第125話3.22 コウベの領域2
俺がテントに戻ると食事が始まっていた。
アズキの作った夕食に、兵士達も傭兵達も、もの凄い勢いでがっついているのが目に入る。
普通の白御飯に味噌汁に魔物肉たっぷりの野菜炒めなのだが、美人メイドのよそいだご飯は、格別のようだった。
「素晴らしい食事ですね。領域内でこれ程の食事が取れるなんて思いましませんでした。普段は、堅いパンか餅に干し肉が付くぐらいですからね」
「本当です。しかも、あんな美人のメイドさんによそって貰えるなんて、この遠征に来て本当に良かったです」
兵士長トシフサさんに続いて、横にいた一般兵が話しかけてくる。余程嬉しいようだ。
アイテムボックスを持ってる俺としては、米に野菜にと大量に持って来ている。その上、容量に余裕があるので調理道具も持って来ている。それをアズキに預けた結果がこの食事である。
しかし、俺も食べたいのだが、お代りに行く兵士達の列が出来ててアズキに近づくことが出来ない。
何人かの兵士は、アズキを口説こうとしているようだが、「私は、身の心も全てトモマサ様のものです」と冷たく言われて玉砕していた。
しばらくして、ようやく列が途切れたので食事を取りに行くと、アズキが満面の笑顔で迎えてくれた。兵士達の視線が冷たい気がするのは気のせいだろうか?
「トモマサ様、どうぞ」
差し出された食事は、明らかな大盛りだ。ますます、兵士達の視線が冷たい。
俺は、そそくさと退散して、ツバメ師匠やカリン先生の側で隠れるように食べている。
「アズキさん、大人気だね」
「おかげで俺は、悪人扱いですけどね」
「まぁ、あんな良い子を奴隷にしてるんだものね。仕方ないわよ。良いじゃない。私達は、皆、トモマサ君が良い子だと知ってるんだから」
そうなんだけど、人から冷たい目を向けられるのは良い気がしない。早い事、解放させてやりたいが、法改正は早くても来年だし仕方がないか。
そんな事を話しながら、夜は更けていった。
翌日は、朝から海へ向けて歩き出した。
「流石に魔物が増えて来たな」
「そうだね。でも、流石精鋭部隊かなりの強さだね。苦戦の様子すらなく倒していくんだから」
シンゴ王子と駄弁りながら進んで行く。戦いが無いので暇なのだ。
山を下りきったようで平地になるが、状況に変化は無い。昔の地形のままなら海はもうすぐだろう。傭兵達が、先行して偵察に行くのを見送って、俺たちはヒデヨリさんと共に歩いて行く。
「トモマサ殿、疲れは出てないか? 間も無く、海に出る。そこから、少し西に行ったところが今日の目的地だ。もうしばらく頑張ってくれ」
「兵士達のおかげで、魔物と戦っていない我々は、全く疲れてません。まだ日が高いのですし、もっと進んでも良いのでは無いですか?」
「いや、今日の予定地では、テントだけでなく、周囲に土壁も作るつもりだ。少し時間がかかる」
どうやら、サンノミヤ攻略の拠点を作るつもりのようだ。前回の偵察でもそこまでしか来れていないようで、その先の魔物は強さが一段上がるらしい。
「ヒデヨリ様、カオル殿より連絡がありました。予定地に問題なしとの事です。予定通りこのまま進みます」
兵士長のトシフサさんが、報告に来てすぐに戻って行った。俺たちは、その言葉通り進んで行く。2時間ほど歩いて目的地に到着した。
到着した場所は、神戸港の跡地のようだった。でかい倉庫でもあったのかその場所だけ大きな木が生えていない空間になっていた。
生憎、人工物そのものは、全く残って無かったが。
兵士達の中の魔法使いが魔法で草を刈り、土地の僅かな凹凸を平らにしていく。
その上に残りの兵士達がテントを設営する。手慣れた作業のようだ。
その後も魔法使い達は、テントを囲むように土壁を作って、拠点を構築して行った。
「手慣れてますね」
俺は、近くで指揮をとっているトシフサさんの横で作業を眺めていた。
「ええ、いつも訓練と称して、ロッコウの山中に拠点を作って狩をしてますからね。そのおかげでしょう」
なるほど。戦国時代の兵隊達も土木工事には長けてたように、この31世紀でも重要なようだ、土木工事。きっとヒデヨリさんなら一晩で城を作って敵を驚かせたりできるんだろう。ん? あれは、秀吉さんだったかな?
