第126話3.23 サンノミヤ


 兵士と傭兵達がサンノミヤ攻略に向けて数日、俺たちは拠点の外壁を頑丈にしたり、魔導車の魔改造をしたり、たまに現れる魔物を狩ったりしながら過ごしていた。


「もっと強い魔物と戦いたいのだ。折角の新しい刀なのに」


 アリマの町を立ってから、戦いらしい戦いをしていないツバメ師匠の我慢の限界が来たようだ。

 バトルジャンキーの禁断症状が出てきたのだから。麻薬の一種なのかもしれない。


「そうは言っても、俺たちは拠点の防衛が仕事ですから、遠くに行くわけにはいきません。もうしばらく我慢して下さい」


 探索は少しずつ進んでいる。

 毎夜の会議で進捗は聞いている。

 ただ、最大の目的である敵の司令官の情報は一切入って来ていないのだが。


「しかし、こうもする事が無いと、飽きてしまいますね」


 カリン先生も少し焦れて来ているようだ。

 ルリなんて暇すぎてずっと昼寝しているほどだ。


「今日の会議で、ヒデヨリさんに聞いてみますか」

「それが良いですね」


 それから間も無く探索部隊が帰って来た。

 いつもより少し早い時間に。

 いつもよりボロボロの格好で。


「トモマサ殿、すまんが足を欠損した者がおる。治してやってもらえんか?」


 俺を見つけたヒデヨリさんが1番に頼んで来る。

 見ると1人タンカで運ばれて来ていたので、近づいて復元魔法をかけると、みるみる足が生えてくる。

 失礼だが相変わらず気持ち悪い。

 その人の容態も安定したのを確認してから、他の人達にも回復魔法をかけて行く。

 小さい傷が治っていないようだったので。


「ありがとうございます。トモマサ様。回復魔法の使い手も魔素切れを起こしてしまい、皆の傷を治すことが出来なくなっていたんです」


 状況を説明してくれるトシフサさんに、一段と酷い傷を負っていたので回復魔法をかけながら質問する。


「今日は、かなり激しい戦いがあったようですね。何か強い魔物でも出ましたか?」

「詳しくは、この後の会議でお話ししますが、今日は危なかったです。死者が出てないのが不思議なぐらいに」


 余程の事だったのだろう。

 すぐに会議だという事なので、いつものテントに向かう。

 既に、ヒデヨリさん、カオルさん、シンゴ王子、カリン先生といつもの面子が揃っていた。


「揃ったか。まずは、カオル殿、見た事を教えてくれ」

「分かったわ~」


 カオルさんの話だと、それは突然現れたらしい。

 かなり近くに来るまで斥候に慣れた傭兵達の誰もが気付かないほどだとか。

 なんとなくの違和感で気付いたカオルさんが、投げたナイフがかすったおかげで敵の火球が外れた。


「あれが外れなかったら兵士達の半分は死んでたわねぇ~。その後の、トシフサ様の指揮も良かったわ~。すぐに撤退に移ったおかげで、被害が最小限で済んだんだもの~」

「結局、あれは、何だったんだ? 私は全く見ることが出来なかったが?」


 ヒデヨリさんは、敵を視認出来なかったようだ。

 兵士や傭兵達もほとんど視認出来たものはいないらしい。


「私も、しっかり見たわけじゃ無いけど、人のように見えたわ~。ローブの様なものも着てたしね~」

「やはり、狭間教が?」

「いや、決めつけるのは良く無い。本当に人間なら、捕まえて尋問したい所だが」


 トシフサさんは狭間教を疑っている様だが、どうなのだろう? こんな所で生活している人間がいるとは思えない。

 ヒデヨリさんの言う通り、捕まえられれば1番なのだが、発見が難しいとなるとそれも厳しいかもしれない。

 何とか早めに発見できれば良いのだけど……。


 追跡魔法を使ったら何か出来ないだろうか? カーチャ王女が、変な事を言わなくなってアラームを解除してからあまり使っていない追跡魔法。

 今の所、登録した人物しか表示されないのだが、全ての生き物を表示させられないだろうかなどと考えていたら、目の前が真っ赤になった。


「うわ」


 思わず声が出た。

 皆がこっちを見てるので、「すみません」と謝る。


 全ての生物、菌ぐらいの大きさのものまで表示された様だ。

 でも、これが表示されるという事は、調整すれば、人間だけとか魔物だけとか表示されるのでは無いだろうか――


 ――いろいろ試した結果、かなり細くフィルターを掛けられることが分かった。

 獣人族だけとか、男だけとか、貴族だけとかも可能だった。

 しかも、特定の人物だけを選択すると、ステータスまで表示される仕様だ。

 Goo○leMapなどより高機能だ。人物が表示される時点で比べるのが間違いなのだが。

 もちろん魔物だけとかも可能で、人と魔物で色分けなんて機能も。

 あまりの万能さに少し呆れるほどだ。乾いた笑いが出て来る。


「トモマサ君、また、何か魔法を復活させましたね」


 俺の笑い声が聞こえたのか、カリン先生が目ざとく聞いてきた。


「いえ、以前覚えた追跡魔法で何か出来ないかと思っていろいろ試していたら余りの万能さに笑ってしまいました」


 俺とカリン先生、小声で話していたのだが気が付けば皆が注目していた。

 仕方がないので、追跡魔法について皆に説明する。

 ステータスまで見えるという事は、黙っておく事にしたが。

 個人情報を勝手に見れると言われると良い気がしないからね。


「その魔法を使えば、隠密性の高い敵も見つける事が出来るのか?」


 ヒデヨリさんが興味津々だ。


「おそらく。その上、人か魔物かも分かります」

「そうか。ならば、明日の探索に同行して貰わねばならんな」

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