第十七話 すき焼き


「「「おかえりなさい!」」」



 家に到着すると、エリナ、クレア、ミコト、エマの四人が出迎えに来る。

 クリスは学校にまだ用事が残ってるからとそのまま学校に向かった。そういや呼び出されたんだよな。



「お兄ちゃん、その人は?」


「マリア・メディシスと言います! しばらくこちらでお世話になることになりました! よろしくお願いします!」


「エルフだけど基本的にダメ人間だから付き合いには気を付けるようにな」


「えっ、マリアさんはエルフなんですか兄さま」


「そういやエルフってぱっと見わからないみたいなんだよな。面接も普通にやってたし、エルフと判明したのは面接の時にエルフ族だと名乗ったからだとアイリーンが言ってたし」


「エルフ族は髪色が緑系なのと細身なのが外見的な特徴ですけれど、普人でも緑系の髪色は珍しくないですし、寿命は見えませんしね。紛れ込んじゃえばわからないと思いますよ」


「あとは魔力感知が出来るやつが見ればわかるのかな? クリスもそうだったし」


「ですね。とはいえなかなかレアなスキルだと思いますけど」



 俺とマリアの会話が途切れたのを見たエリナが、キラキラした目でマリアを見ながら挨拶をする。



「エリナ・クズリューです! お兄ちゃんの奥さんです! マリアさん、よろしくお願いしますね!」


「クレア・クズリューです。兄さまの奥さんです。マリアさんよろしくお願いします」


「ミコトです! よろしくおねがいします!」


「えまです! おねがいします!」


「まあ、皆さんとても可愛いですね!」



 ミコトもエマも赤ん坊のころから人見知りしないんだよな。初対面の大人を相手に普通に挨拶できるいい子に育ってパパ嬉しいぞ。



「クレア、こいつ腹が減ってるみたいだからラスクを食わせようと思うんだが、お茶を淹れてやってくれるか?」


「わかりました。すぐ持ってきますねマリアさん」


「わあ! ありがとうございます!」


「じゃあマリア、リビングに案内するからついてこい」


「はい!」



 マリアを連れてリビングに到着すると、早速マジックボックスから皿に盛られたラスクを取り出してテーブルに置く。

 ガキんちょ用に特盛だけど、エルフってどれだけ食うのかな?



「ほれ、ラスクを置いておくから勝手に食え。ただし食いすぎないようにな。晩飯もあるんだし」


「わかりました! というかこれってラスクなんですか? 私が知ってるのとは形が違いますが」


「うちではこれがラスクなんだよ」


「なるほど! 良い匂いで美味しそうです!」



 早速マリアがラスクをパクついていると、クレアがお茶を持って来る。



「マリアさんお待たせいたしました。姉さまとミコトちゃん、エマちゃんの分も持ってきましたよ」


「ありがとークレア!」


「エリナ、マリアの相手を頼むな。晩飯作っちゃうから」


「任せてお兄ちゃん!」



 少し不安だが、アホ同士仲良くなるかもしれないなと思いつつ、クレアと厨房に向かう。



「兄さま、今日は何を作るんですか?」


「エルフって肉が好きなんだと。なので今日は歓迎会も兼ねるから豪勢にすき焼きをやるぞすき焼き」


「すきやきですか?」


「良い牛肉がそこそこ安く出回るようになったからな、俺のいた世界じゃ贅沢な料理と言えばすき焼きなんだよ」


「贅沢……」


「いやいやクレア、今日は歓迎会だし、牛肉も親父の店で良い物を安く買ってきたから」


「……わかりました。今日、兄さまのつくるすきやきを覚えてもっとコストを下げて出せるようにしますね」



 相変わらず贅沢に敏感なクレアをスルーしつつ、早速すき焼きを作っていく。

 すき焼き鍋は無いが、似たような巨大鍋を利用しよう。



「本当は関西風に焼いた肉の上に砂糖をかけてってのをやりたいんだけど、ガキんちょどもがそれじゃ追いつかないからな。割り下でやるか」


「割り下ですか?」


「まあ見てろ」


「はい」



 日本酒、みりん、醤油をそれぞれ十づつ、砂糖を三の割合で使う。

 鍋に日本酒とみりんを入れに立たせたらいったん加熱を止める。そこに醤油、砂糖を入れて弱火で加熱しながらかき混ぜて砂糖を完全に溶かす。

 クレアがふんふんとメモを取りながら見ているが、もうこれで完成だ。簡単だな。



「これで割り下が完成だ」


「随分簡単なんですね」


「あとはこれで煮込むだけだぞ。火の通りにくい順に適当に放り込めば良い」


「具材は何を入れるんですか?」


「薄切り牛肉と、ネギ、白菜、しいたけに春菊。そしてたまねぎと大根も入れようと思う。俺の所じゃ入れなかったけど、地域によっては入れるところもあるらしいし美味そうだからな」


「意外とシンプルなんですね」


「しらたきか糸こんにゃく、豆腐があれば完璧だったんだが」


「とうふは兄さまが前から欲しがってましたよね」


「日持ちしない食品なんだよな」


「日持ちは大事ですよねー。私も食べてみたいです」



 と言いながらクレアが牛肉の塊をスライスしていく。



「クレアも気に入ると思うし料理のレパートリーも広がるんだよなあ」


「兄さま、牛肉の薄切りってこれくらいで良いですか?」


「厚さはばっちりだぞクレア。ガキんちょどもが食うだろうから二人で大量に切るか」


「はい!」



 豆腐は保存期間がな。ファルケンブルクで作っても売り上げが見込めないから簡単に手を出すわけにはいかないし。

 ある程度赤字覚悟で官営で始めてみるのでも良いけど、豆腐職人の朝は早いし大変だろうからなあ。

 

 いやまて、そういえば充填豆腐ってのがあったな。養護施設でも安い時に買ったこともあった。

 無菌状態で充填された豆腐は三ヶ月は常温保存できるって聞いたことあるな。

 亜人国家連合に話を持ち掛けてみるか?

 ファルケンブルクへ輸出できれば売れるかもしれないし。



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