第十八話 水着
物産展が始まってから二週間が経過した。
ファルケンブルク領民へ向けた福祉政策と、異文化交流のためのキャンペーンとして、代金の数パーセントを割引するクーポン券の配布などもしたせいかかなり盛況だ。
キャンペーンというかクーポンの使用期限は一ヶ月だが、クーポン無しでも一年間の税金の優遇と物価の違いでお買い得な値段なので、キャンペーンのあとも売れ続けるだろう。
税金の優遇措置に関しては一年後に終了し、税率なんかに関しては協議をする予定だが、ファルケンブルクの有力な収入になるほど市場が活性化してくれればいいんだけど。
「で、なんでシバ王がここで朝飯食ってるんだ?」
「はっ。クレア様にお呼ばれされてしまいましたので」
「それは良いんだが、今日は何の用だ? 物産展というかオープニングキャンペーン自体はあと二週間は続くだろ? 忙しくないのか?」
「閣下のおかげをもちまして物産展ではかなりの利益を上げております。そこで御礼と慰安を兼ねまして、来週より開業する温泉施設の先行開業に皆様をご招待したいと思いまして」
「プレオープンか。随分早いけど温泉を掘り当てられたのか?」
「温泉自体は掘り始めてすぐに湧きました。あとは魔導士協会の方々からご協力を得られまして、昨日に温泉施設が完成いたしましたので、是非おいでいただきたいのです」
「よし分かった行こう」
以前いた世界でも温泉なんか滅多に行けなかったからな。ちょっとテンション上がってきた。
楽しみだな温泉!
「そして皆様のためにこちらをお持ちしましたのでお納めください」
正座したままのシバ王が側近から大きな布製の袋をふたつ受け取り、俺の前に差し出してくる。
「何これ」
「水着で御座います。混浴ですから」
「なるほど、混浴ならそうなるよな。少し残念だが」
「閣下は水着着用がお好みでないと?」
「折角の温泉なんだから余計なものを身に付けないでお湯を堪能したいんだよな」
「なら混浴のまま水着着用を禁止いたします!」
「待ってやめて! 水着良いじゃん! 水着サイコー!」
水着着用禁止の混浴なんか絶対ダメだ。ヘタレ? うるせー馬鹿。
やっぱ水着最高だよな! と大声でごまかしつつ、シバ王から受け取ったふたつの布製の袋のうち、『漢!』と書かれた中身を確認する。
というか言語変換機能無しで読めてる時点で亜人国家連合では男を漢って書くんかな。アホだな。
女子の方は『御内儀』って……ミコトにエマ、ミリィ、ハンナとニコラ、あと婆さんも含まれてるんだが……まあいいか。どうせ意味もよくわかってないで使ってるんだろう。字画が多いからかっこいいとかさ。
「お兄ちゃん、女子チームの水着は私が配るね!」
「頼む。俺が女子の水着を配るってのは流石にな。ってあれ? サイズとかデザインはどうしたんだ? いつもの服屋が作ったなら勝手に作ってくれそうだけど」
「前にお兄ちゃんがアイリーンお姉ちゃんと打ち合わせしてる時にいつもの服屋さんが来てたんだよ。アイリーンお姉ちゃんの分はあとでお城に行ってデザインの希望とかを聞いてたみたい!」
「俺は何も聞いてないんだが」
「はーい! 女子チームはみんな並んでー! 水着を配るよー!」
「「「わー!」」」
何故か婆さんも「わー」とか言いながら水着を配る列に並んでるんだが……。婆さんも水着作ったのか……。いや温泉に浸かるだけだからな。湯治みたいなもんか。
今日は学校と野球の試合が休みの日だから、きゃっきゃ言いながら並んでいる婆さんも含め、全員が揃っている。このまま希望者を温泉に連れて行くのも良いな。
あと俺の話を聞けアホ嫁。
「兄ちゃん、俺の水着は?」
「おう、ちょっとまて一号。袋から出すから」
いつの間にか俺の前に並んでいた男子チームの先頭にいる一号に突っ込まれたので漢袋をひっくり返して一気に中身を床にぶちまける。
めんどくさいし男子の水着の扱いなんかこんなもんでいいだろ。
「雑だな兄ちゃん……」
「うるせー。さっさと自分の水着を持っていけ」
「「「はーい!」」」
わらわらと山のように積まれた水着から自分の分を探し出して持っていく男子チーム。贅沢にもひとりあたり二着も作ってあるようだ。それも別デザインで。
さーて俺のは……と、ハイエナが残していった残骸ではなく、残った俺の水着を確認する。
「エリナ――――――――‼」
「なあにお兄ちゃん、いつもの発作?」
俺に呼ばれたエリナがぽてぽてと俺の元にやってくる。ちゃっかり自分の水着はすでに確保済みのようだ。
「発作っていうな。それより見ろ」
俺の水着として残された二着の水着の内、一着を取り出しエリナに広げて見せつける。三角形でやたらと布地が少ないアレだ。
「それぶーめらんぱんつって言って、選ばれた『
「うるせーアホ嫁! こんな恥ずかしい水着を着られるか!」
「えー」
「えーじゃない! 次はこれだ!」
バシっとブーメランパンツを床にたたきつけたあとに、最後の一着を広げて見せる。それは一枚の細長い布そのものだった。
「それろくしゃくふんどしって言って、これも『
「ジャパニーズトラディショナルも由緒正しいも同じような意味だ! なんで六尺ふんどしなんだよ!」
「えー」
「シバ王、ちょっと話を聞かせてもらいたいんだが」
変わらず正座したままのシバ王を睨みつけるが、当のシバ王はいつも通り涼しげな表情で佇んでいる。
「はっ。なんなりと」
「俺の水着ってどうしてこんなデザインなのかお前知ってるよな? というかお前の指図だよな?」
「もちろんです閣下。
白い歯を見せながらすっごいさわやかな笑顔で返答するシバ王。というか
「却下!」
「何故ですか! 亜人国家連合でも過去この水着の着用を許された
「罰ゲームだろただの。<転移者>の誰かのいたずらだぞ」
「そんなことは無いと思いますが。事実、この水着は真の
「よし、ならシバ王。これまでの忠勤に加え、バトルトーナメント優勝や地竜の単独討伐などの功績によりこの水着を授ける。更なる活躍を期待しているぞ」
「おお! ははーっ! 恐れ多くも! 閣下よりこのような厚遇を……」
「口上は長くなりそうだしもういいから。ほれ。これやるから頑張れよ」
正座状態からいきなり額を床の絨毯に擦り付けながらお礼の口上を始めたシバ王の肩を叩いて制止し、ブーメランパンツと六尺ふんどしを渡す。
「ははあ! 閣下に終生この身を捧げます!」
「……その水着を着て俺に近づかないように」
「? かしこまりまして御座います!」
よし、シバ王に無事押し付けた。
俺のは適当に買うか。温泉施設で売ってるかもしれないし。というか窓口での水着販売を義務化しないと入場できない人間が出るからな。
「お兄様! 今着替えてきますので似合ってるか見て頂いてもよろしいですか⁉」
シバ王が感涙し、また絨毯に額を押し付け始めたところで、俺との話が終わるまで待ってたかのように、水着を受け取ったシルがぽてぽてやってくると、いつも通りアホなことを言い出した。
「この後すぐ温泉に行くんだからここで着替えて見せなくても良いだろ」
「わかりました! あとで絶対に見てくださいね!」
「わかったわかった。お前は女子チームの希望者を募って引率するように」
「わかりましたお兄様!」
もし温泉施設で水着を売ってなかったら俺は入場できないんだけどな。
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