第94話2.32 試作機

 領主会議も終わり、通常の授業が始まった。

 魔導車の仕様もかなり固まり今は、外注ホンダ魔道具に試作機の作成依頼をしているところだ。

 もちろん最も重要な動力源の部分だけは研究室で自作をしているが。

「トモマサ様、夕食の準備が出来ました」

 書斎で1人、魔法盤に魔術式を打ち込んでいるところにアズキが呼びに来た。


「お、もうそんな時間か。わかったすぐ行く」

 昼から授業がなかったので5時間ぐらいはぶっ通しで作業していた様だ。

 本当なら、この作業もソウイチロウ先生達と分担したいところなのだが、魔素量の関係でなし崩し的に俺が1人でやる事になってしまった。

 普通の人なら魔法盤を1時間も起動できないので、やむをえずの分担である。

「分かりました。お待ちしてます」

 アズキの返事を聴きながら俺は切りのいいところまで作業を進めて食事に向かう。

 食堂には既にマリ教授とカリン先生とツバメ師匠が準備万端で席についていた。

「遅いぞ、トモマサ」

「お疲れ様です。トモマサ君」

「根の詰め込みすぎは良くないぞ」

 皆、其々に声をかけて来る中、席に着く。

 その後、ルリにご飯をあげていたアズキが席に着いたところで皆で食事を始めた。


「「「「「いただきます」」」」」

 今日のメニューは、パン、カニクリームコロッケ、ポタージュスープと洋風のメニューだった。

 もちろんカニは正月にキノサキの温泉で買ったマツバガニだ。

 カニシーズンはすっかり終わってるにも関わらず、最高のカニが食べられる。

 アイテムボックス様様である。

 アズキの料理の腕も相まって素晴らしい味の料理になっていた。

 そんな料理を楽しんでいる横で、マリ教授だけは1人カニミソで冷酒を嗜んでいる。

 羨ましい限りだ。

 未だ未成年の俺には一滴も飲ませてくれないのに。

 寮なのだからちょっとぐらいと思うのだが。

 カリン先生の

「未成年は飲んではいけません」

 と言う真面目な言葉に従わざるを得ないという状況だった。


「魔導車の開発は順調なのか?」

 冷酒をキュッとやったマリ教授が声をかけて来た。

「順調ですよ。週末ぐらいには、試作機が出来上がって来ると思います。ただ、やはり問題は動力で、改良には時間が掛かりそうです」

「ふむ、復活した重力魔法を動力としたのではないのか?」

「そうなんですけど、動かすのに必要な魔素量が多すぎて、恐らく俺でないとまともな距離を走れないものになりそうなんです」

「そうか、他に良い魔法あったかな……」

 俺の返答を聞いたマリ教授も考え込んでしまった。


 そう重力魔法で作った動力、ものすごく燃費が悪いのだ。

 魔法の発動と停止を繰り返すのでどうしても必要な魔素量が多くなってしまうのだ。

 インバータみたいに細やかな出力調整には最適なのだけどね。

 小さな円盤ぐらいなら良いのだが大きな車を動かそうと思うと一般人の魔素量では全く足りそうにない。

 やはり直接回転もしくは推進力を生み出す魔法を作る必要がありそうだった。


 現状は対策として魔石を結合して魔素を蓄積する電池の様なものを検討しているが、こちらもあまり上手く行っていない。

 魔素量に対して必要な魔石の量が多過ぎるのだ。

 金額と重量の面から難航している。

「一筋縄では行かないか。研究や開発という物は、時間をかけて行うものだ。私も何度も行き詰まって研究室で頭を抱えたものだ」

 マリ教授、研究室で酒飲んでるイメージがあるが、ちゃんと研究しているようだ。

 20歳で教授になるぐらいなのだから当然だが。


 夕食後、また書斎に篭ろうとしたら左右からツバメ師匠とカリン先生に腕を取られソファーに連行されてしまった。

 今日は、もう作業は禁止らしい。

 ここ数日、あまり皆の相手していないので諦めて皆でイチャイチャして過ごした。

 押し付けられるカリン先生の胸に少し欲情して顔を埋めてみたり、それを見たツバメ師匠が羨ましそうだったので頭をなでなでしてみたり、皆で寄り添ってると寂しくなったのか膝の上の乗って来たルリをモフってみたり、後片付けが終わったアズキが肩を揉んでくれて思わず「そこ、そこ」と危ない声を出してみたり、と本当に甘々な時間を過ごした。

 マリ教授だけはカニミソをアテにずっと酒を飲んでいた。

 いくら翌日が休みだからと言って飲み過ぎだと思うほどに。


 その夜、初めて皆で同じ布団で眠った。ツバメ師匠もいるし、案の定、酔いつぶれたマリ教授もいたので当然ナニもしてないけど。

 ラノベでは、こう言う時、誰が横にくるかで揉めるのがテンプレであるのだが、事前に年の順ですとカリン先生が遠慮してくれたので右にアズキ、左にツバメ師匠がが来る事で丸く収まった。

 代わりに一緒に入ったお風呂でナニして存分に可愛がってあげたので、ある意味、カリン先生の一人勝ちのような気がする。


 ちなみに、朝起きた時、マリ教授が、

「ご、5人でしたのか……」

 と絶句していた。

 即座に、ただ寝ただけだと弁明しておいたけど。

 飲みすぎて昨晩の記憶が無いらしい。

 それでも皆服着てるんだから分かるだろうと思うのだけどね。

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