第四話 メイドさん
トンカツ、ハムカツはかなり好評だった。
ただし和風出汁で煮た上に半熟卵のカツ煮は合わないガキんちょが何人かいた。米も同様だ。
食べなれない味だし仕方がないか。
というかカツ煮をパンで食べる光景はシュール過ぎた。白米で食うよりはこっちの方が美味いというガキんちょもいて軽くカルチャーショックだった。
個人的には、カツ丼の出来はカツ煮部分はまったく問題なく美味かったし、懸念だった白米も、つゆが米にしみ込んで予想以上には美味かったのは収穫か。
元々こちらの米も、炒めればほぼ問題無かったしな。
一部からはあまり評価されなかった米も、食味さえもっと良くなればガキんちょどもにも受けるんじゃないかというシルの言葉もあったので、食後のまったり休憩の中、クリスに白米の感想を聞きつつ、懸念の水稲について聞いてみる。
「どちらにせよ作地面積あたりの収穫量の多い水稲は導入したいんだよなあ」
「旦那様、以前そのようなことを仰られてましたので色々調査しておりましたが、亜人国家の方ではにほんじんの好む米が生産されているようです」
「マジか。亜人国家は日本人に大人気だからありえそうだな。種籾か苗の輸入はできないかな?」
「そちらは交渉中ですが、金額次第では可能と判断いたします」
「できれば技術者を招聘したいんだが可能か? 高待遇を約束してでも欲しいんだが。なんなら爵位もちわっこに頼めば何とかなるだろうし」
「そこまで仰せならやってみましょう。旦那様の仰せの通りの結果が出るのであれば水稲導入は農業革命に繋がりますから」
「ジャガイモの方が影響力でかそうなんだけどな」
「異世界の本ではたしかにジャガイモはその生産効率のお陰で人口が爆発的に増えたとありましたが、こちらの世界ではそれほど効率よく育たないのですよね。微妙に種類が違うのかもしれませんし、長年品種改良をしておりますがなかなか効果が出ていない状況です」
「あー、それで水稲もあまり研究されてなかったのか」
「そうですね、それでも水稲の作地面積あたりの収穫量は現状でも優秀ではありますので、なんとか我が領地でも導入したいですね」
「亜人国家ってどのあたりにあるんだ?」
「正しくは亜人国家連合ですが、一番近い犬人国でも王都から馬車で一週間といったところでしょうか? 隣国ではありますが、険悪でもなく友好的でもない関係ですね」
「物流とか民間交流は?」
「ほとんどありません。もともと亜人は人族から一段階低い種族と差別された歴史があります。現在ではそのようなことは無いのですが、一部上流階級ではまだそういった差別意識も残っています」
「なるほどね。ならばファルケンブルクでは交流を積極的に行っていく方針を取っても良いな。交易なんかすればお互いにメリットはあるだろうし」
「そうですね、街道整備も含めて大規模な交易団の派遣なども検討して良いかもしれませんね」
「個人だとリスクもあるからな、定期的に護衛をつけて希望する商会の交易支援とかしてもいいし。っていうかもうキャラバンだなこれって」
「隊商ですか、そうですね……ここ数十年は大規模な隊商を派遣した記録はありませんし、物流の活性化を図れるかもしれませんね」
「王都は景気悪かったしな。ファルケンブルクはまだ問題は無いけど、いつ王都みたいになるかわからんし」
「ファルケンブルク領民は比較的消費行動が活発なので景気は悪くないですし、公共事業で民間にお金を落としてるのでまだ心配はありませんが、公共事業が終わると一気に冷え込む可能性はありますね」
そう言いながら、クリスはエリナが渡したノートに事細かく書き込んでいく。
俺の素人的な考えを実施可能なレベルまでブラッシュアップするクリスは領主の俺としては非常に頼りになる存在だ。
異世界本を読みこんでるだけあって、俺の知識を理解する速度も速いし、クリスがいなかったら領主なんて無理だ無理。
