第34話1.34 年越し慰安旅行5
俺、ツバメ師匠、アズキ、そしてカリン先生で初詣に出かけた。
カリン先生もお酒を断って退屈していたらしい。
メイド達に揶揄われるのにも疲れたようだ。
四所神社は宿から10分ほどの所にあった。
慣れない着物を着たカリン先生がゆっくり歩くので距離のわりに時間が掛かってしまったが、皆と新年の街をのんびり散策するのも楽しかった。
ただ、到着した神社は、すごい人だった。
その中を4人で歩いていると、道行く人が皆振り返ってくるのには驚いた。
目線がカリン先生やアズキに向けられているところから、あまりの容姿に二度見しているようだった。
ツバメ師匠を二度見している子供好きの大人たちもいたが。
神社でお参りした後、もう少しキノサキの街を散策する事にした。
早く帰っても、メイド達が宴会しているだけなので。
「あっちに市が立っているようですよ」
カリン先生が案内板を見つけて教えてくれたので、そちらに向かう事にした。
たどり着いた市はたくさんの人で賑わっていた。
温泉饅頭に温泉卵、近くで採れた野菜なんかも売っているが、やはりメインはカニである。
昨晩たらふく食べたのに見ると欲しくなるのは、庶民の心情である。
「持って帰るのは難しいのだよな。時間が止められたらいいのに。そんな鞄とかないの?」
ラノベなんかでよく出てくる魔法鞄(マジックバック)のことである。
魔法があるのだからあっても不思議ではないと思っていた。
すると。
「すごく高価ですが、有りますよ」
カリン先生が教えてくれる。
「あるのですか? 幾らぐらいするのですか?」
俺は、食い気味に反応してしまった。
「そうですね。大きさにもよりますが、金貨100枚ぐらいでしょうか? 大商人の方々などが買われて行くので一般には出回りませんけどね」
普通には売ってないのか。カニを保存できるなら金貨100枚ぐらい出すよ。くそ、もっと早く気付いていれば買って来たのに。自分の迂闊さに呆れてしまった。呆れている俺を見てカリン先生が慌てて話を続ける。
「あ、でも、トモマサ君なら時空魔法の魔法収納(アイテムボックス)を覚えられるのじゃないかな? 魔法鞄(マジックバック)買うより便利だと思うけど」
その言葉に俺は叫んだ。
「その手があったか。カリン先生、今すぐ教えてください」
図書館の本で読んだのをすっかり忘れていた。
時空魔法の本を読んだのは、まだ魔素コントロールを覚えたばかりの頃で魔法を使えるのはまだ先だと思ってので。
だが今なら属性魔法も覚えたし、時空魔法も覚えられるはず。
だがしかし。
「トモマサ君、私、時空魔法使えないのよ。適性がなくてね。時空魔法は、ヤヨイ様が得意だから聞いてみたら?」
少し恥ずかしそうに口を開いたカリン先生。
「よし、今すぐ帰ろう」
俺はカニのためなら即断即決であった。
ツバメ師匠は、まだまだ市を見たいようだったが。
「魔法を覚えたらカニ買いに来ましょう」
と言ったら、納得してくれた。師匠も王都でカニが食べられるのは嬉しいようだ。
「ヤヨイ、様、時空魔法を教えてくれ」
宿の宴会場でメイド長相手に酒を飲んでいたヤヨイの元に駆け込んだ。
思わず呼び捨てになりそうだったが、後ろにカリン先生とツバメ師匠がいる事を思い出して何とか敬称を入れることが出来た。
昨日普通に話していたから今更かもしれないけど。
「あら、初詣に行ったのじゃやないの? なんでまた、魔法を覚えようだなんて、帰ってからじゃ駄目なの?」
「今すぐに使いたい。カニのために」
俺の真剣な顔で言った言葉に、ヤヨイは深いため息をついた。
「ああ、そういうことね。アイテムボックスが使いたいのね。カニのためって子供みたいね」
