第130話3.27 白龍戦3

「コハクさん、鱗とったけど、大丈夫なのか?」

「コハクでー、いいよー。それとー、鱗はー、また生えるから大丈夫ー」


 俺の問いに、やはり間延びした返事を返すコハクさん。神々しさと裏腹にのんびりした口調のギャップが凄い。


 そんな感じで、俺たちがワイワイとコハクさんと話をしている。

 すると。


「トモマサ様、白龍は、何処ですか? 準備が出来ましたので我々も戦います」


 兵士達が隊列を整えて突っ込んで来た。

 俺たちは、コハクさんと話し込んでしまって、他の人たちのことをすっかり忘れていたのだった。


「……えーっと、こちらが白龍のコハクです」


 俺がコハクさんを指差して、操られていた事や人の姿になった事を説明する。

 すると武器を構え、死ぬ気で突入して来た兵士達が完全に硬直してしまっていた。

 無理もないことだった。


「コハクーですー。驚かせてーごめんねー」


 留めとばかりに、コハクさんの間延びした言葉が入る。

 すると、トシフサさんが崩れ落ちた。


「は、はは、き、気が抜けました。さっきの決意は、何だったんだ」


 安堵の表情を浮かべてつぶやくトシフサさん。

 後ろに続く兵士達も、「死なずに済むのか」とか、「助かったー」とか、「俺の勇姿を見せられないな」とか言ってる。

 いや、まともに戦ったら勇姿どころか、一瞬で跡形もなくなるよ。と思いながら、一つ気になったのでトシフサさんに問いかける。


「あれ、ヒデヨリさんは? 1番に突撃しそうだったのに」

「何とか説得して傭兵達と、町に戻ってもらいました。あのローブの男が、町に大量の魔物を送ったと言い出したので」


 不安を掻き立てる答えだった。

 せっかく魔物の司令官をとらえたのに、これでアリマの町が無くなったら目も当てられない。

 そう考えた俺は、転移魔法で一気に拠点に戻る事にした。

 ヒデヨリさん達も一度、拠点に寄るようだったので。

 そして、兵士達も集め、俺は転移魔法を発動した。


「こ、これほどの人数を一気に転移」


 拠点の前に到着したトシフサさんが、驚きを隠せずつぶやく。

 また俺は、何も考えずにやらかしたらしかった。

 一応、「これで、ギリギリですよ」って誤魔化したけど。


 おかげで今日は、これ以上転移できなくなってしまった。魔素は、寝ないと回復しないので。

 町が心配だけど帰れない。どうしよう。と対応に悩んだ俺、カリン先生に相談することにした。


「そもそも、町に魔物が送られているのですか?」


 カリン先生、鋭い指摘をしてくれた。

 あのローブ男の苦し紛れのハッタリの可能性だった。


「追跡魔法で確認してみますね」


 それならばと、アリマの町周辺を見て行くと――

「うーん、あんまり魔物がいませんね。いつもより少ないぐらいです」

「それなら、今日はここに泊まって明日帰ればいいと思いますよ」

「そうしましょう」

 ということになった。


 しばらくするとヒデヨリさんと傭兵達が帰って来て、俺の手を握り締め口を開く。


「トモマサ殿、生きておったか。いや、良かった。白龍のあまりの大きさにほとんど諦めておったのだ。しかも、あの白龍を仲間にしたそうではないか。よかった。本当に良かった」


 誰の死なずに済んで。言葉の裏にそんな思いを乗せながら、ずっと握る手を振るヒデヨリさん。

 心から感謝しているようだった。

 だが、そんなストレートな感情をぶつけられると俺は、困ってしまう。

 俺としては、大したことした気がしないから。

 だから。


「いや、ただ、操られていたのを解いただけですよ。今後、コハクがどうするかは何も聞いてませんから。それより、アリマの町ですが」


 思わず話題を逸らしてしまう。


「そう、それなのだ。あの男、突然、町に大量の魔物を送ったから町はタダでは済まないとか言い出すんだ。こうしては居れん早く帰らねば」


 ヒデヨリさんも思い出したようで、無事話は逸れたのだが、今度は慌ただしく帰る準備を指示しだした。

 そのヒデヨリさんを、俺は手を上げて呼び止める。


「ヒデヨリさん、少しお待ちください。さっき魔法で見た限りでは、町の周りに魔物は見えませんでしたよ。あのローブの男の苦し紛れのハッタリの可能性が高いですね。もう一度、尋問して見てはいかがですか?」

 

 俺の言葉にヒデヨリさんは「この距離で分かるのか」と、とても驚いていたが、魔物がいないのことで落ち着いたようだった。

 トシフサさんを呼び出し、再度、尋問するよう命令している。


 そして再開される尋問に、俺もコハクと立ち会う事にした。

 コハクさんの事も聞きたかったので。

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