「とりあえずは友好使節団の派遣と水稲技術の入手だなー」
「かしこまりました。王国宰相の肩書ではなくファルケンブルク領主の肩書で行いますがよろしいでしょうか?」
「勝手に王国宰相の名で友好使節団を送るわけにはいかないしな。まずは領主として小規模な交流から図ろう」
「はい。それでよろしいかと思います。美味しい所はうちで頂いちゃいましょう」
「そういう側面もあるんだけど、ま、ゆくゆくは亜人国家との交流の窓口になれればいいなってところだ」
「近日中に一度登城して、使節団の人選を行ってまいりますわ旦那様」
「うーん、俺もそろそろ行っておいた方が良いかもなー。王都から戻って一度も登城してないし、収穫祭と結婚式の話もあるだろ。そうだ、指輪はあるからな」
「まあ旦那様、ありがとう存じます!」
一応アイリーンや城の連中に近々登城するからって伝えておくかと、「おい」と側近を呼ぶ。
横を見ると、メイド服を着た女が控えている。それも露出度が高い奴だ。
「なあ駄姉、これなに?」
「? 旦那様専用メイドですがそれがなにか?」
「側近じゃなくて?」
「? 側近でもありすが?」
うーむ。どうやら話が通じていない。
「この恰好は?」
「わたくしの侍女と混同してしまいますので、旦那様専属の側近は全てそのメイドの格好に変更いたしました」
「メイドはこっちにもいるだろ普通に。城でも見かけたけどこんな恰好じゃなかったぞ」
「異世界本ではこれこそが正しいメイドの衣装だと書いてありましたが」
ふむ? と側近と言い張るメイドを良く見てみる。
肩も胸元も露出どころか谷間が見えてるし、へそも出てればスカートも超ミニ丈だ。
これ絶対一般的じゃないだろ……。
「露出多すぎだからこっちのメイドの格好にして」
「えー」
「いや、なんで残念そうなの?」
「エリナ様に似たような衣装を着せようとしたことがあると聞きましたが」
「エリナーーーーーー‼」
「なあにお兄ちゃん。また発作?」
俺に呼ばれたエリナがぽてぽてと俺の元に来る。
「お前俺との約束を覚えてるか?」
「えれべーたーとぼうはんかめらのこと?」
「合ってるけどもうそれは忘れていいぞ。防犯カメラはそれっぽいのがあるらしいけど、エレベーターはこの世界に無かったし。それじゃなくて俺との夫婦の約束だよ」
「お兄ちゃんの性癖は暴露しないってやつ?」
「そうそれ。なんでメイド服のこと駄姉に話したの?」
「お兄ちゃんの好きな服ってどんなの? って聞かれたから?」
「あれ? セーフっぽい?」
「お兄ちゃんの好きなぱんつの柄がしましまだっていうのはクレア以外には言ってないよ?」
「今言っちゃってるけどな。でも好きな服装だからセーフなのか? いや駄目だろ。夫婦だけの会話の内容はいくらクレアや駄姉妹でも言ったら駄目だからな」
「駄目なの? 次からは気を付けるね!」
「旦那様はしましまぱんつに露出度の高いメイド服がお好みなのですね」
駄姉が<亜人国家への使節団派遣>と書かれているノートに続けて<旦那様はしまぱんとメイド服>とメモってる。
混ぜるなよ……。せめてページを変えろ。
そういう所だぞ駄姉よ。
「ここリビングだし、周りにはガキんちょどももいるからそういう話は避けてくれよ。騒いでてこちらの事は気にしてないみたいだからまだいいけど」
「「はーい」」
俺の性癖がバンバン漏れてるんだけど……。
いやいや、性癖じゃないぞ! エリナに似合うかな? って思っただけだから!
でもクリスやシルにも似合うだろうな。クレア? いやいや着せたら駄目だろ。
とりあえず露出度高目のメイドさんに用件を伝えた後、駄姉にこちらの世界で一般的なメイド服にしろと伝えておいた。
女官服に戻させなかったのは俺の趣味だ!
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