第68話2.6 傭兵ギルド

「復元魔法は、復活出来そうかい」

 場所は王族用の学生寮。

 俺とカーチャはメイドの作った夕食を食べていた。

「はい、お兄様。トモマサ様ならきっと直ぐに復活させてくれますわ」

「そうか、それは素晴らしいな。ただし、あまりトモマサ様に迷惑をかけるんじゃないよ」

 にこやかに微笑むカーチャを見ながら、俺は少し心配していた。

 双子の兄である俺は当然のようにカーチャ王女が普段は猫を被っていることを知っている。

 トモマサ様を崇拝している事も。

 なので今日の研究室も変な事をしてないか気を揉んでいた。

 本当は付いて行きたかったのだが、

「いつまでも子供では無いですわ」

 と断られてしまったのだ。


 確かに、いつまでも付きまとう訳にも行かないので自由にさせたのだが――俺はメイドの報告を聞いて頭を抱えざるを得なかった。

「奴隷にしてほしい」

 そうトモマサ様にお願いしていたと言うではないか。

 もちろんトモマサ様は断られていたようだ。

 あの温厚で静かに暮らす事を望んでいるトモマサ様が王女を奴隷になどするはずが無い。

 彼女にとか、結婚とか、なら分からなくも無いのだが。

 父様も「王家から一人娶って欲しいものだ」と言っておられたし、それなら年齢的にもカーチャ王女で、となるだろうと予測しているのだが。


「今回のような迫り方を続けた日には、トモマサ様から嫌われてしまうのでは無いだろうか? ここは、兄として何とかせねばならないな。カーチャの行動を制限しながら、トモマサ様に気に入って貰えるようにする。中々の難作業だな。しかし、カーチャの将来の為だ。やり遂げねば」

 俺は一人つぶやき、気合を入れた。


―――


 入学式の翌日はクラスごとの講義であった。

 講義とは言っても、どの科目を取るか時間割を決めたり学外でやりたい事を担任の先生と相談したりするチュートリアルのようなものであるのだが。

「トモマサ君は、時間割は決まってますか?」

 俺が暇そうにしているとカリン先生が尋ねて来た。

 昨晩もうちで夕食を食べて泊まって行ったから、大体のことは知っているだろうからわざわざ聞かなくてもと思うのだが、先生も暇なのだろう。

 なにそろ5人しかいないクラスだし。


「決まってますよ。幾つか講義を取って、空いた時間はマリ教授の研究室で復元魔法の研究を手伝ったり、ツバメ師匠と実戦訓練に出たりするつもりです」

 比較的自由な学園である。

 講義はもちろんの事、研究手伝いでも教授から実戦訓練でも魔物の討伐証明部位を持って来れば、単位を貰えるのだから驚きだ。

「実戦訓練には、私も引率するのでなるべく早く計画を出して下さいね。引率が無い場合は、単位として認められない場合がありますので気をつけてください」

「分かりました。今のところでは、木曜か金曜に行く予定にしてます。詳細決まったらお教えしますね」

 俺とカリン先生が話をしているとシンゴ王子が声を掛けてきた。


「僕も一緒に行きたいのだが、構わないかい? あと、カーチャも行くかい?」

「兄様、私も行きたいですわ。ただ金曜は講義が入ってますので木曜にしていただけるならですが」

 カーチャ王女の言葉に俺は、びっくりしてしまう。

 王女様が狩りなんてして大丈夫だろうか?

