第93話2.31 パーティー3

「これ、トクガワ公爵の動きを表示しているのか?」

「何の事?」

 隣にいたカリン先生が聞いてきたので、視界の赤い点について説明する。

「それって、遺失魔法で聞いた気がするんですけど。マリ教授ご存知ですか?」

「んあ? ちょれは、ちゅいせきみゃほうだよ~。ちょうろくした人をちゅいせきしてくれるみゃほうだよ~」

 恐らく魔法の説明をしていると思うのだけど、何言っているのか分からないマリ教授。

「酔ってますね?」

「わらしは、よってないですよ~。まだまだ、きょれからですよ~」


 マリ教授、完全な酔っ払いだった。

 こういう時、酔っ払いほど酔ってないと言うんですよ。

「マリ教授は追跡魔法だと言っていると思います。対象人物の動きを捕捉する魔法で、術者が捉えた人物を一度登録すると、解除するまでどんなに遠くにいても捕捉する魔法だと言っています。登録は、複数人可能な様で、人数は魔素量に依存するそうです。他にも、登録した人物が近づくとアラートしたり、敵味方で色分けしたり出来るとも言ってますね」

 凄いなカリン先生、酔っ払いの言葉を通訳してくれるとは。


「カリン先生、よく分かりますね」

「うーん、学園の慰労会で、お酒に酔った他の先生の話を聞いているうちに分かるようになってしまいました」

 カリン先生の特技にビックリなんだけど、取り敢えず、追跡魔法のことだな。

 なかなか便利そうな魔法だ。

 味方として婚約者たち、敵としてトクガワ公爵とヌマタ男爵を登録しておいた。

 他にも味方としてヤヨイに王様、シンゴ王子、カーチャ王女を登録しておいた。

 カーチャ王女だけは、不用意に近づきたくないので、特別に、周囲10m以内でアラートがなるように設定して。


「ところで、トモマサ君、その魔法はどうやったら使えるんですか?」

「分かりません。トクガワ公爵を睨んでたら現れました」

 何の知識が役立っているのだろうか? 航空機のレーダーを模倣している様に思えるのだが、レーダーで特定の個人を判別可能な技術など思い付かない。

 監視カメラなら顔判別技術が使えるのだが、一度登録したら離れても判別可能な科学技術には記憶がなかった。

「幾つか、思い当たる事はあるのですが、ここで話すのは危険ではないですか?」

「そうですね。また、マリ教授を含めて話をしましょう」

 完全に酔っ払いのマリ教授。

 一生会わないであろう偉いさんに会うわ、勲章を貰うわで、疲れていたのだろう多分。

 ただ、こんな時だ、出てきたのが高級酒で飲みすぎただけかもしれないが。


 寮に帰る頃には、マリ教授、完全に熟睡体制であった。

 仕方がないので、ドレスを脱がして寝室に寝かせる。主にアズキにお願いしたのだが。

「アズキ、お疲れ様」

 俺がリビングでルリをもふってると、無事にマリ教授を寝室に寝かせに行っていたアズキが戻ってきた。


「トモマサ様もお疲れでしょう。お風呂になさいますか? それともお茶を用意いたしますか?」

「ああ、お茶にしよう。アズキも一緒にちょっと休もうよ」

 2人で並んでソファに座ってアズキの入れてくれた、お茶で一服する。

 ちなみにカリン先生もツバメ師匠も今日は疲れたと言って、自分の寮に帰って行った。


「ヤヨイも本当に人が悪いよね。勲章を渡すつもりなら前もって言ってくれればいいのに」

「きっと、トモマサ様を驚かせたかったんですよ」

 そう言いながら、そっと体を預けてきたので、腰を抱いてアズキを引き寄せた。

 さらさらとした黒髪から女の子特有の甘い香りがしてくる。

 普段は硬い感じでいるアズキも、2人きりの時は、かなり甘えん坊なのだ。

「今日は、何処でする?」

 寝室にはマリ教授が寝ているので、それ以外でナニしようと誘ってみる。

 その言葉にアズキは赤い顔で考えている。

 寝室でナニしても酔っ払ったマリ教授は起きない気もするが。


「それでしたら、お風呂で。今日もトモマサ様を綺麗にして差し上げます」

 実は最近のアズキ、カリン先生から体の洗い方を教えて貰い、やたらと俺の体を洗いたがるようになっていた。

 その後、俺に洗われるのも、好きなようで……。


 お風呂で、声を我慢するアズキに、俺は、また大興奮してしまった。

 反則級に可愛いのだから仕方がないんですよ。

 2人とものぼせるほど楽しんだ後、俺たちは、マリ教授が寝ているベットに滑り込んで眠りについた。

 もちろんマリ教授には気づかれないようこっそりと。


 ちなみに、後日、マリ教授から聞いた話では、追跡魔法も空間魔法の一種だそうだ。

 遠くの人を認識するために、その人から漏れている魔素を直接分析しているそうだ。

 体内の魔素は、その人それぞれに合わせ微妙に変化しているので判断可能だと言っていた。


 結果、追跡魔法に使用する魔素量が劇的に減った。

 知識の必要性を改めて認識した瞬間だった。

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