子供言うな。食べ物は大切なのだぞ! と思ったが、言わないでおいた。
余計にバカにされそうだったから。
グジグジ言ったヤヨイだったが、取り敢えず教えてくれるようだ。
「帰ったら、転移魔法も覚えてもらうからね」
と念を押されたが。
どうせ覚えるつもりの魔法だったので問題ないのだが、改めて言われると何か怖いものを感じた。
ヤヨイと二人で別室に行く。貸し切りなので好きな部屋に入っても良いようだ。それなら、一人部屋にして欲しいのだが……。
そんな俺の願いをよそに、説明が始まった。
「……という感じでやってみて」
説明を聞いたが、今ひとつわからない。
「四次元なんてあるのか? どうやって認識するの?」
「父さん、考えすぎちゃ駄目よ。ド○えもんの四次元ポケットのイメージを使って魔素に命令すれば、父さんの魔素量なら出来るから。詳しくは、帰ってからね」
そんな曖昧な命令で魔素は動くのか?四次元ポケットのイメージ……魔素君よろしく。
結果的に、たった、それだけで出来ました。
「おお、何か出来た。こんな簡単なのか? これなら、誰でもできそうだな。でも、カリン先生はできないって言っていたな。何でだ?」
「父さんは、四次元ポケットで通じるけど、31世紀の普通の人には説明が難しいのよ。数学の虚数の話なんかをしないといけなくて、だから使える人は少ないわ。ああ、時間を止める命令をすることを忘れずにね」
確かに31世紀には、ド○えもんは無いな。アニメでは、22世紀に造られるのだが、その夢は叶わなかったようだ。
ちなみにアイテムボックスは、本人の魔素容量によって収納できる大きさが変わるそうだ。現在は、命令が曖昧なので容量が少ないけど、時空魔法をキチンと学んだら収納量も増えるらしい。魔素容量の格段に多い俺は、どれだけの物が入るのか全く予想が付かないとヤヨイに言われてしまったが。
まあ、どれだけ入るかは置いといて、再度、市に行った俺達がカニに甘えびにと大量の海の幸を購入したのは言うまでも無い。
買い物を終えた俺達は、浴衣に着替えてから外湯に行く事にした。
ツバメ師匠が一緒に風呂に入ろうと言ってきたが断って。
これ以上混浴イベントはいらない。
ゆっくり風呂に入りたい。
ちなみに宿の男湯をメイドに解放と言うのはヤヨイの冗談だった。
俺とヤヨイとシンゴ王子、カーチャ王女と身内だけ――王子と王女が身内とは言い難いが――の専用風呂としていたようだ。
アズキやカリン先生、ツバメ師匠も入って良いと言われたのだが流石にシンゴ王子とかち合うと恥ずかしいようなので女湯に入っていたらしい。
昨日とは違う外湯に行くと石造りの大きな風呂だった。
時間が早かったせいか人も少ない。
何より女性が入ってくる心配が無い。
のん〜びりと浸かった後、待合室で牛乳を飲む。
贅沢な時間だ。
本当は、ビールが欲しかったのだが、未成年だと売ってもらえないので諦めた。
飲酒年齢については結構厳しいようだ。
外湯から宿に帰って宴会場の襖を開ける。
すると飲み潰れたメイド達が死屍累々の様相を呈していた。
浴衣がはだけて色々なものが丸見えである。
中には何も着ていないものまでいる。
こうなると全く色気も何も無い。
そっと襖を閉じて皆で部屋に帰った。仲居さんに部屋に食事を運んでくれるように頼んで。
そうして部屋で食事を食べた後は部屋でまったりお話しをした。
女子トークについて行けない俺は、ほとんど寝ながら聞いていたが。
こうして二日目の夜は終わった。
次の日の朝、メイド達は完全復活で並んでいたがあの姿を見た後では、乾いた笑しか出てこなかった。
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