第六話 ジャンピング土下座

「お帰りお兄ちゃん!」


「お帰りなさい兄さま!」



 孤児院の扉を開けると、がばっと嫁と婚約者が抱き着いてくる。



「ごめんな、心配かけたな」


「ちょっとだけ心配したけど、クリスお姉ちゃんとシルお姉ちゃんが一緒だったし、すぐに使いの人が来て知らせてくれたから!」


「兄さま、次はちゃんと私もついて行きますからね!」


「お前たちを危険な場所に連れて行くわけにはいかなかったんだがな、次はちゃんと相談してから決めるよ」



 俺の胸に頭をこすりつけてる二人の頭を優しくなでながら言う。



「うん!」


「はい!」



 ぽててとミコトがミリィに連れられてやってくる。



「おにーさん、おねーさんたちおかえりなさいー」


「ぱぱ! くりすねー! しるねー!」


「ただいま戻りました皆さま。ミコトちゃんクリスねえが帰ってきましたよー」


「皆さまご心配をおかけしましたが、無事お兄様を連れて戻りました」



 ミコトがぽててと小走りで向かってくるのを確認した駄姉はしゃがんでミコトを迎え入れて抱きしめる。

 その表情はメロメロだ。

 ミコトの艶やかな黒髪を愛おしそうに撫でているし、ミコトも大好きなお姉ちゃんに抱きしめられて向日葵のような笑顔を見せている。



「ミコトちゃんミコトちゃん、シルねえも帰ってきましたよー」


「あい!」



 駄姉の拘束から逃れてしゃがんで待ち構えてた駄妹に抱き着くミコトを、名残惜しそうに眺める駄姉。

 その気持ち凄くわかる。

 ミコトは基本ここにいる全員が好きなので、呼ばれると喜んでそっちに行っちゃうのだ。

 託児所全員のアイドルなので独占が出来ない。



「ミコトちゃんは将来この国一番の美人になりますねー」


「きゃっきゃっ」



 今度は駄姉に変わって駄妹がミコトの頭をなでる。

 大好きな姉二人に構われてミコトのテンションはマックスだ。

 ここにいる全員が好きなミコトだが、最近特に懐いてるのが駄姉妹だ。

 何故だ、柔らかいからか。



「エリナ、クレア、ちょっといいか」


「はーい」


「はい兄さま」


「駄姉妹はちょっとの間ガキんちょどもを頼むな」


「「お任せください」」



 嫁と婚約者を連れて、自室に戻る。

 二人をベッドに座るように促すと、俺は扉を後ろ手で締めた後、二人の座っているベッドに向かって、二メートルほどの距離を一息に飛んで、ジャンピング土下座を披露する。



「どうしたのお兄ちゃん、また発作?」


「いきなりどうしたんですか兄さま?」


「すまん! 駄姉妹と婚約することになった! 決してお前たち二人をないがしろにしたわけじゃないし、嫌いになったとか飽きたとかそういうのじゃないのだけは信じてくれ! それと詳しくは駄姉妹から話があると思うが、一番目の嫁はエリナ、二番目はクレアっていうのは絶対に譲れないと釘を刺しておいたから、もし無茶な事を言いだしたら俺に言ってくれ! 本当にスマン!」



 土下座のまま釈明し終わったあとはひたすら額を床にこすりつける。

 一応カーペットのような薄い布を敷いているが、石の床なので固くて痛い。


 領主になるために仕方がなくとは言いたくなかったし、正直あの駄姉妹を憎からず思ってしまっているのは確かだ。

 過激な言動をする姉とポンコツな妹だが、子供への接し方を見てれば悪い奴じゃないどころか、見た目も相まって凄く輝いて見えてしまうのだ。

 肉親に向かってあそこまで子供たちの為に意見してくれたのが決定打になったと思うんだが、いつからこんな気持ちになったのかは良くわからん。

 俺ああいう母性を感じる女性に弱いのかな……。

 ミコトも滅茶苦茶懐いてるしな。



「「へ?」」


「やっぱそうだよな、一ヶ月くらい前までは人殺しは死ねクソ領主家とか言ってた位だしな。でもあいつらが一生懸命ガキんちょどもの為に動いてくれたりしたのを見てたらな……いや、言い訳だよな。本当にスマン!」



「お兄ちゃん何を言ってるの?」


「兄さまはとっくにクリス姉さまとシル姉さまと結婚するつもりだと思ってましたが」


「は?」


「順番はクレアが先にしたあとなら私は大歓迎だよ? 子供たちもみんなクリスお姉ちゃんとシルお姉ちゃんの事大好きだしね」


「私はまだ十歳ですから、クリス姉さまとシル姉さまが先に兄さまと結婚しても良いと言ったのですが、お二人がそれだけはと固辞されたので」


「あれ? もうそういう話をしてるの?」


「してるけど?」


「してますよ? ハンナやニコラ、ミリィは結婚はいつでもいいし順番も気にしないと言ってますしね」


「なんでみんなと結婚する前提の話し合いが行われてるの?」


「お風呂に入ってる時なんかそういう話をするよ! 女の子だけだしね!」


「ついでに姉さまたちの胸をいっぱい触ってますけどね、あの子たち」


「あれはすごいもんね!」


「でも兄さまはひんにゅー好きなんですよね! 私もひんにゅーなのでしょうか?」


「知るか。まあ納得してくれているならよかったよ」



 立ち上がって椅子に座る。

 ジャンピング土下座を披露して損したわ。

 しかし俺の知らぬ間に勝手に俺との結婚の順番が話し合われていたとは……。

 あと胸の話はやめて貰っていいですか?

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