第178話4.41 復興

 翌朝は、少し早めに目が覚めた。それでも、いつものようにアズキはいなかった。

「本当に早起きだな」

 そう言いながら、反対隣を見るとツバメ師匠が涎を垂らして眠っている。

 しかも、「トモマサー、そこ、そこなのだ」なんて寝言まで言っている。

「全く、なんの夢を見ているのやら」

 と俺はつぶやいて布団を後にした。


 支度をして向かった食堂には、既にヤヨイとシンゴ王子が来ていた。

 2人で何やら談笑している。

 何だか、非常に良い雰囲気だ。

 少しイラっとしたので、話に割り込んで邪魔してやろうと思ったところに声がかかった。

「成る程ね。それで、昨日、少し苛々してたのね」

 見ると、カリン先生だった。

「え ?何のことですか?」

 俺は、惚けてみた。

 けど、無駄だったようだ。先生に諭される。


「温かく見守ってあげてください。ヤヨイ様は、良い大人なのですよ。でしゃばっても嫌がられるだけですよ」

 シュンとする俺に、更に話は続く。

「トモマサ君には、私達がいるでしょう? それとも、私達だけでは、満足できませんか?」

「いえ、そんな事はありません。十分満足しています。昨日も凄かったですし」

「その満足では、無いのですけどね。でも、まぁ、それも含めてですかね」

 カリン先生の問いに、俺が答えるとカリン先生の顔が真っ赤になってつぶやいていた。

 そうこうしているうちにコハクも来て、ツバメ師匠も起こされて来て、カーチャ王女もやって来て、皆が揃いだした。


「さぁ、頂きましょう」

 朝食の準備を終えたのだろう、アンズさんが、食卓に付いて皆を促した。

 だが俺は、素直には食べ始められなかった。

 何故なら、ミツヨリお義父さん達がいないからだ。


「あの、お義父さん達は?」

 既に食べ始めていたアンズさんにオズオズと質問すると教えてくれた。

「ああ、私が起きた時、まだ飲んでたから、当然起きてこないわよ」

 朝まで飲んでいたようだ。

 それなら仕方ないかと俺も食べ始めたら、アズキ達も続いて食べだした。

 朝食は、ご飯に味噌汁に漬物にとオーソドックスな和食だった。


「こんなものしか無くてごめんね。昨日、全部食べられちゃって……」

「アンズお義母さんの料理とても美味しいです。特にこのキノコの味噌汁、最高です」

 普段の朝食で恐縮したのだろう。

 アンズさんが謝ってくるので、俺は素直に褒めた。

 確かに珍しい料理ではない。

 だけど、とてもホッとする、暖かい料理だったからだ。

 俺の言葉にアンズお義母さん、優しく微笑んでくれた。

 その笑顔に自然と俺の顔にも笑みが浮かぶ。

 そんなホンワカした朝食の時間だった。


 朝食後は、街中の整備に乗り出した。

 道や上下水道などのライフラインに公共施設に仮設住宅にと住民を受け入れるまでに直して置くべき所は数多あるのだ。

 ここは、余ある魔素量を活かして早急に進めるべきだと判断した俺がアンズお義母さんに提案したのだ。

 本当は、ヨリミツお義父さん達に相談するべきなのだが、さっき寝たばかりらしいので起こすのは忍びない。


「それじゃ、さっきのチーム分けでそれぞれ作業を、ヨロシク」

 そして、俺の合図で作業が始まった。

 ちなみに俺は、1人で大通りの復旧だ。

 倒壊した道から出た瓦礫を退けたり凸凹を慣らしたり、石畳みにしたりして行っている。

 非常に大掛かりで魔素を使う作業なので俺の担当になった。

 次は、ライフライン――とは言っても上下水道の復旧だ。

 唯一、構造を知っているヤヨイに任される事となった。

 過去に開発に携わっていたらしい。


 お供にメイド長とシンゴ王子が付いて行った。

 その人選に思わず歯ぎしりしてたら、またカリン先生に嗜められた。

 そして、最後は公共施設班だ。

 カリン先生を中心にアズキ、カーチャ王女、何とツバメ師匠まで動員された。

 なんでも、魔法の練習になるからとカリン先生に引っ張り出されたのだ。

 本当は、シオジリの領域まで魔物の様子を探りに行くコハクとルリに付いて行きたかったのだろう、最後まで羨ましそうに見ていた。


 作業は、順調に進んだ。

 昼に一度集まった時に、俺は中央大通りを、ヤヨイは下水道設備を、カリン先生達は、街役場や傭兵ギルドなどが入る予定の仮設備の建築をそれぞれ完了させていたのだから。


 昼食は、信州名物おやきだった。

 アンズお義母さんが、皆の分を用意してくれた。

 具はナス味噌炒めやかぼちゃの煮物、野沢菜漬けなど様々だ。

 本当に美味しい。

