第177話4.40 スワ温泉

「ふぅー。良い湯だな」

「本当に」

 脱衣場に入った俺とシンゴ王子は、速攻で水着に着替えて風呂に浸かっている。

 決して脱衣場の崩壊を恐れたわけでは無い。

 ただ、早く風呂に入りたかっただけだ。

 ちなみに、シンゴ王子の水着は、何処の水泳大会に出るの? と言わんばかりのブーメランな水着だった。

 巨大なナニを隠しきれるのかと不安になる程の。

 ちょっと動いたらポロリがありそうだ。全く嬉しく無いポロリなのだが。


「女性陣は、遅いな」

「そうだね。でも、女性はいつでも時間がかかるものだから」

 俺の言葉に、分かったような事を言うシンゴ王子。

 そんな、どうでも良い事を話していると声が聞こえた。


「父さん達は、本当に早いわね」

 その言葉に「お、来たか」と振り向く俺の目に飛び込んできたのは、全裸のヤヨイだった。

「な、何で水着着てないんだよ。お前が言い出した事だろう?」

 俺は、即座に声を上げる。

「良いじゃ無い。ここには、身内しかいないんだから。他の子達は、シンゴ王子にみられたく無いだろうけど。私は、いつもみられてるから。ね、シンゴ王子」

 その俺のツッコミに、恥じらいも無く答えるヤヨイ。

 だが話を振られたシンゴ王子は違ったようだ。

 ヤヨイの姿を見て湯気でも出そうなほど真っ赤になっていた。

 そして、小声で何か言っている。


「や、ヤヨイ様。あ、あの、うら若き女性になられたのですから、す、少しは恥じらいを……」

 以前一緒に風呂に入った時とは異なり真っ赤な顔のまま目を伏せ、話をするシンゴ王子を少し不審に思った俺だが、細かい言は気にせずにヤヨイに着替えを促すためヤヨイの方を向いた。

