第128話3.25 白龍戦

 迫りくる白龍に俺たちは、危険な状況に陥っていた。

 咆哮にあてらてた兵士の一部がパニックになり、白龍とやらの相手は出来そうにないからだ。

 そんな中、かなりの速度で近づいてくる白龍、とても逃げきれそうになかった。


「トシフサさん、カオルさん、その男を連れて撤退を開始してください。なるべく一塊で」

「撤退に異存はないわ。でも、トモマサちゃん達は、どうするの?」

「我々は、殿を務めます。先に行ってください。我々は、カイバラの領域でもドラゴンを仕留めました。兵士達より慣れていますから」


 トシフサさんとカオルさんが、悲痛な顔をしている。

 1番若い俺たちを残していくのが嫌なのだろう。

 だが、ドラゴンを相手に一般の兵士などなんの役にも立たない。

 魔法使いならと思うのだが、今回従軍の魔法使いは回復主体のため攻撃魔法が苦手だった。


「急いで下さい。間も無く、白龍が到着します」

「分かった。だが、我々は撤退はしない。少し離れた所で体制を立て直し、白龍を迎え撃つ。これが、領主として兵士としての務めだ。たとえ勝てなくてもな。トモマサ殿は、ドラゴンの足止めと誘導を頼む」


 これまで黙っていたヒデヨリさんが、決意の声を上げた。


「分かりました。流れブレスには気をつけて下さい」


 本当は逃げてて欲しいのだが仕方がない。

 話が終わると同時に兵士と傭兵達が現場から移動を始める。

 追跡魔法で見ると、数分後には白龍とやらが到着するようだ。


「前回と同じように重力魔法で白龍をたたき落します。その後は、同じようにやって下さい。ただ、俺も積極的に攻撃に参加します。代わりにカリン先生、アズキとツバメ師匠の回復お願いします」

「了解した」

「わかった」

「分かりました」

「了解しました」

「分かりましたわ」


 作戦とも言えない作戦を皆理解したようだ。

 返事を聞き終わると同時に、日の光が遮られた。

 そう、上空に巨大な物体が現れたためだ。

 森の中から見上げたそれはジェット機の様な大きさの東洋の龍で、真っ白な体は神々しさを感じるほどだ。

 前回のドラゴンが、10トン車ぐらいだから桁違いの大きさだ。


「お、大きい」


 カリン先生が呆れた様な声を上げている。


「行きますよ。『重力上昇(グラビティ・アップ)』」


 俺は重力魔法を発動させる。

 あまりの大きさに落とせるか不安だったのだが、前回より大量の魔素を込めたのが良かったのだろう。

 難なく引き落とすことに成功する。

 同時に、シンゴ王子はドラゴンの脚に取り付いた様だ。

 踏み潰されない様にこまめに動きながら攻撃をしている。


 アズキとツバメ師匠も飛び出して行った。

 2人は、ドラゴンの翼を狙っている。

 翼が無いと飛び立つのに時間がかかるというドラゴンの例を実践しているのだろう。

 それにしても、白龍の少し動きが鈍い気がする。

 大きいからだろうか? 俺も、完全結晶刀を取り出して走り出す。

 身体魔法で全身を強化して。


 そして白龍の顔に切りかかって気が付いた。

 口の中に、白い光が集まりだしたのを。ブレスを溜め始めたのを。


「させるか」


 俺は下から顎に向けて土魔法で石柱を作り出す。

 合わせて上からエアーハンマーで首ごと叩いてやった。

 上下の攻撃で、口を閉じさせられた白龍。


『ボン』

 

 爆発音とともにブレスが弾けさせていた。

 自分のブレスに驚き、白龍が少しふらつく。

 その隙を逃さず、翼に切りかかるツバメ師匠。

 だが。


「だめだ! この白龍硬い。翼も切れない」


 悲痛な声が響いた。

 この間、新調したばかりのツバメ師匠の刀が通用しないなんて、どれだけ硬いんだ? と思ったが、深く考えている暇はない。

 俺は次の攻撃に移る。


「それなら、こっちだ」


 翼がダメなら目玉だと白龍の顔に乗り、俺は刀を突き出した。

 が、少しずれた様だ。それでも、瞼のあたりに少し傷を作ることに成功した。

 さらに俺が、もう一度目玉を狙ったところで。


『痛ったーい。』


 頭に聞いたことのない女の声が響いた。


「なんだ?誰の声だ?」


 誰かが、怪我したのかと思って確認するが皆無事の様だ。ホッと安堵する。

 すると。


『私ー、戦いたくないんだからー、やめてよねー。』


 また頭の中に声が響き、俺は地面に叩きつけられた。

 白龍の角で弾かれたのだ。

 辛うじて刀での防御が間に合ったので、大きな傷は負わなかったが。


「誰だ、俺の頭に話しかけるのは!」


 辺りを見渡しながら俺は大声で叫ぶ。

 さらに追跡魔法で確認しても、この近辺には誰もいない。俺たちパーティー以外に存在するのは目の前の白龍だけだった。


「まさか、お前が話しかけてるのか? 白龍! 戦いたくないなら攻撃をやめろ!」


 俺は白龍に向かい叫ぶ。

 だが、白龍の動きは変わらない。

 それどころか、またブレスを打とうと口を開けている。


「くそ」


 俺は、再び下から石柱を作り、上からエアーハンマーの魔法で口を閉じさせる。

 だが、白龍もバカではなかった。全開で学習したのかブレスを爆発させず引っ込めたのだから。

 何度もブレスを爆発させていた以前のドラゴンと違い知能も高いようだった。

 そして、三度目玉を攻撃しようと白龍の鼻の上に着地する。

 すると。


『攻撃したく無いけどー止められないのよー。操られてるのー』


 また、声が聞こえてくる。

 ここで俺は気付いた。

 白龍に触れると声が聞こえるようだと。


「これは、白龍の声なのか? 操られてるのなら、どうすれば解除できるか教えてくれ」


 この声が本物かどうかは判断出来ないが、一度だけ信じてみようと思い声を掛ける。

 するとやはり。


『えーっとねー、頭の後ろ辺りにー魔素の流れがー淀んでるところがあるのー。多分そこにー何かがあるわー』


 返事があった。

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