第3話1.3 大変革

 俺たちは、とりあえず朝食を取ることにした。

 腹が満たされないと頭が満足に動かないからね。

 そう考えながら布団から出ようとした俺は、ある問題に直面していた。


 そう俺は真っ裸だったのだ。


 動きが止まる俺。そんな俺を、早く来てよ。と言わんばかりの目で見つめるヤヨイ。

 そして俺が口を開こうとしたときに、『パン』と手を叩く音が響いた。

「そういえば、お渡ししておりませんでした」

 言いつつ即座に服を用意してくれたアズキ。

 本当にメイドだと感心したのも束の間、俺は非常に困ってしまった。

 なぜなら、「お手伝いします」と言って服を着せようとして来たのだから。


 そんなアズキを、俺は丁重に断って部屋から出てもらった。

 ヤヨイは「着させてもらえばいいのに」と言っていたが、そんな恥ずかしいことできるはずもなく。

 全員に部屋を出てもらった。

 そして皆がいなくなった後、俺はそそくさと服を着た。

 渡された服はワイシャツにスラックスと少し堅い感じだが、過去の服装とあまり変わりのないものだった。


 部屋を出てたどり着いた食堂は、豪華ホテルのパーティー会場サイズの部屋だった。

 それに屋敷自体も想像より大きく大豪邸といっていい大きさで、一人では元の部屋に戻れないと思ってしまうほどだ。

 ヤヨイは一体何者になったのだろうか? 改めて思案してしまう。

 今着ている服も手触りからかなりの高級品だと感じさせる品出し――小学生の頃は、大人になったら保母さんになると言っていた普通の娘だった。

 中学生になってからは、反抗期に入りあまり話をしていないので知らないけど……。


 さらには出てきた朝食も豪華だった。

 屋敷が洋風だから洋食かと思いきや和食で、しかも今まで食べたことないぐらい旨い。

 米からにじみ出る旨味が違う。品種は判らないが最上級の米だろう。

 他にもキノコの澄まし汁に何かの肉の時雨煮、焼き魚、温泉卵など旅館の朝食のようで、どれもこれもうまかった。

 ただの旅館ではない、21世紀では全く縁のない高級旅館を想い起こさせる味だったのだから。

 それら豪華な朝食を平らげた後、ヤヨイと二人でお茶を飲みながら話の続きを始めた。


 『大変革』、1000年前に起こった世界異変のことは、そう呼ばれている。

 この事件、何の前触れもなく起こった。

 その原因は、次元の狭間と呼ばれる空間の亀裂が世界中に発生したことであると言われている。

 ただ、この次元の狭間、人々が落ち着いた頃には消えており詳しく調べることは出来なかったようであるが。

 それで、この狭間が何をしたかというと、近くにいた人間を吸い込み代わりに魔物と呼ばれる人を襲う生命体を吐き出したそうである。

 当然、一般の日本人が、そんな得体のしれない物に対処できるわけもなく多くの人々が犠牲になった。

 特に都心部がひどかったらしい。狭間の発生自体が都市部に集中したためだそうだ。


 後の研究で、科学的な物の量に比例しているのではないかとの考察がなされている。

 その上、魔物から逃れた人々に致命的となる災難が襲った。

 科学的なエネルギーが全く使えなくなったのだ。つまり、電気、ガス、ガソリンなどのエネルギーが使えなくなったということだ。

 家電や車ありきの生活を送っていた人間には対応できないほどの困難が世界を覆った。


「マムシ? 毒蛇で科学が滅んだのか?」

「魔の虫と書いて、魔虫(マムシ)と呼ぶのよ。父さん。魔物の一種だと分類されているけど、詳しい研究は進んでいないわ。分かっているのは、この魔虫、他の魔物と違い人間は襲わない。だけど、科学的なエネルギーを見つけると吸収して増殖するようなの。しかも、増殖が始まると止まらなくなって辺りの人工物を根こそぎ吸収してしまうから質が悪いわ。これで、たくさんの集落が滅んだわ」

 ナウ○カの粘菌みたいな魔物だな。確かに質が悪い。

「科学的なエネルギーって曖昧な感じがするが、どうやって判別している?」

「魔素が関連しているエネルギーは大丈夫だというところまでは判っているわ」

「魔素? また分からないものが出てきたな。魔法的な何か、か?」

「ええ、そう。魔法を使うために必要なもの。この魔素のおかげで人類は生き延びることができたのよ。ちなみに、この魔素も狭間から出てきたと言われているわ」


 魔法を発見したのは、次元の狭間から帰還した帰狭者だった。

 その人は物質に宿った魔素が見える能力に目覚めていた。

 そしてその魔素に働きかけることにより火を起こしたり、土を動かしたり出来ることを人々に伝えたのだが、ほとんど誰も信用しなかった。

 それでも一部の人が、藁にもすがる思いで研究を進めた。

 長年にもわたる様々な研究の結果、誰でもと言う訳ではないが魔素に働きかけることが出来る人が出てきたことにより、徐々に魔法は広がっていった。

 その後50年ほどで研究も進み、魔素量が少なくても使える魔法体系が確立するに至って、人々の間で爆発的に広がった。


 魔法は、火を起こすのすら困っていた人々にとって産業革命並みに画期的な事だったのだろう。

 魔物を直接攻撃しても良し。金属を精製し武器を作っても良し。体の傷すら治せるのだから広まらない訳がない。

 魔法の発見から1000年後の31世紀現在ではさらに研究も進み、様々な魔法が作りだされているとのことだ。

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