第131話3.28 コハク

 今、兵士の1人がローブの男を取り囲んで尋問している。

 周りでは、ヒデヨリさん、トシフサさん、カオルさん、俺、コハクさん、カリン先生、シンゴ王子が見守っている。


「おい、貴様、白龍は倒されたぞ」

「そんな馬鹿な。あの白龍に傷を付けられる人などいるはずが無い」


 兵士の言に、男は激しく取り乱しながら叫んでいる。

 事実、目の前にはコハクさんがいるのだが、白龍とコハクさんが同一人物であるとは全く知らないようだった。

 しばらくすると、男は静かになった。

 いや、あまりにうるさかったので、ただ猿ぐつわをされただけなのだが。


 兵士が、重力魔法で地上に落として刀で首を切り落としたと、事前に決めていた白龍討伐の経緯を男に聞かせている。

 男は、何かモゴモゴ言っている。

 きっと、「嘘だ!」なんて言ってるんだろう。

 そもそも重力魔法は遺失魔法扱いだし、ツバメ師匠ですら白龍の体に傷一つつけられなかった事を考えると、そんな簡単には信じられないか。

 なので俺は、信用性を持たせるために、証拠を見せる事にした。


「『重力上昇(グラビティ・アップ)』」


 男に魔法をかける。

 突然、重力魔法をかけられた男は立っていることが出来ず地面にへばり付いた。

 何とか手足を動かそうとするが、全く持ち上げることが出来ないようだ。

 その上、呼吸まで苦しそうだ。

 ちょっと魔法が強すぎたようだった。


「この魔法で、白龍を落としたんですよ。それから、これが、白龍の鱗です」


 重力魔法を少し弱めて、コハクさんを操っていた宝石を取るのに切り取った鱗を男の目の前に出す。

 すると男は、目を見開いて驚いていた。

 その後、重力魔法を解除するも男は全く動かない。

 茫然自失状態のようだ。

 よっぽど自信があったのだろう。

 まぁ、あのサイズが空を飛ぶだけで恐ろしいものな。


「そもそも、あの白龍は何なのだ? 黒龍の手下だと言っていたが」


 兵士の問い掛けに男は全く返事をしないので、別の兵士に殴られている。

 数発殴られたところで、諦めたのかポツリポツリと話し出した。


「教主様に託された白龍が倒されてしまった。何もかももうおしまいだ」


 その後も話を聞いたが、大した情報は得られなかった。

 白龍はただ任されただけで何処でどうやって捕らえたかなどは知らないようだったし。

 町に大量の魔物を送ったというのも、戦力を分散させるための嘘だという事が判明した。

 そもそも魔素を封じられた状態では、魔物に命令を出せないらしい。


「魔物をテイムしているんですか? そんな技あるんですね」

「トモマサ君、魔物を従える技術は、昔からありますよ。あまりやる人はいないですが」


 俺の疑問にカリン先生が答えてくれた。

 精神魔法の一種で操るらしい。

 と言うか、精神魔法なんてあったんですね。知りませんでした。


「人を操るなんて危険極まりない魔法ですからね。厳しい情報統制が取られてます。普通の人は、存在すら知らないでしょう。魔法学園の図書館でも一般に閲覧できないようになってますしね」

「王城の図書室でも同様ですね。トモマサ君が希望するなら読めますよ。行きますか?」

「いや、やめてこう。人を操るなんてしたくない」


 シンゴ王子、恐ろしい提案はやめて欲しい。

 俺は誘惑に弱いんだ。

 そんな本読んだら使ってしまうだろう。

 それは、人としてダメな気がする。


 洗いざらい吐いたローブの男は、逃げられないように鎖で繋がれてテントに拘留されて行った。

 俺たちも、自分のテントに戻りアズキの入れてくれたお茶を飲みながら寛いでいる。

 尋問中、一言も発せず俺の横にいたコハクさんも一緒にお茶を飲んでいる。

 さっきから、カリン先生を見て首を傾げながら。


「コハクさん、どうかした?」

「うーんー、ひょっとしてー、スワの家のーカリンお姉ちゃんー?」

「え!」


 突然名前を呼ばれたカリン先生、少しお茶をこぼしたようだ。

 慌てて拭いている。


「コハクさんは、私のことを知っているのですか? そして、その呼び方は……」

「やっぱりー、そうなんだー。昔、湖の畔りでー、良くー、一緒に遊んだのー、覚えてないー?」

「…………コハク……ちゃん? あの神殿の湖のほとりで遊んだ、コハクちゃんなの?」


 コクコクと頷くコハクさん。


「う、そ、コハクちゃんがスワ湖の龍神様だったの。全然知りませんでした。……申し訳ありません、龍神様。知らなかったとは言え、大変ご無礼を働きました事、お詫びします」