 皆で、満足いくまで食べたら残り少なくなっていた。

 ヨリミツお義父さん達の分は大丈夫なのだろうか? 少し不安になるが、

「まだ、起きてこないから良いのよ」

 というアンズお義母さんの言葉に素直に全部頂いた。

 実はアンズお義母さん、静かに怒っているのではないだろうか? 朝より言葉に圧力を感じたのだから。


 午後も、引き続き作業を続ける。俺は、大通りに繋がる横道の整備を、ヤヨイは、上水道設備の復旧を、カリン先生達は仮設住宅の建築をそれぞれ行った。

 途中、一度追跡魔法でコハクとルリの様子を見てみると、シオジリの領域の北の端近くをウロウロしていた。

 特に問題ない様だ。

 まぁ、白龍であるコハクの心配なんて不要なのだろうけど……。


 陽が傾きだした頃には、大通りとその横道の整備はほぼ終了した。

 抜けが無いかと魔導車で空から見たところ問題無さそうだったので、ヤヨイの様子を見に行った。

 いや、シンゴ王子の邪魔しに行くんじゃ無いぞ。

 ただ、様子を見に行くんだぞ。


 そんな自己弁護をしながら向かった水道施設は、既に抜け殻だった。

 追跡魔法で探すと、既に終わって戻っている様だった。

 俺は、ヤヨイの邪魔……では無く様子見はやめにして、カリン先生達の元へと向かう事にした。

 追跡魔法で見ると、こっちはまだ作業している様だったから。


 俺が作業しているカリン先生達のところで先ず見たのは、憮然とした顔で作業をしているツバメ師匠だった。

「ツバメ師匠お疲れ様です」

 俺がツバメ師匠に声をかけると、師匠が本当に詰まらなさそうな顔でこちらを向いて愚痴りだした。

「むぅ、トモマサよ。魔素が無くならん。朝からずっと魔法を使ってるのに。昼前にはかなり減ってたのに。少し休めば直ぐに回復してしまう……。おかげで、狩りに行けん……」

 ツバメ師匠、もう限界のようだ。仕方がない。

「ツバメ師匠、これからコハク達を迎えに行くから付いてきますか? もちろん、カリン先生に許可を得てからですけど」

 俺の言葉に、今まで死んだ魚のような目をしていた、ツバメ師匠の目が輝いた。


「分かった。この壁を速攻で作って許可をもらおう。しばし待ってくれ」

 その後のツバメ師匠の動きは速かった。

 大量の魔素を込めて一気に壁を作るツバメ師匠。

 そして、ものの数分で作業は終わった。


「カリン先生、終わったのだ」

 報告にをしたツバメ師匠は、速攻で戻ってきた。

 次の作業を言われる前に離れたようだ。

 意外とチャッカリさんだった。


 魔導車でシオジリの領域内へ移動して、コハク達を探すこと数分。

 直ぐに見つかった。まぁ、追跡魔法で見てるので当然なのだが。

 それでも、幾度かだけは魔物と戦って帰った。

 肉を持って帰ると言う名目だが、本当はツバメ師匠が暴れたかっただけだ。

 まぁ、ストレスが溜まっているみたいだったので少し甘やかしてみただけなのだが。


 そして、街へと転移した。


 カリン先生達とも合流し全員で戻った領主の館では、ヤヨイとクイナさんが待っていた。

 ヨリミツお義父さん達も起きていて、座っていた。

 ちょっとシュンとしている気がする。

 アンズお義母さんに何か言われたのかもしれない。

 目を合わせると頭を下げられた。

 そして、俺達が席に着くと同時に、ヤヨイが口を開いた。

「父さん、待ってたわよ。さぁ、クイナ、詳しく話して」

 ヤヨイの言葉を皮切りに、クイナさんが捕らえられた男の尋問結果を報告する。


 男は、結構すんなり吐いたそうだ。

 9年前、スワの町に魔物をけしかけた事。

 今回、魔物の増員のために、この街にきた事。

 そして、その黒幕がオバタ伯爵である事。

 その全てを自白した。

 ただ、あのブルードラゴンについては、詳しく知らないらしい。オバタ伯爵が用意したとだけ言っていたそうだ。


 全てを聞き終えて、俺が情報を咀嚼しているところで、ヤヨイが口を開いた。

「と言う訳よ。父さん、カンラの街に行くわよ」

 突然の誘いである。いや、命令かもしれないけど、一応、ゴネてみる。

 扱き使われるのが目に見えるので。


「え? なんで俺が?」

「逆になんで行かないの? カリン先生を苦しめた張本人を捕まえに行くのよ。それとも、カリン先生の事なんて如何でもいいの?」

「そんな事、言ってないだろ!」

「なら、行くわね」

「う、分かったよ」

 やっぱり、無駄な抵抗でした。


 こうして、次に行くところが決まった。

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