第4話1.4 大変革2

「すげーな魔法。ところで、この魔法、使える人の条件ってわかっているのか? 俺も使ってみたいな」

「父さんは、使えるはずよ。ゲンパク先生のカルテでもそうなっているし」

「ゲンパク先生って、あの白衣の爺さんか? でも、見ただけでわかるのか。すごいな。名前と年齢ぐらいしか聞かれてないのに」

「先生は大魔法使いよ。回復魔法の権威なの。人体スキャンの魔法で読み取ってもらったの。ステータスも出ているわよ」

 人体スキャンって、いつの間に……あのぞわっとしたときか! あの瞬間に魔法を発動させていたのか。

「人体スキャンの魔法も気になるけど、それよりもステータス! ファンタジーの世界みたいだな。どんな項目がある? レベルとかスキルとかあるのか?」

「レベルは無いわね。項目は身長とか体重、あと筋力量とかよ。後は魔法社会らしく、魔素量があるわね。スキルも一応あるわ」

 レベルは無しか。魔素量はMPみたいなものだろう。でも、それ以外が、体重に筋力量ってタ○タの体組成計かよ。

 肥満度もわかるのか? と突っ込みたくなるが、それよりもスキルだ。

「スキルってどんなのがあるの? 剣術とか、鍛冶とか、火魔法とか? どうやって取得できるの? 魔物倒したら覚えるとか? 俺魔法使えるなら、魔法スキル覚えられるかな? うゎ、楽しそうだ」

「楽しそうなところ悪いだけど、父さんが思うようなゲーム的な物ではないわよ。スキルは、簡単に言うと師匠や公的機関に認められたら、記載できるのよ。あなたは剣術で目録ですとか、簿記の資格持っていますとかね」

 そ、それって、履歴書の資格欄と同じじゃないか。 

 まぁ、スキルだから間違ってないが、魔法があるのに何でそこは超現実的なのか。

 あまりのショックに机に突っ伏してしまった。


「そんなに落ち込むようなこと? 魔法があるだけ良いじゃない。帰狭者(ききょうしゃ)は、長い事魔素に包まれたせいか魔素量が多くて魔法を使い易いわよ。特に、父さんは1000年も狭間にいたのだから鍛えればすごい魔法使いになれるかも?」

「帰狭者ね。たくさんいるのか?」

 魔法を使い易いと聞いてすっかり機嫌を直した俺は、何事もなかったかのように振る舞う。

 現金なものである。

「立ち直るの早いわね、まったく。帰狭者は、大変革直後にはかなりの数がいたわ。私もそうだしね。でも、100年を過ぎたあたりからは、ほとんど現れなくなったの。最後に確認されているのは、530年ぐらい前かしら? 1000年も出てこないのは、寝坊助の父さんぐらいじゃない? 母さんも、父さん寝たら起きないからしょうがないとか言っていたよ」

 娘に軽くディスられている気がする。


「俺が狭間に吸い込まれたの、よく分かったな?何か判別方法があるのか?」

「分からないわよ。世界中が大混乱だったのよ。どれだけの人が狭間に吸い込まれ、どれだけの人が帰ってきたか、全く分かってないわ。でもね、母さんがずっと父さんは死んでないって、いつかきっと帰ってくるって、亡くなるまで言っていたわ」

「母さんは、亡くなったのか。ヤヨイが生きているのでもしかしてと思ったが。……一番大変な時に側に居られなかった俺を、恨んでなかったか?」

 そりゃ、1000年も過ぎれば、生きているほうが不思議だ。

 慣れない環境の中、つらい人生だっただろう。恨まれても不思議ではない。

 いろいろ考えていると目頭が熱くなってきた。

「恨むなんてとんでもない。側にいなくて寂しい時はあったみたいだけど、父さんのおかげで生き延びられたとずっと言っていたわ。もちろん、私もカンナも恨んでなんてないわよ。カンナも、父さんに会えないまま亡くなって寂しそうだったけど」

 いなくなった俺のおかげとか、意味が分からない。

 ホントに恨んでないのか妻に問いただしたいところだけど。

 それよりも、次女の方が気になった。


「そうか、カンナも亡くなったのか。1000年だものな、当然だな。幸せに暮らせたのか?」

 昨日の朝、手を振る二人の顔が思い出される。もう会えないのか。そう思うと涙があふれてきた。

 「子供の体は、涙腺が弱い」と鼻声で言い訳してみるが、はっきりと発音できない。

「カンナ、結婚して子供もいたわ。子孫も残っているわよ。後で、お墓参りに行きましょう。立派なお墓があるわ」

 ヤヨイが、俺を抱きしめながら言ってくれる。

 

 俺は娘の薄い胸に顔を埋めながら頷くしかできなかった。

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