第129話3.26 白龍戦2

「分かった。頭の後ろだな」


 白龍の言葉に従い動こうとするが、その間にも俺を振るい落とそうと色々攻撃してくる白龍。

 そもそも話をしている最中――間の抜けた話し方なので時間がかかる――にも攻撃してくるし、こいつ本当に戦いたく無いのだろうか? と疑問に思うが、ともかく今は無視して動く。


「今から、そこに行くから。なるべく攻撃を抑えてくれ。頼む」

『うー、がーんーばーるー』


 返ってくる言葉が、力を入れているせいかますます間抜けな話し方で、俺も力が抜けそうなのを我慢して。


 それでも少し動きが鈍ってるのでその隙に、頭の後ろに回る俺。だが、パッと見たところで何も見当たらない。

 大体、頭の後ろって範囲が広いんだよ。でかい頭なんだから。


「おい! 何も見当たらないぞ」

『うーん』


 俺は叫ぶが、ドラゴンは体を止めるのに精一杯なのか返事が無い。

 自分で探すしか無いのか。と考え直し、集中して頭の後ろを見て行く。


 するとその中に、一ヶ所魔素が淀んでる場所を見つけた。

 そう言えば、ドラゴンも「魔素が淀んでる」って言ってたことを思い出しながら。

 

 近づいてよく見ると鱗の裏に宝石が埋め込まれていた。

 手で宝石だけ取り出そうとするが、上手い事外れない。

 仕方がないので宝石の付いた鱗を一枚、刀で切り取ってやる。

『いーたいー。』

 鱗だけのつもりが皮膚も傷ついたようだ。かなり痛そうだ。

 仕方ないだろ、俺の刀の腕では鱗だけ切るとか、そんな見切り出来ないんだから。


「どうだ、取ったぞ。これで、自由に動けるか?」


 まだ、痛そうにしている白龍。

 大きな目にあふれんばかりの涙を溜めていた。50mプールが満タンになりそうな水量だ。

 だけど、攻撃はしてこなくなった。

 

 しばらくするとパーティーのメンバーも白龍の動きがなくなったことに気づいたようで、白龍の首元に集まってきていた。

 俺も、そこに合流する。


「この白龍だっけか?、どうなったの?」

「カリン先生、どうやらこの白龍、操られていたようです。この鱗に宝石が入ってるでしょう?これが、原因で意思に関係なく攻撃していたと言ってました」

「え、言ってたって? この白龍話が出来るの?」

「ええ、触れてると頭に声が響いてくるんです」


 そんな話をしていると、白龍が「GYUWA」っと一鳴きして激しく輝く。

 眩しくて目を開けてられないほどだった。

 ほどなくして光が弱まってきたので目を開ける。

 すると、目の前には神々しいまでの美しさを持った女性が立っていた。

 身長は160cmほどだろうか、細身だが出るとこは出た非常にバランスの取れたスタイルの女性が、腰まで伸びた真っ白な髪とさわやかなノースリーブのワンピースをなびかせながら。


「どうもー、ありがとうー。おかげでー自由にーうごけるー」


 目の前の女性がお礼を言っている。その言葉に俺は、ようやく気付いた。自分が見とれていたことに。


「あ、あんた、あの白龍なのか?」

「そーうよー。ほらー、角もー、鱗もーあるでしょー」


 俺の問いに答える女性が、頭や腕を指さしている。

 確かに頭には小さな角が、腕には、鱗が少しだけ付いていた。

 そのことに驚いているとカリン先生の声が聞こえた。


「ドラゴンって、変身できるんですね。知りませんでした」


 カリン先生が驚いているようだった。


「私はー、龍人族のー生き残りー。その辺のードラゴンとはー違うー」


 龍人族、初めて聞く種族だった。本でも読んだことないし、カリン先生も知らないらしい。


「どういう種族なんだ? 狭間で変質した人間ではあるのだろう?」


 人間でないなら、未知との遭遇だ。宇宙人か? と思って発した言葉。

 答えは、想像以上に複雑だった。


「ちーがーうー、元々この大地に住んでたけどー、人間とはー、関わらないようにしてただけー」


 この白龍の非常に間延びした話によると、龍人族は大昔、恐竜の時代から生きている種族らしかった。

 でも、ある時、自らを次元の違う世界に移行できるという良く分からない能力をつけたことにより、人前にはほとんど姿を現さなくなったそうだ。

 昔話に出てくる龍などは、たまにこの次元に戻って来た龍を見た人間が残したものなのだということだった。


「すると、白龍さんも何万年も生きているんですか?」

「わたしーは、コハクーと言うー。今523歳ー。最もー若いー龍人族ー。それよりもー、首の傷が痛いー。こんな傷つけられたの初めてー」


 またまた、間延びした話し方で答えてくれるコハクさん。

 俺は、回復魔法で首の傷を治してやりながら考えていた。

 名前は湖に白でコハクか。523歳って事は、大変革後に生まれたってことだな、と。


 傷が治ったコハクさんは、余程嬉しいのか、ニコニコだ。直視するには眩しすぎる笑顔だった。

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