 すごい勢いで、頭を下げるカリン先生。


「やめてー、私ー、そんなーつもりじゃーないのー。ある日からー、遊びにー来てくれないからー心配してたのー。話し方もー昔のままがいいのー」


 カリン先生の頭を上げさせ抱きつくコハクさん。


「あー、魔法学園に入学したので、イチジマの町に引越ししちゃいましたからね。その後、スワの町は、魔物に滅ぼされて帰るに帰れなくなってしまいましたしね。ごめんね、コハクちゃん」


 久々の再会に喜ぶ2人は、抱き合って喜んでいた。


「でも、コハクちゃん、スワ湖の龍神様が湖離れて大丈夫なの?」

「ほんとーはー、ダメー。でもー、カリンちゃんをー探すためにー、湖から出たらー、騙されてー、操られてしまったのー。そのせいで、スワの町護れなかったー。こっちこそー、ゴメンねー」

「そうだったのね。私を探しに出て来てくれたのね。謝るのはこっちよ。ちゃんと伝えれば良かったのに。本当にごめんね」

「ううんー、もう大丈夫ー。会えて良かったー」


 あまりの嬉しさに2人は、キスしそうなほど顔を近づけ見つめあっていた。

 美女と美少女2人の百合百合な姿に俺は、見惚れて硬直してしまった。いや、ナニは硬直してないよ。多分……。

 他の人たちもそんな2人を凝視している。


「と、ところで、コハクさんは、これからどうするんだ? スワ湖に戻るのか?」


 あまりの百合百合に耐えきれなくなった俺は、無理やり話しかけた。


「私はー、しばらくー、カリンちゃんとー、いるー」

「帰らなくても大丈夫なのか?」

「大丈夫ー。町も祭りも無くなったからー。100年ぐらい? いなくても問題ないー」


 100年って、それって、死ぬまで一緒にいるって言ってるようなもんだな。長寿な白龍からしたらしばらくなのかも知れないけど。

 その後も、昔何して遊んだ。とか、どんな話をしたとかで2人で盛り上がっていた。

 そして、コハクという名前もカリン先生が付けた事が判明したり、体のサイズを子供から大人まで変更できる事が判明したりと中々に濃いい話しを聞いているうちに夜遅くになったので、俺は、自らの寝室へと戻って行った。

 別れ際にコハクさんが、「さんづけは~、いや~」と言いだしたので、「お休みなさい、カリン先生、コハク」と挨拶をして。


 翌朝起きると、すでに撤収準備が始まっていた。

 俺は魔素の消費が激しいだろうという事で、起こさずにおいてくれたようだ。

 傭兵達なんて、夜の見張りを交代でして眠そうな顔してるのに申し訳ない限りだ。


「おはようございます。朝食の準備ができています」

 皆のところに行くと、アズキが朝食を持って来てくれた。

 他の人達は、食べ終えているようだ。

 せっせと撤収作業を行っている。

 そこに、コハクとカリン先生がやって来る。


「トモマサ君、おはよう」

「トモマサー、おはよー」

「2人ともおはよう」

 2人は、眠そうな目をこすりながら、前に座った。

 あれからも2人で盛り上がっていたようだ。

 そこにアズキが、朝食を持って来る。

 カリン先生は、もちろんのことコハクも普通に食事を取っている。

 白龍のサイズから考えると全然足りないと思うのだが、問題無いらしい。


「必要なエネルギーはー、大地からー集めてるからー、大丈夫ー。食事はー、おまけー」


 朝から、間の抜けた話し方で教えてくれた。

 食後は、俺も撤収作業をを手伝おうとしたのだが、トシフサさんに止められてしまった。

 先に荷物を収納しておいて欲しいとのことだ。

 積み上げられた荷物をアイテムボックスに収納して行く。

 コハクが珍しそうに眺めていた。


「トモマサ殿、荷物の収納は済んだかな? それでは、アリマの町に向けて出発するとしよう」


 ヒデヨリさんの号令で、皆進んで行く。

 魔物の問題も片付いたので皆の足取りも軽い。

 その後、ロッコウの山中で一泊して、翌日の夕方にはアリマの町に到着した。

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