第四話 定番のお土産


「お兄ちゃん美味しかったね!」


「銅貨七十五枚……」


「エマちゃんおさらもらえてよかったねー」


「うん! みこねー」


「きょうはこれでばんごはんいっしょにたべようね!」


「うん!」



 食事を終えてレストランを出ると、クレアが家族五人で約七千五百円のランチにまだ落ち込んでるし、ミコトとエマはお持ち帰りの食器が入った箱を抱えてご満悦で、エリナはいつも通りだ。



「クレアはいい加減落ち込むのをやめろ。あれだけ堂々とレシピを盗んだんだしもういいだろ」


「はい兄さま。明日の晩御飯はビーフシチューにしましょう。評判が良ければビーフシチュー弁当をメニューに追加するのも検討します」


「商魂たくましいな」


「絶対に銅貨七十五枚を取り返して見せますからね兄さま!」



 ぐっと両手を握りしめて宣言するクレアが滅茶苦茶可愛いけど、銅貨七十五枚どころか金貨七十五枚に化けるんじゃないのか?



「パパ!」



 クレアの開発したメニューの売り上げを計算していると、ミコトが食器の入った箱を俺に差し出してくる。



「おお、そか。お皿割れちゃうからパパが預かるな。エマのも預かるぞ」


「パパありがとー!」


「むー」



 ミコトは素直に箱を俺に預けてきたが、エマはお気に入りを手放したくないようでぎゅっと食器の入った箱を抱きしめている。

 自分で家まで持って帰りたいんだろうな。



「エマ、それ持ってたらもうアトラクションで遊べないぞ。まだまだミコトと遊びたいんだろ?」


「そうだよエマちゃん!」



 俺の言葉とミコトに促されて、にぱっと笑顔に変わったエマが箱を俺に差し出してくる。



「ぱぱ! これもってて!」


「はいよ。今日の晩飯はこれに盛ってやるからな」


「うん!」



 あっさりお気に入りを手放すエマ。今日の晩御飯までもう見られないけど平気かな? 「ぱぱみせて!」って言われたら出せばいいか。

 親バカだなーと思いつつ、ミコトとエマの食器をマジックボックスに収納する。



「パパ! こっち!」


「こっち!」


 ミコトとエマは次のアトラクションをすでに決めていたのか、早速ふたりで手をつないで歩き出す。

 何気ない行動がとにかく愛おしい。



「お兄ちゃん」


「兄さま」



 娘ふたりが手をつないだままずんずん園内を闊歩するのを眺めながら追いかけていると、左右から嫁たちがそっと腕を組んでくる。



「さー食後の一発目だ。あまり激しいやつじゃないと良いけどな」


「そうだね!」


「そうですね兄さま」



 なんとか食費のショックから立ち直ったクレアも引き連れ、ミコトとエマの乗りたいものに付き合っていく。

 どこかで見たようなアトラクションだらけだが、俺は前の世界でも行ったことが無いからな。有名なアトラクションを知ってる程度なのでよくわからん。

 が、絶対パクってるだろうなというのは確信できる。



「パパ! つぎはこっち!」


「こっち!」



 昼食後も元気いっぱいな娘ふたりに連れられて、様々なアトラクションに付き合わされる俺たち。

 エリナもクレアも楽しそうだが、体力凄いなこいつら。

 ちょっと休憩したいと周囲を見回していると、軽食販売所が目に入る。



「ミコト、エマ、ちょっとジュースでも飲んで休憩しないか?」


「「はい!」」



 ジュースという単語に反応するふたり。昼食後は何も口にしないで遊びまくってたからな。



「エリナもクレアもいいか?」


「そうだね、私も喉が渇いちゃった!」


「ジュースですか……おいくらするんでしょうか……」



 ジュースを買うという単語に、即座に値段を気にするクレア。

 また病気が出た。



「あの看板は官営の軽食販売所だからジュース一杯銅貨十枚だと思うぞ」


「それはお得ですね!」



 約百円という返答に満足した様子のクレア。

 官営以外の民営の軽食販売所では銅貨十五から三十枚ほどだ。ただしトッピングができたり、キャラクターを模した小さなクッキーなどがセットについてたり、キャラ絵の描かれたマグカップを持ち帰れたりと、付加価値で官営の店とは差別化を図っているようだ。

