第十七話 タンドリーチキンとナン


 魔導公園で遊んだ後、そろそろ晩飯の準備をしなければならないので帰宅する。

 ヤマトとムサシは一日中飛び回ったせいか、すっかり疲れ果ててミコトとエマそれぞれの手の中で丸くなっている。



「パパ! きょうのごはんは?」


「バターチキンカレーにタンドリーチキン、ナンがメインだな。鶏肉だらけだけど大丈夫か?」


「? なんで? とりにくおいしーよ? ねエマちゃん?」


「うん! とりにくだいすき!」



 あんま気にしないのかなこの子ら。

 学園に通ってる連中は今まさにヒヨコから鶏を育ててる最中なのだが、チキンメインの晩飯をどう思うかな?

 といって今後は鶏肉を料理に使わないってわけにはいかない。肉類では安い部類だし栄養豊富だからな。

 なので荒療治ってわけじゃないんだが、今日は一号の作ったタンドール窯を有効活用させてもらう。

 そもそもうちのメニューで一番人気があるのがから揚げだしな。


 大事なものを持つように、ヤマトとムサシを両手で包むように持ったミコトとエマを先頭に、ぽてぽてと家に向かって歩いていく。



「兄さま、常備菜もから揚げですからね、今日はチキンパーティーですね」


「やり過ぎかなー。でもあいつらの好きなメニューだしな」


「どうでしょうか? 多分問題ないと思いますが」



 ホビロンみたいな見た目からしてヒヨコを連想してしまう料理ならともかく、今まで食べていた料理なら特に問題ないと思うんだがな。

 などと色々考えながら帰宅すると、すぐにクレアを連れて厨房へ向かう。



「じゃあちゃっちゃと作るか。バターチキンカレーはクレアに任せた」


「はい」


「一応チキンに抵抗出たガキんちょのためにほうれん草のカレーも作っておいたほうが良いかな」


「兄さまは心配性ですね」


「どうせいくら作ってもあいつら食っちゃうから無駄にならないしな。俺はナンとタンドリーチキンを作るから」


「わかりました」



 打ち合わせが終わり、早速クレアと料理にかかる。

 タンドール窯は厨房の勝手口から出てすぐに作られた窯焼き小屋に置かれているので、下拵えしたチキンとナン生地を持って移動だ。

 人数が多いとはいえ、一般家庭にとうとう窯焼き小屋が出来てしまった。アホすぎるだろ。

 そのアホは「今度はもっと大きいピザ窯を作るぜ」とか言ってたが。


 とりあえずそのあたりは気にしないでさっさと調理にかかるんだが、タンドリーチキンもナンも下拵え済みだから簡単だ。

 ヨーグルトなどに浸しておいたチキンに、クレア特製のガラムマサラをまぶして一メートル超の鉄串にどんどん刺していく。

 もちろんこの鉄串も一号が作ってきたものだ。

 これ材料費とかファルケンブルク領持ちなんじゃねえの?

 ピザ窯も領地の資材でつくるんかな。


 下拵えをしたチキンを全て鉄串にさしたらタンドール窯に突き立てるように置く。そしてタンドール窯の内壁にナン生地を水滴形に伸ばして張付けていく。

 とにかく巨大なこのタンドール窯、まさに一号の食欲を象徴しているのだがとにかく使いやすい。でかいし。

 ペタペタとナンを張り付ければあとは焼き上がりを待つだけだ。

 タンドリーチキンの焼き上がりの間に、ナンがどんどん焼きあがるので次々と入れ替えていく。



「兄さま、こちらの料理はできましたよ」



 焼きあがったナンを大量に積み上げていると、窯焼き小屋の入り口からクレアが声をかけてくる。



「こっちももう終わるから先にリビングに持って行ってくれ」


「わかりました」



 最後のナンを回収し、いい具合に焼きあがったタンドリーチキンを鉄串から外し皿に盛る。山のように。

 相変わらずすごい光景だなこれ。


 料理が完成したのでマジックボックスに収納し、リビングに向かう。

 リビングではすでにガキんちょどもが集合し、ミコトとエマの頭に乗ったヤマトとムサシに構っているようだ。

 ミコトとエマに似てヤマトとムサシも愛想が良いんだよな。俺以外には。



「閣下、頼まれていたものをお持ちしましたじゃ」


「お、三人目か。そういや鳥籠を頼んでたんだよな」


「では巣箱の隣に置いておきますでの」


「すまないな。よかったら飯を食って行ってくれ」


「ありがとうございますじゃ!」



 多分この時間を狙ってきたんだろうしな。

 ま、ひとり増えたところで関係ない量があるし。



「お前ら飯だぞー」


「「「はーい!」」」



 すでにクレアが並べてあるカレーや副菜に加えて、ナンとタンドリーチキンをテーブルに置く。



「ナンはこれだけしかないからな! おかわりが欲しければ米を出してやるから言うように!」


「「「はーい!」」」


「チキンが食べられないやつは言えよー」


「「「はーい!」」」


「じゃあ食ってよし!」


「「「いただきまーす!」」」



 とりあえずバターチキンカレーやタンドリーチキンを嫌がるガキんちょはいなさそうだ。

 というかいきなりバリバリ食ってるなこいつら。



「ヤマトのすきなおこめがないね、ヤマト、なにたべたい?」


「むさしもどれをたべる?」


「あ、米出しておいたほうが良かったな。今マジックボックスから出すぞ」



 俺がマジックボックスから炊きたての白米が入ったおひつを出そうとしたところ、ヤマトとムサシがミコトとエマの取り皿に盛られたタンドリーチキンをついばみだした。



「ヤマトはとりにくがすきなんだね!」


「むさしもおにくがすきみたい!」


「……なあ三人目、あいつら鶏肉食ってるけど大丈夫なのか?」


「魔鳥じゃし大丈夫ですじゃ」


「もうお前明日から来なくていいわ」


「えー!」


「だって何の参考にもならないし」


「まあそうですじゃの」


「そのへんは自覚してたのな」



 すごく落ち込んでいる三人目に、週一回ヤマトとムサシの健康診断を頼むとなんとか持ち直す。

 まあ実際には役に立ってなかったとしても、ヤマトとムサシのお医者さんという認識のミコトとエマには安心につながるだろうし。


 そしてバターチキンカレーとナンはガキんちょどもには大好評で、あっという間に食いつくされた。

 やっぱりそのあたりの感覚は現代日本人とは違うのかもな。



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