 それに昨日の奴隷発言が気になって、あまり近づきたく無いのもある。

 今日は目すら合わせていないほどに。


 どうしたものかと思案してしまう。

 でも王子と一緒なら大丈夫か? 同じクラスでいつまでも避けているわけにはいかないし。

「カーチャ王女一人では何かあると困りますので、シンゴ王子が来られる時だけでよろしければ、構いませんよ。ツバメ師匠、いいですね?」

 俺の言葉にカーチャ王女「分かりましたわ」とにこやかに同意してくれた。

 彼女の中では昨日の事をどう思ってるんだろうか? 非常に聞いてみたいのだが、また、「奴隷にして下さい」と言われそうで怖い。

 黙っておくのが一番かな。

「ふむ、それなら、木曜に皆で行くことにしよう。前回のように馬車で近くまで行って狩りをするので良いか?」

「馬車ですか。それでしたら、僕の方で手配しておきましょう。学園の馬車も借りれるでしょうが、御者が付いて番をしてくれる方が良いでしょうし」

 シンゴ王子のありがたい申し出を受け魔物狩りの手はずも無事に整ったところで、今日の講義は終了した。


 普通の講義が始まって数週間、忙しくも充実した日々を過ごしていた。

 魔法講義に魔法の実践。

 週一回の狩りも順調にこなしていた。

 カーチャ王女が、また変な事を言ってくるのでは無いかと心配していたが、狩りでは優秀なヒーラーとして活躍していた。

 シンゴ王子がいるおかげかも知れない。


 そのシンゴ王子も凄かった。

 全身を黒光りする重騎士鎧に身長ほどある盾、それに剣身が真っ黒な両刃剣と完全な黒装備で狩りに参加してきたからだ。

 その戦闘にはさらに驚いた。

 まさにタンク。

 常に先頭に立ち魔物どもを引き付ける姿は、後ろから見て惚れそうなほどだった。

 

 シンゴ王子とカーチャ王女の加わったパーティは、以前に比べ数段の安定感を出していた。

 タンクにシンゴ王子、アタッカーにツバメ師匠とアズキ、魔法攻撃役に俺とカリン先生、ヒーラーにカーチャ王女。

 横や後ろからの強襲でも、俺が魔法攻撃役から刀での攻撃役にスイッチする事で危なげなく撃退することが可能になっていたため、前回のようにカリン先生が敵に襲われるような事は一度も起こっていないほどだった。


「今日も、大猟だね。アイテムボックスの中で素材が唸っているよ。しかし、シンゴ王子の戦い方には惚れ惚れするね。王族とは思えない戦い方だ」

「トモマサ君、ありがとう。僕に戦闘術を教えてくれた人は、丹波の国の重機師団長でね。第5王子に過ぎない僕が将来困らない様に、幼い頃から戦いを叩き込んでくれたんだ。おかげで、皆を守れる力を手に入れる事ができたんだ感謝してるよ。いつか、トモマサ君にも団長を紹介するよ。きっと、色々教えてくれるはずだよ」

 え、いや、ちょっと遠慮したいかな? 良い話なんだけど、何と無く暑苦しい感じがして来る。

 それに重騎士鎧とか俺には無理だと思うし。うん。適当に笑って誤魔化しておこう。

 そんなやり取りをしてると無事にイチジマの街のいつもの解体屋に到着したようだった。

 店に入ると、いつもの店主が出迎えてくれる。


「いらっしゃい。今日は何が狩れましたかね」

「今日は、ちょっと数が多いんだけど大丈夫かな?」

 そう言って魔物の種類と数を伝えて行く。

 ワイルドボア20体、ホーンラビット30体、ワイルドディア18体、ミノタウルス3体、オーク5体。他にもゴブリンやストーンスネークなども狩ったのだが、食べれないものはいらないとばかりに討伐証明部位だけ取って処分してきた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。そんなに狩ったんですか? うち1軒では、解体しきれないですね。どっか他の解体屋はご存知無いですか?」

「ああ、すみません。他には解体屋は知らないんです」

「うーん、それなら、傭兵ギルドには登録してますか? 傭兵ギルドなら魔物をそのまま買い取ってもらえますし。登録をお勧めしますよ」

 そうなのか。

 別に全部自分で食べるわけでも無いし、それなら傭兵ギルドに登録しようかな。


「傭兵ギルドって、年齢制限無いんですか?」

「買取だけなら12歳から仮登録で可能ですね。依頼を受けるのは成人してからになるみたいですが」

 うん、行けそうだ。

 カリン先生に聞いてみても、魔法学園の学生でも登録して構わないと教えてくれた。

 他にも登録している人はたくさんいるらしい。

 解体屋では自分で食べる分それぞれ一体ずつ解体をお願いして、他は傭兵ギルドに持って行くことにした。

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