 うまい事官民でやれてるようで安心した。



「じゃあ買ってくるぞ。全員オレンジでいいか?」


「「「はーい」」」



 嫁と娘たちをベンチに座らせて販売所に向かう。



「いらっしゃいませ。ファルケンブルク官営軽食販売所魔導遊園地本店へようこそ……ってお客さんお久しぶりですね」


「? オレンジジュース五つください」


「はい、銅貨五十枚です」



 オレンジジュースを注文した俺の顔を見て、俺を知っているのか店員が声をかけてくる。

 誰だっけ? 全然覚えてないぞ。



「はいこれ銅貨五十枚ね」


「今日は大丈夫なようで安心しました」



 わけのわからないことを言いながら、コトリとオレンジジュースが乗せられたトレーを俺の目の前に置く店員。



「どうも」


「飲み終わったタンブラーはこちらへお持ちくださいね」


「ありがとう」



 店から離れるときに背中に視線を感じたので振り返ると、店員が嬉しそうにこちらを見ていた。

 あの店員は随分愛想が良いんだなと思いながら、ベンチに戻ってジュースをそれぞれに渡していく。



「パパ! 次はここへ行きたい!」



 ジュースの入ったタンブラーを自分の脇において、ミコトがパンフレットの地図の一地点を指さす。



「土産物屋か」


「うん!」


「ならついでにほかのガキんちょどもにも買って行ってやるか」


「わーい!」



 ジュースを飲み終わり、ニコニコした愛想のいい店員に空のタンブラーをトレーごと返却した後に、土産物屋に向かう。



「クレアママの許可が出たのしか買わないからなー」


「「はーい!」」



 土産物屋の入り口で、娘ふたりに向けて、暗に金額上限があることを伝えると、手をつないだまま店内に消えていく。



「じゃあお兄ちゃん、私はハンナとニコラ、ミリィとのを選んでくるね!」



 去年ガキんちょどもと養子縁組をする際に、エリナは婆さんと養子縁組をしたので、それ以降お義母さんと読んでいる。

 俺は婆さんのままだけどな。エリナとの結婚式のとき一度しか言わないって宣言してるし。



「では私は、クリス姉さまたちのお土産と、ミコトちゃんとエマちゃんのお土産のチェックをしますね、兄さま」



 お土産チェックじゃなくて金額チェックだろうが、と思わず出かかった言葉を飲み込む。

 クレア、いやクレアさんをこれ以上怒らせるわけにはいかない。



「じゃあ俺は一号とか男子チームのを探すか」



 そういうとそれぞれ店内に散っていく。

 こんなファンシーな店に男子向けの土産があるとは思えんが、一応探してみるか。



「銀貨一枚なんて駄目ですよミコトちゃん」


「えー!」



 一万円相当の土産をクレアに見せて怒られている光景をスルーしながら店内を捜索していくと、ファンシーな土産物の中に、ひときわ異彩を放つ硬派な商品を見つけた。

 ひとつ銅貨五十枚。素晴らしい。これならクレアさんにも怒られない。

 男子チームの人数分を抱えて早速レジへ向かう。



「あれ? 兄さまもう買っちゃったんですか?」



 ちらちらと商品を気にするクレアさん。品物自体じゃなくて金額を気にしてるんだろうな。



「ひとつ銅貨五十枚だったからな。というか男子が喜びそうな物ってこれくらいしかなかった」



 ひとつ銅貨五十枚と聞いて安心した表情をするクレアさん。

 良かった、許された。



「お兄ちゃんそれなあに?」



 小さめのぬいぐるみなどを抱えてレジまでやってきたエリナが、俺の持つ土産について聞いてくる。

 無論即座にクレアが値札のチェックを始めているが、突っ込むのはやめておこう。



「これは木刀だぞ。男子のお土産の定番と言えばこれだ」


「ふーん」


「おい聞けアホ嫁。修学旅行に行ったとき、男子はみんな一本は買っていたのに俺だけ小遣いが少なくて買えなかったんだぞ」


「アランは自分の武器持ってるし、今は武器そのものを作ってるんだよ?」


「それはそれ、これはこれ。お土産の定番と言えば木刀なのだ」


「そっかー」



 ロマンが理解できないアホ嫁は無視だ。

 クレアの金額チェックで許可の出たものをレジに通してマジックボックスに収納していく。

 ミコトもエマもなんとかクレアの許可が出たお土産を選べたようで一安心だ。

 昼飯を普通に安いサンドイッチとかにしてたら財布のひもが緩んだのかな。だとしたらガキんちょどもに悪いことしたな。


 少し反省しながら、俺たちは土産物屋をあとにするのだった。



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