ? 商品化が決まったんだろ?」


「はいっ! どれも凄く売れると思いますよっ!」



 リュックを降ろしたサクラは、リュックからほいほいと次々に玩具を取り出して砂浜に並べていく。

 水鉄砲やビーチボール、カラーボール、フライングディスク、ビーチバレー用の自立式ネットなど色々出てくる。



「フリスBとか面白いですよ! 知ってますかご主人様っ!」


「フライングディスクな」


「フリスBですよ?」


「ファルケンブルクではフライングディスクの名称じゃないと販売許可を出さないから」


「よくわからないけどわかりましたっ! ご主人様っ! 早速ふらいんぐでぃすくで遊びましょうっ!」



 わふわふっと、サクラは尻尾をぶんぶん振りながら、デッキチェアに横たわったままの俺にフライングディスクを渡してくる。

 しゃーないなー。



「よしじゃあサクラは二十メートルくらい離れてくれ」


「? なんでですか?」


「へ? キャッチボールみたいに投げ合うんだろ?」


「違いますよっ! ご主人様が投げたフライングディスクを私が取りに行くんですよっ! ダッシュでっ!」


「犬か」


「わんわんっ! 犬人国犬耳族の亜人ですっ!」


「さよか。 じゃあ投げるぞ!」


「はいっ!」



 サクラがクラウチングスタートの態勢になったのを確認した俺は、やや力をセーブして真っすぐ進むようにフライングディスクを投げる。



「せいっ!」


「わふわふっ!」



 俺が投げたフライングディスクにダッシュするサクラ。

 短距離走者のようなスタイルで走るサクラがあっという間にフライングディスクに追いつき片手でキャッチする。



「早いなサクラ。魔法でも使ってるのか?」


「わんわんっ! 遊びで魔法は使っちゃ駄目なんですよご主人様っ!」



 心外な! という感じで戻ってきたサクラがフライングディスクを俺に返す。



「そうか、亜人の身体能力ってすごいんだっけ。シバ王は素手で地竜をしばけるし」


「ですよっ! 次はもっと早く投げてくださいっ!」


「えー、まだ続けるの?」


「わんわんっ! まだ一回だけじゃないですかっ! もっと遊びましょうよっ!」



 俺、フライングディスクを投げるだけなんだけど……。

 犬を飼ったことが無いからわからないけど、これって愛犬が取ってくるから楽しいのであって、人間が取りに行く姿を見ても楽しくないと思うんだが。

 ちゃんとキャッチボールみたいに投げ合う方法も広めないと。


 結局、今日一日はサクラの持ってきた玩具でサクラと遊んで終わったのだった。



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次回も水着回です!


同時連載しております小説家になろう版では、今回の水着イラストを含め100枚超の挿絵が掲載されてます。

是非一度小説家になろう版もご覧いただければと思います。

小説家になろう版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価の方を頂けましたら幸いです。


『☆』評価やフォロー、感想を頂けましたら枚数が増えるかもしれませんw

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