第十二話 不穏な会議


「冒険者ギルドの調査結果は?」



 俺の質問にアイリーンが答える。

 仕事しすぎなこいつ。



「こちらに細かな数字を記載いたしました」



 てくてくと俺の側までやってきて、クリスにその資料を渡すとアイリーンは自身の席に戻る。

 クリスは俺に見やすいようにその資料を置くと、俺の匂いを嗅ぐ作業に戻る。

 誰かこの駄姉を何とかしてくれ。



「あれ? あまり資金投入してないのな」


「はい、特定の商店を利用した際の割引や特定依頼の割り増し分は我が領地の負担ですが、あまり利用するギルド員はいないようです。また閣下をはじめ、良く利用される冒険者は割と評判のいい方々で、実際にギルドの事務員らに聴取いたしましたが、この制度自体は真面目に依頼をこなす冒険者にとって有効なものではないかと」


「罠任務の為の駆除費用も特に大きな金額でも無いし、年間金貨十二枚の補助金と職員の給料なんか含めた総額の支出に対して、素材売却益なんかも考慮すると普通に黒字運営になってるのな」


「そうですね、ギルド長の給金は領地持ちなのですが、冒険者ギルド長は全額返納されてますし、ご自身でも定期的に高額依頼を受けてますからね」


「いかがわしい店に行くけど仕事は真面目だって言ってたしな。それにしても給料返納してんのか」


「はい、これからも定期的に調査を行いますが、現在のギルド長がいる間は特に問題は発生しないかと思います」


「わかった。で、暗殺ギルドと盗賊ギルドの件だが」


「はっ……、我が領地からそれぞれ年間で金貨三十六枚と、それとは別にギルド長及び職員十名に給与が発生していますので大幅な赤字ですね。特にこれと言って収益をあげる事もありませんし」


「よし潰せ」


「職員は現地採用ですが、ギルド長はいわゆる王都からの天下りで、人事権は国が持っておりますので……」


「ギルド長の給料は?」


「月額金貨二枚ですね」


「追い出せ」


「いや、しかし」



 アイリーンが口淀む。

 まああまり困らせるのもな。



「なんで冒険者ギルドの三倍もの補助金を出してるんだ」


「国への陳情の結果、ですね。収益をあげる手段が現在ではほぼ皆無ですから」


「国との交渉だな。もう面倒見切れませんって言って暗殺ギルドと盗賊ギルドのギルド長を引き取ってもらってあのギルドを潰そう」


「閣下、まずは正式に叙爵されてからの方がよろしいかと思いますが」


「そうなんだけどな、叙爵式でつい言っちゃうかもしれん」


「保有する兵力に差があり過ぎます。流石に国相手に戦争をして勝つのは厳しいでしょう。ただし周辺の諸侯領と同盟を結べば互角以上には兵力が集まりますが、烏合の衆ですからね。やはりそれでも厳しいかと」


「アイリーンも結構そっち系なのか。戦争するつもりなど毛頭ないから叙爵式では大人しくする予定だぞ。ただしそれが終わったらゆっくりとでも交渉はしていくべきだな」


「はっ」


「あとアイリーン、お前結構仕事抱えてて大変じゃ無いの? 副官を任命する人事権とかあるんだからどんどん使える人間を引っ張り上げて自分の負担を減らせよ?」


「いえ閣下、私は今非常にこの仕事にやりがいを感じております。自分の意見を取り上げてくれる上司など皆無でしたから」


「まあそれでもだ。今後ずっとお前には色々やって貰うんだから今の内から後進を育成するなり長期的に考えて仕事をこなしていけ。クリス、領主代行に宰相職みたいなのは置けないのか?」


「可能ではありますが、領主代行という肩書を持つ役職に任命するには貴族である必要がありますね。まずはこの条項から撤廃する事からやらなければなりませんが」


「めんどくさい。貴族って勝手に任命できないしな。騎士爵や准男爵みたいな一代限りでも領主は任命できないのか?」


「はい、認可状の発行権は国王のみに許された特権です。ですが旦那様が国王を弑し奉ればすべての特権は旦那様の物です」



 おおーと居並ぶ連中がどよめき立つ。

 それも何故か肯定的な雰囲気だ。



「いやいや、不穏な発言はやめろ、一応公式の場だからなここ」



 即座に駄姉の危険な発言に突っ込むが、「しかし」とアイリーンが発言をする。



「全ての可能性を否定することは政治を行う上で望ましくありません。正面を切っての戦争を仕掛けるのは得策ではありませんが、まずは王族の人質を取る搦め手などいくらでもやりようはありますし、王家打倒の様々なプラン作成はこちらにお任せください」



 ここにいる連中全員がうんうんと頷く。



「えっ、なんなの君たちヤバくない?」


「現在王家への求心力が低下しているのは確かです。旧態依然のまま閉塞感に包まれていますからね。いつ爆発が起きてもおかしくない状態ですし、そういった事態に備えておくのも領主としての嗜みですよ」


「嗜みて」


「普通であれば、事実上のクーデターによって成された今回の政権交代は認められません。しかし書類の体裁さえ整っていれば問題無いというくらいに今の王家は適当なのですよ閣下」


「随分酷い状況なんだな」


「平和な時代が長く続いた弊害でもありますね」


「だが、王家に喧嘩を売るような真似は禁止する。ここでの会議の内容が漏れて攻め込まれでもしたらたまらんからな」


「ですが予期せぬ事態に備えての研究、方針案などは進めさせていただきます」


「それは仕方がないだろうな。情報収集も併せて行っておかないと取り残されそうで怖いし」


「お任せくださいませ」


「急に不安になってきたが任せる。現状アイリーンの手腕には満足してるしな」


「光栄です閣下」


「でもほんと、こっちから喧嘩を売るような真似は駄目だからな」


「失業者救済の雇用対策として兵力の増強も行いますね」


「本当に失業対策なんだろうな」


「もちろんです閣下」



 イマイチ信用できん。

 もうやだこいつら。

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