 そして、ヤヨイを見た俺は驚いた。

 何と、当のヤヨイも真っ赤になって、手で大事な所を隠しているではないか。


「そ、そうね。やっぱり水着着ようかしら?」

「は、はい。それが宜しいかと」

 ボソボソと話をする2人。

 それをただ見ていた俺だったが、何だか苛々してきた。

「何だこれ? 何で正月とこんなに反応が違うんだ?」

 思わず、棘のある声が出る。

 その言葉を聞いた2人は、ちらっとこちらを見て、そして2人で見つめ合って、また俯いてしまう。


「ヤヨイ、恥ずかしいなら早く水着着てこいよ!」

 更に苛々していた俺の棘のある言葉に、今気付いたとばかりに脱衣場に駆け込んで行くヤヨイ。

 シンゴ王子を見ると、まだ真っ赤なまま俯いていた。

「全く、何だこれ?」

 乾いた俺の声が、ただ夜空に響いた。


 それから数分ほどしただろうか、女子脱衣場からガヤガヤと話し声が聞こえてきた。

 皆が出てきたようだ。

 ヤヨイが脱衣場に戻ってからも俯いたままのシンゴ王子に何故か苛々てした俺は、早く来ないかなと振り向いて、思わず叫んでいた。

「何で、スクール水着何だよ!」

「……申し訳ございません。水着はこれしか持ってませんので。お気に召さないようですので、私は外でお待ちしてます」

 しばらくの沈黙の後、そう言って出て行こうとするアズキ。

 俺は、それを必死で引き止めた。

「ああ、違うんだ。違うんだよ。決してアズキを責めているわけでは無いんだよ。だから、ね、そのままで良いんだよ。ね、温泉入ろう」

 慌てて湯船から出て、アズキの手を取って湯船に促す俺。

 それでもアズキは、

「あの、私は、本当に外で待ってますから。似合わない水着で申し訳ありません」

 とか言って抵抗していた。


「そんな事ないよ。とても似合ってるよ。ただ、ちょっと驚いて声が出ただけだから。ごめんね。だから、一緒に温泉入ろう。ね」

 更に引き止める俺に、ようやく安心したようだ。

 温泉に入ってくれた。

 俺が一安心とアズキの顔を見ると、目が少し潤んでいた。

 よっぽどびっくりしたらしい。


「トモマサ君、ダメですよ。アズキさんに酷い事言うなんて」

 気が付くとカリン先生もやって来ていた。

 確かにカリン先生の言葉に何も言い返せない。

 ちょっと苛々したからと言って、大きな声を出してしまったのだから。

 だから俺は素直に謝った。

「すみません。カリン先生の仰る通りです。気を付けます」


 カリン先生の方を向いて謝る俺だったが、1つ気になったので聞いてみた。

「本当に何で、みんなスクール水着何ですか?」

 そうなのだ。

 何故か、アズキにカリン先生にツバメ師匠にカーチャ王女までスクール水着だったのだ。

 流石にヤヨイとコハクだけは違ったのだが。

 俺の言葉に驚いた声を上げるカリン先生。


「え? 何でって言われても。これ学園指定の水着ですし。水着なんて早々着る機会もありませんので、これしか持ってないのです」

 そう言って俺の横に座り自分の水着の肩紐を引っ張るカリン先生。

 胸元がちょっと広がって思わず視線が釘付けになる。

 その視線を遮るように俺の膝に乗って来たツバメ師匠も口を開いた。


「そうだぞ。トモマサ。水着なんて早々使わないしな。しかもこの水着、伸縮性も良くて、防御力も高い。とても良いものだぞ」

 うん、水着に防御力、1000年前21世紀にはない発想だ。

 流石、ツバメ師匠。だが俺が言いたいのは、そんな事ではない。

「いや良いんですよ。ツバメ師匠は、とてもよく似合ってますから。ただ、気になるのは、アズキとカーチャ王女なんですよ」

 巨乳にケモミミに尻尾を持つ美女、そんな風貌のアズキがスクール水着を着る。

 はっきり言って、いかがわしい店の店員だ。

 カーチャ王女も金髪碧眼の西洋顔であの水着、アズキと大差ない感じだ。


「や、やはり私、似合ってないのですね……」

 そう言って、去ろうとするアズキを引き止める俺。

「ち、違うよ」

 と言い訳を始めた所で、珍しくヤヨイからフォローが入った。


「そうね。確かに違うわね。アズキ、大丈夫よ。父さんは、アズキが似合ってないから言ってるわけでは無いわ。詳しくは、後で聞きなさい」

「や、ヤヨイがフォローするなんて」

 と俺が驚いていると更にヤヨイの話が続く。

「まぁ、その訳を聞くためには、私達は邪魔ね。早々に退散するわ。行くわよ、ツバメさん、シンゴ王子、カーチャ王女」

 そう言って、ツバメ師匠の手を取って風呂を上がって行くヤヨイ。

「え、今来たとこなのだ」

 なんて、ツバメ師匠が抵抗している。だが、ヤヨイは有無を言わせない。

「まぁ、十分でしょ? 既に体は生活魔法で洗ってるのだし」

 などと言いながら、3人を引き連れて脱衣場に戻って行った。

 そして、俺とアズキとカリン先生とコハクが残された。

 それを見送った俺は、ヤヨイめ、狙いがバレバレだぞ。

 と思ったが口には出さずに心に留めた。

 それから10分ほど、4人で無言で風呂につかっていたのだが、ヤヨイ達が、ある程度遠くに行ったのを察知したのだろう。

 アズキが口を開いた。


「あの、トモマサ様。教えてください。ヤヨイ様が仰ってた、違う訳を」

 オズオズと言った口調で聞いてくるアズキだが、目には力がこもっている。

 誤魔化せそうに無いので「ごめんね」と前置きを入れてから本当の事を話す事にした。

「スクール水着をね、アズキが着るとね、何だか、イヤらしいと言うか、何とも言えない気持ちになるんだ。それでね、お風呂には似合わないかなぁ〜と思って……」

 何と言っていいか分からず、纏まらない言葉を発する俺。

 アズキは分かってくれるだろうか? 心配だ。

 と思っていたらアズキが笑顔で答えてくれた。


「そうだったんですね。私を見てそんな風に思ってくれてたなんて、嬉しいです」

 そう言ってから抱き着いてくるアズキ。水着から溢れそうな胸を押し付けてくる。

 その旨の感触を楽しんでいると、カリン先生と目が合った。

 まるで、私はどうなの? と言わんばかりだ。


「カリン先生は、年相応に似合ってますよ。もちろん、コハクの水着もね」

 カリン先生に続いてコハクにも感想を述べる。

 ちなみに、コハクの水着は、白地に青で縁取られた面積の少ない水着だ。

 ヤヨイからの借り物らしい。

 結構際どいのだが、コハクの物静かな雰囲気(話すと全然違うのだが)と相まって非常に上品な感じになって似合っていた。


 そして、3人に抱きつかれ、ヤヨイの予想通りナニが始まった。

 いや、実に興奮した。何せ、女の子の水着を脱がすなんて経験あるはずもないのだから。

 おかげで、また、魔素量が上がってしまった。


「先程は、お手数をかけ申し訳ありませんでした」

 風呂から帰って、入った布団の中で、アズキがまた謝って来た。如何も、風呂での一件を気にしているようだった。

「大丈夫だよ。アズキ。もっともっと言いたい事を言って、したい事をしたら良いんだよ」

「はい」

 俺は、アズキにいつも言っている言葉を返す。

 それに首肯するアズキだが、いまひとつハッキリしない。

 いつもこうだ。

 奴隷だから……と遠慮してしまうようで、中々自分の意見を言わない。


「まぁ、それでも段々変わって来ているのだけどね。もう少し頑張ってくれると嬉しいかな」

 そう言った俺の言葉は、夢の世界に入ったアズキには届かなかったようだ。

 代わりに、反対隣から声がした。

「トモマサー、私も混ぜてくれ!」

 そう言いながら、腕に抱き付いてくるツバメ師匠。寝言のようだ。

 さらにその隣ではルリが丸くなっている。

 何故ツバメ師匠と寝てるかと言うと、部屋に帰って来たら待ち構えていたからだ。

 なんでも、風呂で十分甘えられなかったから布団の中で甘えさせろと言う事だった。


 カリン先生とコハクにい聞くと、私達はもう十分だから今日はツバメ師匠と寝てあげてと言われてしまい、今に至っている。

 ルリについてはよく分からないが、祝賀会で食べ物を漁っていたらしい。

 置いて行かれたと知って、ちょっと拗ねているとかツバメ師匠が言っていた。

 本心はよく分からないが、ツバメ師匠と寝ると言うと、一緒について来た。寂しかったのかも知れない。


 そうして、3人プラス1匹で並んで目を閉じると、俺も直ぐに眠りの中へと入って行った。

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