第二十話 米のブランド化
「よし、じゃあ始めるぞー」
「はっ」
そろそろ暑さのピークが過ぎ、月が替わって九月になった。
保冷魔法によって快適な温度に保たれているここファルケンブルク会議室で月一で行われている領主会議が俺の挨拶によって始まる。
毎月の定例報告に加えて、来月の収穫祭などの話し合いも行う予定で、今回は九月の会議で三の倍数月なので補正予算の打ち合わせもあるのだ。
「最初は各担当の報告からだな」
「はっ。では財務担当官!」
「はっ! ご報告いたします!」
表向きはファルケンブルクで俺に次ぐナンバー2で、裏ではナンバー1のクリスに次ぐやっぱりナンバー2のアイリーンが各担当官を呼んで報告させていく。
各担当官の報告に合わせ女官から書類を貰い、担当官から口頭で説明を受ける。
相手は専門家なので、俺からは特に意見なんかは無いのだが、よくわからない表記や数字に関しては都度質問をするが、嫌な顔せずにわかりやすく解説してくれるのはありがたい。
「次、食料担当官!」
「はいっ! ご報告させていただきますっ! 資料をお願いしますっ!」
食料担当官であるサクラが返事とともに立ち上がり、女官に資料の分配をお願いする。
「早生の『太陽のこまち』の収穫量が285パーセント増しか、凄いな」
「新規で開墾した結果、作付け面積が約二倍になりましたので、実際にはそこまで増えたわけでは無いですねっ!」
「来季も開墾はするんだろ?」
「予算を頂ければっ!」
「わかった。金額に関してはアイリーンと財務担当官に相談してくれ」
「ありがとうございますっ! それと、書類の方にも記載してありますが、来季開墾する田んぼには別の種類の稲を植えたいんですっ!」
現在は十月に収穫する『ファルケンブルク産コシヒカリ』と八月末に収穫する早生の『太陽のこまち』の二種類がメインなのだが、サクラは九月に収穫する種類を増やしたいという。
もち米や、多収穫米、日本酒を作るための酒造好適米などの米は別に作ってるので、種類としては十種類ほどか。
「それは主食として流通させる米の種類か?」
「そうですっ! 商業担当官の方ともお話しさせていただいたのですが、主食としての米の流通が今とても好調なんです」
「そうだな、米も大分受け入れられたみたいで、かなり流通してるみたいだな」
「ただ、お米を炊くよりも、小麦でパンを焼いたほうがまだ安いんですよね」
「それも今期の収穫量が増えれば流通価格は下がるんじゃないのか?」
「作付け面積当たりの収穫量としてはそれほど収穫量が増えてるわけでは無いのと、人気が出てきてるのでそれほど安くならないだろうって話なんですよねっ」
「なるほど」
「それで、多収穫米の『イージーコメイージーゴー』の作付面積を増やしたいんですっ!」
「『イージーコメイージーゴー』じゃなくて『ファルケンブルク多収穫米』な。しかし多収穫米か。大衆食堂とか生活支援での食料分配に使ってる程度で市場にはあまり流通してないんだっけか」
多収穫米とは、一般の品種の米よりも同じ作付け面積で四割ほど多く収穫できる品種だ。
その代わり『コシヒカリ』や『太陽のこまち』より食味は落ちるので、試験的に作付けしてる多収穫米については、官営の大衆食堂や生活支援で配布する食料品として使用しているのだ。
「そうですっ! 『イージーコメイージーゴー』の収穫量を増やして、市場に流通させて、『コシヒカリ』と『太陽のこまち』をブランド化してプレミア化させたいのと、軍部の方から非常時のために備蓄したいとのことなのでっ!」
「だから『イージーコメイージーゴー』じゃなくて『ファルケンブルク多収穫米』な。でもそうか、安い米を流通させて庶民にも食べやすくする、その代わり既存の米をブランド化して付加価値を付けることで収益を増やすってわけか」
「そうですねっ。『ファルケンブルク多収穫米』も美味しいですからっ! それに収穫時期をずらすことで、魔導コンバインの有効利用と、気候変動などによる凶作にもある程度対応できますからっ!」
「現状メリットしかないわけか。わかった、詳細を再度書類にしてあげてくれるか?」
「わかりましたっ!」
「ご苦労だったサクラ。頑張ってるな」
「わふわふっ! ごしゅ……閣下! ありがとうございますっ!」
「座って良いぞ」
「はいっ!」
ふんすっ! とやり遂げた表情でサクラが着席する。
あのたどたどしい感じはすっかりなくなって、今では立派に担当官としての役割を果たしている。
隣に座っている、サクラの副官として出席している若い女性の食料担当次官も晴れやかな表情だ。
各担当官ともきちんと話し合いや連携も取れているみたいだし、アイリーンの報告でもサクラの働きぶりは素晴らしいとのことだったし。
そういや小麦なんかの他の穀物の品種改良とかもやってるはずなんだが一切報告が無かったな。
気候的に稲が育たない地域では今まで通りに小麦なんかを植えてるはずなんだが。
ま、嬉しそうに「立派でしたよサクラさま!」「ううん、こっちこそありがとうねっ!」などとこそこそ話をしているサクラと食料担当次官に水を差すのもアレなので、あとでアイリーンに確認しておくか。
いくら米が便利だからって小麦を一切生産しないっていうわけにもいかないしな。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
同時連載しております小説家になろう版では、十一章の水着イラストをはじめ100枚を軽く超える枚数の挿絵が掲載されてます。
九章以降はほぼ毎話挿絵を掲載しておりますので、是非小説家になろう版もご覧いただければと思います。
その際に、小説家になろう版ヘタレ転移者の方でもブクマ、評価を頂けましたら幸いです。
面白い! 応援してやってもいい! という方は是非☆評価、フォローをよろしくお願い致します!
つまらない! 面白くない! といった場合でも、☆1つでも頂けましたら幸いです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます