第33話1.33 年越し慰安旅行4

「昨日は、お楽しみだったかしら?」

 翌早朝、宿の温泉に入っていたらヤヨイが入ってきた。

「カニ食ってすぐ寝たよ。それより、ここは男湯ではないのか?」

「ええ、普段はね。でも、今は貸し切りだから、自由よ。メイド達にもそう言ってあるわ。入って来たメイド達と仲良くしてあげてね」

 またしても衝撃の事実を告げるヤヨイ。

 何て事だ、宿の風呂に入るのは危険だ。早く逃げないとと勘案していると、脱衣場の方でもの音がし出した。

 手遅れだったようだ。

 そして誰か入ってくる。


「「明けましておめでとうございます。トモマサ君(様)、ヤヨイ様」」

 シンゴ王子とカーチャ王女だった。そして、そのあいさつで思い出した。そういえば新年だったと。

「「おめでとう、シンゴ王子、カーチャ王女」」

 王子と王女共に全く隠す様子もなく立ったままの挨拶に俺とヤヨイも返す。

 そして見てしまった。

 着痩せするのか筋肉隆々の細マッチョで下半身のナニもかなりのマッチョなシンゴ王子と、既に日本人平均を上回るぐらいの発育具合を見せるカーチャ王女、二人の裸を。

 これで二人とも12歳だってんだから白人の血は恐ろしいと思わせる姿を。


「さあ、二人とも寒でしょう。湯船に浸かって。父さんが王女様をやらしい目で見ているわ」

 おい、ヤヨイ、なんてこというのだ。そもそも、真っ裸で男の前に立つなよ。王家の教育はどうなっているのだろうか?

「トモマサ様なら構いませんよ。いずれは、けっ「早く入りなさいな」……分かりました。失礼します」

 カーシャ王女の言葉の途中でヤヨイが口を挟んできて、言葉を遮られていた。いずれは、何だってんだ? と思案しているとヤヨイが口を開いた。

「全く、父さんも節操がないわね。昨日はカリン先生を酔わせて楽しんだようなのに」

「な、あれは、先生が勝手に酔っていただけだ」

 反論してみるが、全く勝てる気がしない。その後も、ヤヨイにイジイジと弄られていると。

「カリン先生、楽しそうでしたので良かったではないですか?」

 見かねたシンゴ王子が助け舟を出してくれた。

「お姫様抱っこも素敵でしたわよ。メイド達が大騒ぎでしたもの」

 と告げるカーチャ王女。

 カーチャ王女、それは、アズキに強要されただけです。とは言えず、「そうですか」と曖昧に濁しておいた。


「それにしても父さんの体、この数ヶ月ですっかり成長したのじゃない? 身長なんて、21世紀の頃と変わらない気がするのだけど?」

 そう、俺は、今成長期真っ只中だ。

 この数ヶ月で、20cmぐらい身長が伸びた気がする。

 それでも髭は生えてこないので高校生ぐらいの体だと思うけど。

「年齢どうしようかしらね。魔法学園は、12歳から入学資格があるけど……」

「15歳にしてくれよ。それなら酒も飲めるし」

 31世紀では15歳から成人だ。

 酒も飲める。中身がおっさんの俺としては酒が飲めないのは結構辛いのだ。

 目の前で、娘のヤヨイが飲んでいたりすると余計に。


「あら良いの? 成人になるなら、貴族として独り立ちする事になるわよ? 今の父さんで対応出来るかしら? 面倒なやり取りがあるのだけど?」

 う、面倒ごとは嫌だな。

 酒を取るか面倒を取るか、か。

 少し悩んで、俺は酒を諦めた。

「分かったよ。それなら、14歳って事にしてくれ。一年で優秀な部下を見つけるから」

「自分で覚えるとか言わないのね。まぁ、父さんには無理だと思うから正しい判断だけど」

 俺としても自分では全く出来る気がしない。

 学校に行けばきっといるはずだ、優秀な執事になれる人が。

「さて、私は先に上がるわね。朝は、新年祝賀会があるから時間に遅れないように。特に父さん、カーチャ王女ばかり見ていちゃダメよ」

 最後まで、言いたい事を言ってヤヨイは出て行った。

 最後の言葉にいづらくなった俺も、早々に退散した。


 部屋に戻るとアズキが待ち構えていて紋付き袴に着替えさせられた。

 31世紀での正装はこのスタイルのようだ。アズキは、メイド服のままだったが。

 しばらくすると、カリン先生とツバメ師匠が部屋に入ってきた。

 二人ともそれぞれ向日葵色地、牡丹色地の艶やかな振袖姿であった。

 髪もアップにまとめられており、普段とは違った可愛らしさを見せていた。

 ツバメ師匠は例によって完全に七五三状態であったが。

「二人ともとてもよく似合っていますよ」

 陳腐な感想だが、他に言葉が浮かばなかった。

 シンゴ王子なら上手い事言うのだろうが。

 言われた方もあまり慣れていないのか、カリン先生はハニかんおり、ツバメ師匠に至っては、真っ赤になってアウアウ言っていた。

 男に容姿を褒められた事が無い様だった。

 普段が男勝りなので仕方がないのかもしれない。

 非常に可愛い顔しているのだが、言動が悪いのかもしれない。


 間も無く新年祝賀会の時間という事で、仲居さんの案内のもと会場へと向かう。

 到着した会場では既に皆集合していた。

 ほとんどのメイドはメイド服であるが、一部振袖姿の人もいる。

 もちろん王子は紫紺の羽織袴、王女はゴージャスな山吹色の振袖姿であった。

「全員揃ったようね。それでは新年の挨拶を、ヤヨイ様、宜しくお願いします」

 メイド長の司会で新年祝賀会が始まった。

 簡単な祝賀の挨拶の後、メイドの中から振袖を来た数名が呼び出される。

 どうやら彼女らは、今年の寿退社予定者のようだ。

 ヤヨイからそれぞれに祝いの言葉と贈り物が渡されるようだ。

「別れたら戻って来なさい」

 ヤヨイが縁起でもない事を言っていた。

 後で聞いた話だが本当に戻ってきた人がいるようだった。

 誰がとはとても聞けなかったが。


 ヤヨイの挨拶の後は、お屠蘇を飲んでおせちや雑煮を食べた。

 成人した人たちはお酒を飲んでいる。

 流石にカリン先生は、断っていた。

「昨日飲み過ぎましたから」

 と言いながら。

 どうやら朝風呂の時からメイド達にかなり揶揄われたようで、お酒は控える事にしたようだ。

 少しホッとした。

 朝からあんな状態で絡まれては敵わないので。

 ただ、赤い顔したメイド達がちらちらこちらを見ているのが気になった。

 あわよくば自分もお姫様抱っことか考えているのだろうか? 落ち着かない。


 つつがなく進む祝賀会だったけど、俺は雑煮の餅を3つぐらい食べたところでお腹が大きくなってしまった。

 酒が飲めないと食事はすぐに終わってしまう。

 おかげで、酔っぱらうメイドを眺めるだけになってしまい、あまり楽しくない。

 同じようにツバメ師匠も退屈そうにしていたので話をしていると、初詣に行きたいと言い出した。

 ちょうどいた仲居さんに近くで初詣はできるかと聞くと四所神社があると教えてくれた。

 21世紀にもあった神社だ。残っているものだな。と思いながら出かけることにした。

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