第十三話 公共事業


「うわー、お兄ちゃん託児所が凄く広くなるんだねー」


「そうだな、敷地内で運動どころか百人規模の模擬戦すら出来るかもしれんな」



 城で行われた会議から数日で、託児所周辺の旧貴族別荘地が託児所用の土地として運用されることになった。

 それに伴い古い家屋の撤去やらの土木工事が更地にすべく行われている。

 雇用対策の公共事業の側面もあるため、朝昼晩の食事を提供して、基本給は一日銅貨五百枚から技術、熟練度に応じて段々と上がっていくというシステムにして、家の無い者、木賃宿等を寝床にしている者用に廃材を利用した簡単な簡易宿泊所も建築した。

 託児所に子供を預けている親にも、仕事がないならば働かないかと声を掛けた結果、数人が応じてくれたので早速今日から働いてもらっている。

 託児所に子供を預けている親に関しては託児所の一室を提供して、子供と食事も摂れて一緒に寝られるようにした。

 孤児院は子供を預かるには狭い為、簡単にパーティションを作って親子で眠れる場所にしたが、住み込みの職員なども受け入れられるように、大幅な増築工事も並行して行っている。

 こちらは工期を短くするために専門業者を入れてるが、公共事業の方は簡単な作業は全て職にあぶれた民間の素人だ。



「お兄ちゃん、あの建物とか魔法でばーんってやらなくていいの?」



 エリナが俺の右腕にぶら下がりながら聞いてくる。

 リフォームは見てたけど、建物をぶっ壊すなんてのは初めて見たんだろうな、何故か目がキラキラしてる。

 決してあの建物を魔法でぶっ壊したい! と思ってる訳ではないと思いたい。



「可能な限りここで働いてる人間にやって貰う。急いでるわけじゃないからな、怠けられても困るが、出来るだけ今回の工事で金を稼いで欲しいし」


「兄さま、じゃあお料理も作らないんですか?」



 エリナとは逆の左腕にぶら下がってるクレアが料理の心配をする。

 朝の弁当販売で大量に料理を作るクレアだが、この人数用の料理をどうするのか気になったんだろう。

 というか明日から工事を始めますとか急に現れた専属侍女から言われたんで俺も良くそのあたりの細かなところは理解できてなかった。


「託児所とは別に、工事関係者用の食事は三食作るぞ。ただしそれも雇用した作業員に作って貰う。材料費はこちら持ちだがな」


「旦那様、本当にありがとう存じます」


「いや、アンナの母親だけじゃないし気にするな。もちろん知り合いだとしても働きが悪かったらそれ相応の賃金しか出せないけどな」



 アンナの母は、今も駄姉が胸に着けているコサージュを作った腕を生かして裁縫の職を得ていたが、賃金が安く一日の最低賃金が銅貨五百枚で、三食と寝る場所まで提供してもらえるとの事で応募してきたという経緯があった。

 というか駄姉が誘ったようなものなんだけどな。

 裁縫だけではなく、料理、洗濯も得意との事で、いきなり大活躍している。

 とにかく服をすぐに破いたり、汚してしまう連中も多いのでアンナの母親の裁縫や洗濯の腕は役に立つし、大鍋で大量に煮込むような料理にも対応できるのでとにかく重宝する人材だったのだ。

 ブイヨンを使ったりクレアの作ったレシピ集を渡してあるので味もほぼ託児所仕様だ。

 その内職員として迎え入れても良いかもな。



「お兄様! 騎士団の新人を連れてきました! 鍛錬代わりに力仕事はお任せくださいませ!」


「駄妹もたまには役に立つな。瓦礫の撤去などいくらでも力仕事はあるが……そうだ、野戦築城の訓練代わりに色々試してみろ、どういったものを使ってどういうものを作ればいいかとかわからんからその辺はベテラン武官と相談してくれ。作業効率は無視して良いから」


「かしこまりましたお兄様!」


「あ、あとちゃんとこちらで用意した作業服を着せろよ、貴族の子弟だからと特別扱いはしないからな」


「その辺りは大丈夫です! 多分!」



 軽く不安になる一言を残して走り去る駄妹。

 駄姉によれば駄妹に付けた補佐役は軍歴二十年以上の古参だというのでその辺りは大丈夫だろう。

 足りない所はあるけど素直な性格してるしな駄妹は。


 それと作業用の服もこちらで用意した。

 一着銅貨百枚もしないような品質の古着だが、色だけは統一されており、作業員とそのほかの人間を区別するのに役立つし、繕いや洗濯をしても着られなくなるような場合も多いので複数のサイズで大量に用意されている。

 作業員の中には一張羅しか持ってないのもいるからな。


 アイリーンはこのあたりの気配りが凄い。

 危険思想が無かったら爵位授与の推薦状を書きたいくらいだ。

 本人は嫌がるかもしれないけどな。



「駄姉」


「はい、旦那様」


「裁縫や洗濯が得意で、あと大量の美味い料理を作れたりするような、孤児院の維持管理に必要な人員で、住み込みで働けて子供に受けの良い女性がいたら、この工事が終わり次第託児所の職員に登用したいと思うんだが」


「! 旦那様!」


「依怙贔屓とかは駄目だけど、ちゃんと能力があって性格が良いなら知己の人間でも構わんからな。ただ給料は住み込みの三食付きで月額銀貨十五枚あたりからスタートになるだろうけど」


「はい!」


「今旧孤児院の建物を増築して俺達や婆さんの部屋に加えて、住み込みの職員用の部屋を作ってるだろ? それが完成次第、働きぶり次第で内定を出して住まわせても良いから、いい人材を探しておいてくれよ。早めに教えれば無駄な家賃も払わなくて済むだろ。細かな給与規定なんかは任せたからな」



 駄姉がススっと俺の正面から抱き着いてくる。

 エリナとクレアはそれを予期していたように、俺の腕にしがみついたまま駄姉の為にスペースを開けていた。



「ありがとう……存じます。旦那様」


「アンナの母親は初日から良く働いてくれているしな。この調子で働いてくれるなら是非託児所でも働いて欲しい位だ。それにアンナの母親以外にもちゃんと候補を探しておいてくれよクリス」


「はい……はい……」


「あっ! 姉上ずるいです! わたくしも!」



 帰ってきた駄妹が駄姉に対抗したいのか俺の背中に抱きついてくる。

 領主としてまだ実感はないけど、まあなんとか駄姉妹の協力もあるし上手くやっていけそうかな。

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