そんな事を考えながらトシフサさんの話を聞いているうちに作業は終わったようだ。何人かの兵士が報告に来ていた。
全ての作業が終わった後、兵士達はトシフサさんの指示で休憩に入っている。
「さて、トモマサ様、カオル殿が戻られたようです。報告を聞きに我々も参りましようか」
「そうですか。それなら、また、アズキに食事の準備をお願いしてからヒデヨリ殿のテントに向かう事にします」
そう言うと、トシフサさんは、先にヒデヨリさんのところに向かって行った。
俺も、アズキにお願いをした後、昨日と同じく、シンゴ王子とカリン先生を連れてヒデヨリさんのテントを訪ねた。
テントに入ると、皆揃って待っていた。
「お待たせしました」
「なに、気にするな。また、うまい飯の準備をしてたのだろう?あれのおかげで兵士達の士気も高い。我等などいらないぐらいにな」
「そうよ~。傭兵達もあのご飯楽しみにしてるのよ~。みんな、アズキさんの話ばかりで、私焼けちゃうわ~」
本当に、アズキは大人気なようだ。なぜ、カオルさんが焼けるのかは分からない、いや分かりたく無いが正しい表現だろう。
「それで、周辺の状況はどうだった?」
「ああ、それねぇ~。前に来た時と変わりなかったわ~。相変わらず強い魔物がいて、サンノミヤには近付けなかったけどねぇ~」
「うむ、拠点も出来た事だし明日からは兵を連れて探索に行くとしよう。その間、トモマサ殿達は、拠点の留守を頼む」
「はい、分かりました。私やカリン先生も土魔法が使えますので、拠点の補強もしておきます」
明日も予定通り進むようだ。俺たちは、留守番だが。他にも目撃した魔物の話などを聞いて会議を終えた。
テントを出ると、ちょうど食事の準備ができたようで、兵士達も傭兵達もアズキの前で綺麗に並んでいる。みんな、どれだけご飯を待っていたんだ。
そして、また俺が近づくと冷たい目で見られるんだろうな。
「トモマサ君、どうしたんだい。食事を貰いに行かないのかい?」
ちょうど良い所で、シンゴ王子がやって来たので、事情を話してとって来てとお願いした。
「ああ、分かったよ。貰ってくるから待ってて」
王子を使うとかどうかと思ったが、そこは流石イケメン王子。爽やかにお願いを聞いてくれた。しばらく待ってると、アズキが食事を持って来た。シンゴ王子が申し訳なさそうな顔をしている。
「トモマサ様、食事が欲しいのならいつでも持って来ますので声をかけて下さい」
食事を渡しながら、アズキが懇願して来る。いや、まぁ、そうしたいのだが、周りの目がねぇ。そう思って周りを見ると、案の定冷たい視線を放っていた。
「すまない。トモマサ君。僕が持って行くと行ったんだけどね。どうしても、持って行くと聞いてくれなくて」
「いや、気にしないでくれ。アズキは、ああ見えて結構頑固なんだ」
アズキが離れたせいか、お代わりの列が無くなったようだ。それを見たアズキ、今度は自分の分の食事を持って俺の隣で食べ始めた。変わらず視線が冷たい。
結局、冷たい視線は、途切れることなく俺がテントの戻るまで続いたのだった。
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