第132話3.29 龍人族

 町に帰った俺たちは、まず宿屋の温泉に向かった。

 魔法で体を綺麗にしているとはいえ、温泉は別腹だから。

 今、俺はシンゴ王子と2人、男湯でのんびりしていた。


「いや~、無事に帰ってこれて良かった~。やっぱり平和が1番だね~」

「今回の白龍戦では、流石に死を覚悟たよ」

「確かに。あの大きさは、人がどうこう出来る者には見えないからねぇ」

「そうは言いながら、トモマサ君ならサクッと倒してしまいそうだけど?」


 まぁ、確かに本気で完全結晶刀を打ち込んだら殺せるかも知れないけどね。


「ははは、今回は、様子見してて良かったよ。まさか、操られているとは思いもしなかったから」

 シンゴ王子も肯いている。

 コハクを殺していたら後味の悪い事になっただろうし。


「温泉ー、気持ち良いー。幸せー」

「ああ、コハクちゃん、お湯に入る前にちゃんと洗った?」

「大丈夫ー。昔からー、いろんな温泉ー、入ってるからー、マナーはー、知ってるー」


 隣の女湯から、声が聞こえて来る。

 コハクも温泉好きなようだ。

 それだけでコハクとは、仲良くやれそうな気がする。


「それにしてもー、カリンちゃんのー、胸がー、立派になってるー。昔はー、ぺったんこだったのにー」

「それは、コハクも同じじゃないですか。もう子供じゃなないですし。あ、だめ、いや、やめて、ああ~ん」

「カリン先生より、アズキの方がすごいぞ。見ろこの大きさ」

「や、ツバメさん、だ、だめですよ。そんなことしては。あっ、ああ~」


 コハクに合わせるようにツバメ師匠もノリノリだ。

 その声に、俺とシンゴ王子は、目を合わせて風呂の中で蹲っている。

 そろそろ上がりたいのだが、上がるに上がれないのだ。

 神戸の領域内では流石にナニしてないので溜まっているので。

 イケメン、シンゴ王子も同じようだった。

 いくらいつもは爽やかなシンゴ王子も、やはり男の子だという事が分かって少し嬉しかった。


 女湯では、相変わらず艶かしい声が飛び交っている。

 今は、カーチャ王女がやられているようだ。

 これは、何とかしなくてはと思い、シンゴ王子に見えないように立ち上がって水をかぶりに行く。

 何度も水をかぶったおかげで、何とか収まってくれた。

 せっかくの温泉気分が台無しであった。

 俺は少し気落ちしながら、温泉を後にした。


 その日は、アズキと相部屋だった。

 しばらくナニしてなくて溜まっていた俺は、アズキと張り切ってしまった。


「お風呂で可愛い声出してたね。気持ちよかったの?」

 と言ってあげると、真っ赤になって否定していた。

 その反応があまりに可愛くて、2人で家族風呂に入って同じようにして楽しんだ。


「ツバメ師匠と俺とどっちがいい?」

 とか言いながら。


 次の日、聞いた話では実はカリン先生も来たかったそうだ。

 ただ、コハクが離してくれず、泣く泣く断念したとの事だったが。


 翌朝、のんびり起き出して朝食を食べていると、ヒデヨリさんから呼び出された。

 着替えて皆でヒデヨリさんの屋敷に向かう。


「朝から、すまんな」

「いえ、十分に休息できましたから大丈夫ですよ。それで、今日はどうされましたか? 夜に祝勝会をするとの話は昨日伺いましたが?」

「うむ、その事なのだがな、昨日帰って来てから再度あの男の尋問を行なった結果、色々な情報が出て来たので伝えたいのと、後は市民に向けての勝利宣言を行う際に、トモマサ殿の事を紹介したいと思ってな。丸一日かかりそうなので、朝から呼び出させてもらった」


 静かに暮らしたい俺としては、市民に向けて紹介とか、やめて欲しいのだが断れないだろうな。


「分かりました。でも、俺、人前で話すの苦手なので一言とかやめてくださいね」

「そうなのか、仕方がないな。それなら、紹介と戦果をこちらでするから、手だけ振ってくれ」


 それなら俺でも出来そうだ。俺は、大きく肯いておいた。


「しかし、貴族になるなら、そう言った事も慣れないとな。折を見て訓練しておいた方がいい。ああ言うものは、慣れだからな」


 ああ貴族って面倒そうだな。気が滅入って来た。

 あからさまに嫌そうな顔をしてると、カリン先生に小突かれた。

 しゃんとしろと言うことらしい。

 そんなやり取りをしていると、トシフサさんがやって来た。

 会議の準備ができたので場所を移動するそうだ。


 会議室には、カオルさんと兵士の小隊長が待っていた。ヒデヨリさんに続いて俺たちが座るとトシフサさんの司会で会議が始まった。

 まずは、現状の確認から。

 俺たちが神戸の領域にいる間、アリマの町では激しかった魔物の侵攻は鳴りを潜め、ほとんど日常と変わらなかったらしい。

 あのローブの男の言葉は本当に苦し紛れの嘘であったようだ。

 他の町も同様で魔物の目撃情報が減ってるらしく、既に気合の入った商人などはアリマの町まで食べ物を売りに来ているそうだ。


「やはり、あの男が魔物の司令官だったのだろう。今はどんな様子だ」

「はい、一晩かけて尋問したので疲れて眠っています」

「うむ、何者かが奪還に来るかもしれないからな。よく注意しておくように」

「魔法を使わさないように魔素を排除した牢屋で複数名の兵士により監視をしております」

「それならば、ひとまずは安心だな」


 それからはローブの男からもたらされた情報が報告される。

 男の名はシンジ22歳。

 苗字は、頑として語らないらしい。

 チョウシの町近くの村の生まれで家は農家だと言い張っている。

 それが、ひょんな事から狭間教の教えを受け魔物のテイムの魔法を覚え、命令に従い魔物を操り町を襲わせたりしていたそうだ。


「いろいろ隠していそうだが、口は割りそうか?」

「今日からは、専門の尋問官が対応しますので、すぐに全て分かるでしょう」


 淡々と告げるトシフサさん。

 その後は、カオルさんによるコウベの領域の調査報告がなされる。

 俺たちも行ってたし毎日会議してたからあまり聞く意味ないのでは? と思ったが、カオルさんの詳細な報告には感心してしまった。

 あの少ない時間で、サンノミヤまでのルートマップを作り、その中には水場や野営に適した場所、さらには予想される魔物の分布まで書かれている。

 これがあれば、すぐにサンノミヤまで狩りに行けそうなほどだ。

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